第3話 『召喚』

【はしがき】

異世界要素が入っております。

苦手な方は【あとがき】に簡単にまとめていますので、読み飛ばしてもらっても大丈夫です!



「……………………え?」


ゆかりは、水を差されたのかポカンと固まっている。


そりゃそうだ、ずっと寝てて退院したばかりの人が、「異世界行ってました」って言ってるんだから。


「信じられないと思うけど聞いてくれ」


俺は、一つ一つ思い出しながら、言葉を紡ぎ始めた。


***


「この世界で魔王を討伐してくれ」


ドラマやアニメでしか見ない所謂『王座の間』

そこで、俺たち4人は国王にそう告げられた。


頭が真っ白で上手く言葉が咀嚼できない。

全身が冷たく、震えているのを感じる。


横に目を向けると、同じく転移させられた者達がいた。


耳の長いエルフ?のような者

2メートルを優に超える巨体を持つ者

魔女のような帽子を被り、手に杖を持っている者


始めて種族というものを実感した瞬間だった。


「私達を勝手に呼んでおいて、それで頼み事かい?馬鹿げてるにもほどがあるよ」


杖を持つ女性が王に向かって叫んだ。

周りにいる従者たちは騒めているが、王は表情を変えず口を開く。


「……そなた達がそう思うのもしょうがない。場所を移そう」


王の一言に、従者が道を作り、俺達もそこに続く。


新たに部屋に入ると、王は「誰一人入れるでない」と命を出し、こちらを向き――深く頭を下げた。


「本当に……申し訳ない!」


エルフの女性が、ハッと息をのみ口に手を当てた。


そこからは王から事情が語られた。


魔王が現れたこと。

その魔王軍からの攻撃により、少しずつ被害が出ていること。

そして国力に乏しく、兵を十分に工面できないこと。


「伝承によれば、数百年前の魔王出現時も異世界から勇者を召喚したそうだ。召喚した彼らには魔王討伐に必要な力が必ず備わっていると」


「……ふん。いけすかない」


巨体の男が口を開いた。


「国力が乏しく兵がいない?自分の国のことだろう。市民に戦わせればいいじゃないか」


「それは……出来ない」


「何故だ」


国王は苦虫を噛んだように顔をしかめる。


「民は国の宝だ。国を守るために民を出しては意味がない」


「異世界から人を取ってきて、自国の民は安全に生活?都合のいいおとぎ話だね」


杖の女性も更に加勢した。


俺も何か発言しないといけない、そう焦るが言葉が出てこない。

ずっと視界にもやがかかっている。


さっきまで朝ごはんを食べてたら、突然異世界に召喚?そして魔王を討伐してこい?

意味が分からない。本当に夢だと思いたかった…………。


***


「ちょっと拓也ストップ!さっきから何話してるのよ」


さっきまで呆けていたゆかりが、目を覚ましたのか急に突っかかってきた。

なんだよー、これからいいところなのに。


「だから異世界にいたときの話だよ。まだ10年あるうちの冒頭なんだけど」


「え……アンタ本気?また病院連れて行った方が良い?」


「本気だよ」


「でも!」


「ゆかり、とりあえず話を聞いてくれないかな」


ゆかりの肩に手を置き、気持ちを込めて語り掛ける。

勢いに気押されているのを見て、また口を開いた。


***


「ええええ、みんな凄すぎない?魔法とか力とかありえないんだけど」


異世界に召喚されて、一ヵ月が経過した。

俺たちは今、城の施設で訓練を受けている。


勿論、全てを受け入れたわけじゃない。

けど王の民を思う気持ち、そして「魔王を倒したら我が国をかけて願いをかなえる」という一言に賭けた。

どうせ遂げなきゃここで一生。ならその願いで絶対に日本に帰してもらうんだ。


「いや、そんなことないですよ。タクヤだって……その、何かいいところありますって!」


「エルトリンデ、それフォローしてるつもりかい?」


「ふん、見ろ。タクヤが固まっているぞ」


エルフのエルトリンデに、魔女のヤーナ、そして重騎士のジョセフ。

俺以外の全員が、争いが当たり前にある世界で育ち、そしてエルトリンデとヤーナは魔法が使えた。


「ジョセフ、俺どうしよう。何の取柄もないんだけど」


「タクヤは、動きが遅いわけでもなければ、投擲や打撃も力強い。確かに魔法は使えないが、この世界では上位のシーフ(盗賊)になる才はあると思うぞ」


現実で野球部だったのが、少し生きているみたいだ。


「そうです!私もそれが言いたかったんです!」と後ろでエルトリンデが喜んでいる。

白髪碧眼の美少女に褒められて悪い気はしない。むしろ嬉しい。


「ほら、今日は今から初任務だろう?とっとと準備しな」


最年長のヤーナがみんなに声をかける。

年齢はとうに三桁に達しているらしいが、その容姿は若いまま。本当の美魔女というやつだ。


「はーい」


返事をして、索敵用の道具を袋に詰める。

なんたって俺はシーフだから……………………………………町に着いた。


俺の役目はなかった。


「エルトリンデ、水は出せるかい?!」

「はい、いけます」


静かに頷くとエルトリンデの背後に数多の水球が並んだ。


「よし、私とエルトリンデは火消しに集中するから二人は残った人がいないか見回ってきて!」


ヤーナの指示を受け、俺も足を動かす。


初任務の町、アレイン村はに包まれていたのだ。


「誰かー!誰かいませんか!」


火の粉に気を付け、大きな声をあげる。

燃え盛る炎にかき消されながらも、更に俺は声を張り上げた。


そんな時だった。


瓦礫の山の前で座り込み、泣いている少女を見つけたのは。

後のとなるエリーを見つけたのは。



【あとがき】

読んで頂きありがとうございます!

次話は、『異世界編後半+エリー現実世界へ』です。


この先はずっと現実世界ラブコメですので、もう少しお付き合いください。


少しでも先が気になるという方は、是非フォローをお願いします。

また更新の励みになりますので★での評価もしていただけると嬉しいです!


*異世界描写が苦手な方へ

・異世界に飛ばされ、勇者としての命を受ける。

・拓也の力は現実世界に準拠しているため、特に魔法などは使えない。

・エリー(7)を初任務の町で、火事で取り残されているところから救い出す。

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