追憶の彼方に宛てて

織川想子

青空に染まる

第1話 誤算、そして過ち

 男子生徒が口を閉じた後、教室からは何一つ音が生み出されなかった。そこには開いた窓から風が吹き付ける音がしていただけだった。笹山先生の顔からは表情が消え失せている。眼鏡の奥からではうかがうことのできないその瞳がどんな色をしているのか、今まで自分たちがどのように先生と接して、どのように過ちを赦してもらっていたのか、彼らは必死に思案していた。 沈黙は、自分たちがしてしまったことの大きさを彼らに示していた。

 時間が経つにつれ、じわじわと空気が重くなっていった。 生徒たちは混乱していた。 先生がゆっくりと教材を机に置く音がする。一人の生徒がすすり泣きを始めた。

 それは震えた先生の手に溢れ出る怒気を感じ取ったからだろうか? それとも手首にある、を見て自分たちのしてしまったことの重大さに気づいたからだろうか?


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