25.ドワーフの武器屋

「1ゼルが日本円で10円くらいだから、

これで大体210万円くらいね。

この世界は物価もそう高くないし、

だらだら過ごす程度なら

一年は生活できると思うわ。」


日々和は受け取った袋から

半分程を自分の収納に入れると、

残りを凛太郎に渡してきた。

半分だから約100万円の10万ゼル。

ゼル硬貨一枚につき10ゼルなので、

約一万枚のゼル硬貨を手に入れた。

凛太郎はまだこの世界の文字を

読むことができないので

これで何が買えるのか分からないが、

とりあえず金に困ることはなさそうだ。

とはいえ、現金を持つに越したことはない。

ちょうどいらない物もあるので、

それもここで売り払っておきたい。


「王宮でもらった装備も売りたいんだが、

どこか買い取ってくれる所はないか?」


日々和曰く王宮でもらった装備は

見た目がいいだけの紙装備。

実用性がないにしても、

鑑賞用の装備としてなら

それなりに金になりそうだった。


「あれね。それならこっちに

いい武器屋があるわ。」


以前にもこの街に来たことがあるのか、

ここに来てからというもの

日々和の足取りには迷いがない。

この世界の文字や通貨の感覚も

理解しているようなので、

封印されていた期間があるとはいえ、

やはりそれなりにこの世界で

過ごしてきたのだろう。


「…らっしゃい。武器か?装備か?」


二人がやってきたのは、

看板に誰かの顔がこれでもかと

大きく描かれた店であった。

おそらくはこの店の主の顔なのだろうが、

看板のインパクトは相当に強い。

しかもその主自身も個性が強いらしく、

入店した直後に浴びせてきたのは

二択を迫る重くて渋い声であった。

だが、肝心の主の姿が見えない。

もしや凛太郎と同じように

認識を阻害する力を持っているのか。


「装備の買い取りよ、ワーグ。」


「…おぉん?」


日々和が彼の名前を呼ぶと、

ワーグはその姿を現した。

どうやらカウンターの奥にいて、

その低い背丈のせいで

隠れてしまっていたようだ。

子どものような背丈に

立派に蓄えられたヒゲ。

人族のようには見えないが、

ドワーフか何かだろうか。


「おぉ、誰かと思えば瑠流ちゃんか。

もう隠れてなくてもいいのかい。」


「さぁね、分からないわ。

でももう助けられちゃったし、

どうにでもなれって感じね。」


「ぬっはっはっはっはっはっ。

お前さんらしいじゃないか。

それで?お前さんの封印を解いたってのは

一体どんな変人なんだ?」


二人は知り合いのようで、

久々の再会に花を咲かせている。

しかし、日々和の顔を知っていて

しかもその事情まで知っているとは、

一体二人はどんな関係なのだろうか。

外見だけで想像するなら、

完全におじいさんとその孫なのだが。


「隣りにいるこの冴えない顔の男よ。」


冴えないとはなんだと思いながら、

凛太郎は彼の前でローブを煽る。

いちいち自分を主張する時に

こんなことをしないといけないのは

少々どころかかなり恥ずかしいのだが、

気づいてもらうにはこうする他ない。


「ぬぉぉっ!お前さん、いつからそこにいた…!」


凛太郎のユニークスキルのせいで

気づかれにくいとは言え、

会う人会う人にこの反応をされては

さすがに凛太郎も疲れてしまう。

そのうち慣れるのだろうが、

それはそれで虚しい気持ちになる。


「俺の名前は木瀬だ。

日々和のことを知っているのなら

詳しい説明はいらないだろうが、

俺もこことは違う世界からやってきた人間だ。

よろしく頼む。」


「ふぬ…お前さんも異郷の民であったか。

ワシはこの武器屋の主のワーグ。

見ての通り、種族はドワーフだ。

武器や装備のことならワシに任せろ。」


やはり種族はドワーフであったか。

ドワーフと言えば武器以外にも

様々な物作りに精通しているという

イメージを持っているが、

この世界のドワーフとは

どのような存在なのだろうか。


「それで…何だったかの?」


人間とは違う種族であるが故に

彼の年齢が分からないが、

すでにボケているのか。

久しぶりの顔と新しい顔を前にして

用件を忘れてしまったようだ。


「装備の買い取りをしてもらいたいんだ。」


「おぉ、そうだったの。

こっちに持ってきてくれ。」


ワーグのあとにカウンターへ行き、

そこへ例の装備を出した。

だがその装備を見た瞬間、

ワーグは険しい顔を浮かべる。

日々和が初めて見た時も

同じような顔をしていた気がする。


「……お前さん、これをどこで手に入れた?」


日々和にしたのと同じように

凛太郎は彼に説明する。


「ガートム王国か…。」


ガートムの名前を聞いたワーグは

より一層眉間にシワを寄せた。

過去に何かあったのだろうか。


「装備としての価値はゼロに近いが、

使われている装飾や宝石は

それなりに値の付く物だ。

そうだな……上下合わせて

10万ゼルといったところか。」


10万ゼルとは、凛太郎が思っていたよりも

高い値をつけてくれた。

二人の反応から察するに

ほとんど価値なんてないと思ったのだが、

王宮が用意した装備なだけあって

値段だけはそれなりの物らしい。


「なら10万ゼルでそれを売ろう。」


先程換金したお金と合わせて、

凛太郎の今の所持金は約20万ゼル。

それなりに大きな額を手にしたし、

今いるのは武器屋なので

何か武器の一つでも買ってみるか。

日々和からもらったエーゼコルドがあるが、

エーゼコルドには敏捷バフなど

色々な恩恵があるので、

普段使いにするための手頃な武器か

様々な状況に対応するための

別の武器を持っておきたい。

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