第4話 『聖女』

【はしがき】

前話と同様、異世界要素が入っております。

苦手な方は、【あとがき】に簡単にまとめていますので、読み飛ばしてもらって大丈夫です!



「大丈夫か?!」


少女のもとに駆け寄り、すぐそばに膝をつく。

目線を合わせると、少女は虚ろな目でこちらを向いた。

眼の光がほとんど無くなっている。


「…………だれ?」


瞬間、更に火の手が上がり目の前の家が大きく揺れた。

危ない、直感がそう告げる。


「逃げるよ!」


「え…………」


少女を抱え、一目散に走り出す。

後ろから地鳴りのような鈍い音が響いた。

煙と熱が一気に押し寄せてくる。


「うおおおおおお!走れええええ」


文字通りの火事場の馬鹿力、めっちゃ速かった。


アレイン村の大火災は、その後、魔王軍の恐ろしさが知れ渡る契機となる。

同時に、鎮火と人命救助の功を称えられ、俺たちの勇者としての地位は、国民全体に認められた。


そして、火災の翌日。

生き残った人々の手当てが行われていた。


「お嬢ちゃん?喋らないと分かんないんだよ。ほら、自分の名前答えてみな」


「………………お婆ちゃんうるさい」


「なっ、この娘!」


そんな中、勇者パーティはというと俺が救った少女のこれからについて、話し合っていた。


「ちょっとヤーナさん!一旦落ち着きましょ?」


「だ、だがこの娘。私のことをババアと言いやがった。こんな美しい私の容姿を!」


「このくらいの年齢の子はそんなもんですよ。ほら俺だってジジイでしょ?」


少女の方に向き直り、自分を指さす。


「お兄さんはお兄さん」


「げ」


「…………ちょっと教育しないといけないようだね」


「もう!ヤーナさん勘弁してくださいよぉ」


泣きそうなエルトリンデを尻目に、少女はテトテトとこちらに近寄り、ぎゅっと俺の袖をつかんだ。


「エリーね、エリーっていうの」


「そっか!エリーっていい名前だね」


「うん、お母さんがつけてくれた」


「そ……っか」


この子の両親はもういない。

火災以前に、魔王軍の餌食になっていたらしい。


「取り敢えずエリーの今後を決めんといかんな」


ジョセフが言った。


「と言っても孤児院か他の引き取り先を探すかだよね」


「うむ。エリーどうしたい」


「エリーね、このお兄ちゃんと暮らす」


***


「ふーん、異世界で女の子と同棲ねぇ」


ポテトチップスをボリボリ食べながら、ゆかりがジト目でこちらを睨んでいる。

さっきまではパニックになっていたが、もうすっかり諦めて、今は鑑賞モードだ。


「同棲って言っても相手は、十個下だぞ?ゆかりが思ってるようなことはないって」


「どうだかねー。そのくらいの年代って年上がかっこよく見えるって言うし、実は好きになってたのかもよ?」


「あー、あはは…………」


「うわ!心当たりある感じじゃん!早く続き話しなさいよ」


「分かったよ。んー、とってもここからは同じような感じなんだよなぁ」


俺は、またあの世界の記憶を一つ一つ思い出していった。


***


「タクヤさーん、ご飯できましたよ~」


「ありがと!今行く」


火災から5年が経過した。

俺は、23歳となり既に現実世界での成人を迎えている。


「明日からまた遠征ですし、今日はちょっと豪華にしてみました!」


「おお!美味そうじゃん!」


「私は早くタクヤさんが焼いたお肉食べたいです。ほら、手洗ってきてください!」


現在、俺たちは王都の家で一緒に生活している。

王都を拠点に、魔王討伐に向けて遠征を繰り返す。

そんな日々にこの生活はひと時の癒しを与えてくれた。


ちなみに家事は、割と折半でやっています。

エリーが色々あって火が使えないので、何か火を使う料理の時は俺が自炊したりね。


「「いただきます」」


エリーの「いただきます」もだいぶ定着してきたな。


「ん~!めっちゃこのお肉美味しいです!」


「そっかそっか。ありがとな」


「はい!好きです!彼氏になってください!」


「ごめんなー、俺向こうの世界に好きな人いるから」


「うぅ………どさくさに紛れて言う作戦も失敗した」


そして、こんな感じでエリーが告白してくるのもなんか定着している。

こうやって振るのももう何回目か分からない。


「絶対、私の方が幸せにできるのに。戦いの時もタクヤさんを癒してるの私なのに」


「んー、まあそれはそうなんだけどね」


エリーは、ヤーナからその才を見出され勇者パーティのヒーラーとして活躍している。あの時、ヤーナのこととをお婆ちゃんと言ったのもその片鱗だったんだろう。


「あとどれくらいなんですかね、魔王討伐まで」


「うーん、今は魔王が支配したところを開放してる段階だからな。ジョセフ曰くあと2、3年はかかるって言ってた」


「そかー。まだまだですね」


先は長かった。


