26.期待の武器
エーゼコルドのように片手で扱う短剣の他は
攻撃力と攻撃範囲のある大剣や
中距離で相手と距離を取りながら戦う槍、
敵を引き付けたり味方を守る大盾、
遠距離から敵を狙う弓、
魔法を増幅するための杖などがある。
より専用色の強い武器となれば
暗殺者が使う糸や針、
剣士が使う片手盾、使役者が使う鞭、
槍使いが使う投擲槍などがあり、
それらを扱うにはそれなりのレベルや
専用のスキルが必要なことが多い。
凛太郎はすでに糸生成による魔法で
糸を作ることはできるのだが、
まだ糸を完全に操るには練習が足りていない。
それに暗殺者は一対一には滅法強いが
対複数における戦闘には弱く、
複数を同時する手段が欲しい。
魔法による攻撃であればある程度の
攻撃範囲を補うことはできるが、
凛太郎はあまり魔法に向いておらず、
範囲はあっても威力に欠けることがあった。
つまりは根っからの物理派である。
「何かいい武器はないか。」
やはりそれでも弱点を補うことは
戦闘において大事なことだ。
SPを消費して魔法を覚えたり
魔法攻撃のステータスを上げるのは簡単だが、
圧倒的なステータスで押し通すのではなく、
中途半端に魔法で誤魔化すのでもなく、
武器と己の技で克服したい。
自分の弱点を努力や工夫で
強みにまで押し上げることこそ、
異世界のロマンではないか。
その熱い想いをワーグに伝えると、
彼は何やら考えを巡らせ始めた。
「なによ、私があげた武器じゃ
満足できないっていうの?」
「そういうことではないんだが……。」
日々和からは冷たい目で見られたが、
お気に入りであるが故に
ここぞという時に使いたいんだと言って
とにかく頑張ってなだめた。
凛太郎に恋愛経験はないが、
おそらくメンヘラや重い女の子と付き合うと
こういうことがよく起こるのだろう。
「これなんかどうだ。」
ワーグが持ってきたのは、
長い柄に刃がついた武器。
いわゆる薙刀であった。
薙刀はリーチが長い分攻撃範囲が広く、
その形状はまさに理想。
凛太郎の要望を満たしている。
だが、凛太郎は首を横に振った。
「ただ単純に克服したい訳じゃない。
一見無理そうに見える武器で
克服するから面白いんだ。」
もはやこの感覚は女の子である日々和にも
ドワーフであり職人であるワーグにも
分からないだろう。
凛太郎がアニメやゲームの中で憧れた、
異世界ファンタジーの熱い戦い。
男の子なら誰もが夢見る展開。
それを叶える武器は
単純な物であってはならない。
「何か、何かないか……ん?」
店の中をあちこち歩き回りながら、
凛太郎自身もいい武器を探す。
大剣、短剣、細剣、槍、盾、弓、杖、
鞭、斧、鎌、薙刀、ハンマー……。
ドワーフの武器屋なだけあって、
並んでいる武器の種類は多い。
そして、その中でも目立たない隅の方に
静かに置いてあった一筋の光。
目に留まったその輝く武器に、
凛太郎は一目惚れしてしまうことになる。
「こ、これは……!」
刀身の長さは約20センチ。
鍔もなくただ真っ直ぐなだけの刃。
その武器の種類は
鍔がないことから懐に
隠しておくのに向いており、
日本の歴史の中では暗器や
護身用の武器として使われていた。
だが、いくら暗器として優秀だとしても、
今の凛太郎の求めているのは
広範囲に攻撃ができる武器だ。
匕首では広範囲どころか
一人倒すのにしか使えない。
しかし、凛太郎の中に浮かんだ可能性は
その前提を大きく覆す。
「ワーグ、これはこの店にいくつある。」
「そうさな…100本程度といったところだ。
必要な材料も少なく作るのも楽だから、
片手間に作り続けていたら
いつの間にか溜まっていたんだ。
モンスターの解体用にと
稀に買っていく客はおるが、
たとえ安くしていても大抵の客は
見向きもせずに帰っていくような武器だ。
だがなお前さんよ、そんな武器が
一体どうしたってんだ。」
凛太郎はそこにある匕首を持ち、
なにやらこそこそと細工をする。
同じ作業を何度か繰り返すと、
店の中に置いてある試し打ち用の
木の模型に向かって、
同時に複数の匕首を投げた。
その内の何本かは見事に刺さったが、
投げた匕首のほとんどは
模型に当たりもしなかった。
しかしこれでいい。
最初から全てが上手くいくとは
凛太郎も思っていなかったのだから。
「なるほどのぉ…。
一つの武器でなく同時に複数の
武器を投げて広範囲かつ遠距離の
攻撃をしようという訳か。」
「あぁ、そうだ。」
凛太郎の中に浮かんだ一つの可能性。
それは凛太郎の弱点を埋めるための
相性のいい武器ではなく、
武器の使い方で埋めようというものだ。
そしてその方法に最も適していたのが、
飛び道具としても優秀な匕首だった。
匕首の最大の特徴である鍔のない形状は
空気抵抗を受けにくいので、
狙った場所へ飛んでいきやすい。
更に全ての匕首に凛太郎の糸を巻き付けて
自分の元へ引き寄せられるようにすれば、
より効率的に使うことができる。
さすがに今の有り様では
実戦で使えるレベルではないが。
「この武器を100本売ってくれ。」
凛太郎に迷いはなかった。
これぞ自分が求めていた武器だと、
もはや運命めいたものを感じていた。
そして、凛太郎の100本まとめ買いに
ワーグの中にある商売人としての心に
炎がついてしまったのか、
決意したように手を叩いた。
「よし、良かろう。
通常価格は1本100ゼルだが、
お前さんの買いっぷりと
その熱い情熱に免じて、
特別に100本を1000ゼルで売ってやる。」
なんて男らしいことだろうか。
いくらまとめ買いだとはいえ
桁を一つ減らしてくれるとは。
彼の商売魂に応えるためにも、
これは頑張らなくてはならない。
「ありがとう。
ワーグの期待に応えるためにも、
この技は必ず会得してみせる。」
「楽しみにしておるぞ。」
凛太郎とワーグは熱い握手を交わす。
ドワーフというのは職人で
あまりこういった熱さには
興味がないと思っていたが、
どうやらそうでもないらしい。
そして、互いを認め合い
見つめ合う二人を見ながら、
日々和はため息を吐いていた。
「ホント、男ってバカなんだから。」
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