怪物のような思考で美しい言葉を話す彼女が、記憶を探す内に触れる世界の形
- ★★★ Excellent!!!
人体実験『箱庭計画』が行われたのは千年も前のこと。実験で生まれ、暴走した被験体『灰の魔人』が滅ばされたのは何百年も前。
それなのに、気が付いたら記憶を失って佇んでいたロザリィは、その千年前に親しみを感じていました。自分は被験体だった、そう思います。彼女は自ら被験体に戻ろうと『箱庭計画』を追うために、世間知らずのまま町へ下ります。まずはお金儲けをしなければ生きられません。そこで仕事を貰う代わりに依頼されたのは、治癒魔法を扱う銀髪の男を捕まえて来い、というものでした。
ここで「連れてくる」ためには対象を殺してはいけないので、殺すより厄介な仕事だと思うロザリィ。彼女の思考の一端がここで窺えます。
銀髪の男クラルテは綺麗な風体でしたが、つかみどころのない青年のようでした。クラルテはそろそろ人を訪ねに旅立つつもりだったようで、ロザリィを誘います。旅立ちの日、そこで鳴り響く街の鐘の音――何か大きな事件が起きたようでした。
対峙したそこで明らかになる世界の一端は、どろどろとしていて、不透明に感じました。
常人ではない能力を持つ二人が簡単に跳ね除けたそれは、これからの旅路の始まりとしては不穏なものです。そのおぞましさもワクワクと楽しめるのがこの物語の素晴らしいところです。
ロザリィとクラルテは言葉遊びを楽しむように会話をし、どこか気が合うように見えます。その言葉の一音一音に作者の方のこだわりが詰まっており、皮肉に笑ったり、可愛さに心つかまれたり、読み進める度に、物語に引き込まれていきます。クラルテにも過去に事情がありそうで、それを想像するのも楽しみになってしまいます。
これから彼らには出会いがありますが、その人(人?)からもたらされるものにも驚きます。ロザリィが見つけていく自分の記憶がどんなものなのかを追う度に、世界の秘密に触れていくようです。
ロザリィのように、柔らかく上品に、怪物のように殺伐とした思考で、彼女が見つけるものを一緒に目撃してください。その横にはそっと清涼剤のクラルテを添えて。
心つかまれたい方にお勧めします。面白過ぎて一気に読めてしまうと思いますよ!