国交のない獣人の国に条約を結びに行ったり、隣国と小競り合いがあったり。

あと魔王討伐のための秘術を手に入れるために、エリーが聖女選挙に出馬したり。


本当に色々あった。

だが苦節、10年俺たちは魔王討伐を成し遂げたのだった。


***


「って感じかな」


色々省略したが、10年間の足跡を話し終えた。

自分で振り返ってみると、よく途中で折れなかったなと思う。

だって俺だけ特殊能力なかったんだからね。


「そっか……」


ゆかりはそう呟いた。


肩にかかるくらいの黒髪を手でくるくるさせながら。


「信じてくれたの?」


「んー、信じてはないよ。どうせ一年間で見てた夢の話でしょって思ってる」


「いや、夢じゃ――」


「けどね」


ゆかりは、食べ終えたお菓子の袋をクシャっと掴み、席を立った。


「拓也がそこまで真剣に話すんだもん。はい冗談で片づけていいものじゃないっていうものちゃんと分ってるよ」


「ゆかり……」


「まあ、一旦は信じてあげる。ただ、それを口実にして私の質問に逃げてるようなら……」


「なら?」


ゆかりは、ふっと笑い持っていたお菓子のゴミをゴミ箱へ投げ捨てた。


「色々あげる」


「怖?!」


「ふふっ、冗談じゃないからねー」


「余計怖いわ」


「はいはい、ちょっと私喉乾いた。自販機行ってくるね」


財布を手に取り、ゆかりはリビングを出て行った。

部屋に一人残される。


「なんか、久しぶりに思い出したな」


勇者パーティのみんな、そしてエリー。


エルトリンデは、俺と同じく元いた世界に帰った。

一方、ヤーナとジョセフは異世界に残った。

ジョセフは所帯を持ったし、ヤーナは魔法の弟子をたくさん取ってたからな。


そして、エリー。

10年間一緒に暮らした俺の……なんて言ったらいいんだろ。相棒?パートナー?

けど大切な人には変わりない。

俺の異世界での生活に光を与えてくれたのは間違いなくエリーだったから。


「あいつ、どうしてんだろうな。絶対に追いかけるって言ってたけど――なんだ?!」


背後に、久しぶりの感覚覚える。

あの世界でよく感じた魔法が行使されるときの空気の揺れ。

けど、なんか全然不安じゃない。


何もない空間が

刹那、その中から何かがこちらに飛び込んでくる。


「タクヤさん!」


「え?!エリー?!」


宙を舞う大聖女は、そのまま俺の胸に飛び込んだ。


「やったやったタクヤさんだ。タクヤさんだ!」


「エリー?どうやって?え、これ夢か?」


待って、頭がパンクしそうなんだけど。

再会の喜びと疑問が同時に来てる。

嬉しいよ、めっちゃ嬉しいんだけどさ、世界を渡る方法とかあるの?マジでどういうこと?


「もー、細かい事はいいんですよタクヤさん」


「いや細かくないから!嘘だろ……?確かにさっきエリーのこと考えてたけど――」


「え、私のこと考えてくれてたの!」


エリーは、にまにましながら俺の胸元に頬をすりすりしている。

うーん、なんか幸せそうだしいっか…………いや良くない!


「ちょっとエリーさん?俺も会えて嬉しいんだけどさ、色々教え――」


「ていうか!タクヤさん若返ってる!」


「え?……………あ、確かに」


そっか、俺今エリーと会った時くらいの容姿だ。

最後に会ったのは、俺が向こうの世界で28の時だから、エリーからしたら若返ったように見えてるのか。


「大人なタクヤさんも好きだけど、こっちのタクヤさんも好き~大好き~」


かく言うエリーは、確か今18歳。

こちらの世界では高校三年生に当たる年だ。


ただその姿は大人っぽく、まばゆい金髪を腰のあたりまで伸ばし、修道服に身を包んでいる。


「ありがとう、うん。本当にありがとうなんだけど、ちょっと離れた方が良いかもしれない」


「え、なんでですか!あっちの世界ではよくしてたじゃないですか!」


「そうなんだけどね、俺もこの感触をもうちょい味わいたいんだけど。ちょっともうそろそろ帰ってくるというか」


ガチャリと音がした。

ギーっとドアが開いた。

トントントンと廊下を歩く足音が聞こえてくる。

そして、ガチャンと物が落ちる音がした。


「誰よ、その女」


うん、まあこうなるよね。


【あとがき】

読んで頂きありがとうございます。

次話は『プロローグ+修羅場の行く末』です。


タイトル回収になりますが、プロット的にはまだ導入が終わったくらいですので、全然終わりません!


少しでも先が気になるという方は、是非フォローをお願いします。

また更新の励みになりますので★での評価、応援コメントもしていただけると嬉しいです!


*異世界描写が苦手な方へ

・エリーを火災から救い、同棲開始

・なんやかんや魔王を倒し帰還

・エリー、現実世界に現われる

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