24.テートンで換金

テートンの街はいわゆる交易都市で、

実に多くの人が出入りしている。

もちろんその分警備は厳しく、

街に入る際には門で検問を受けねばならない。


「おい、フードを脱いで顔を見せろ。」


凛太郎と日々和が門に近づくと、

門に立っていた兵士が

日々和だけに武器を向けて言った。

こんなところでも凛太郎の

ユニークスキルは健在のようで、

侵入者であるはずなのに

警戒されるどころか認識もされていない。

だからなのか日々和に

睨まれたような気もするが、

気がつかないフリをした。


「これでいい?」


日々和がフードを脱ぐと、

兵士は彼女の顔をジロジロと見る。

それが彼らの仕事なのだから

仕方ないことは分かるのだが、

女の子の顔や体をそうやって観察するのは

やめた方がいいのではないかと思う。

せめて女性の兵士でも雇うべきだ。


「名前は?どこから来た?街に来た目的は?」


「名前はエブリー。ただの旅人よ。

ここに来たのは食料とか

旅に必要な物を補充するのと、

何日か宿でゆっくり休むためね。」


日々和が答えている間も

兵士は彼女から目を離さない。

いくらなんでも警戒し過ぎだろうと

楽観的なことを考える凛太郎だが、

それよりも彼女の言葉に耳を疑った。

この街に来た目的があくまでも

エルフなどの種族を売り捌いている

悪徳貴族を懲らしめるためで

正直に言えないとはいえ、

まさか偽名まで使うなんて思わなかった。

しかし、名前に日々と入っているからって

エブリーとは、些か安直過ぎないだろうか。


「いいだろう、通れ。」


何の問題もなく通れてしまった。

結局凛太郎の存在は

気づかれもしなかったし、

このスキルは潜入や調査をする上では

まさに最強の能力と言える。

無事に街に入ることもできたし、

とりあえずどこかで宿でも取ってから

ゆっくりと作戦会議をしたいところだ。


「ガートム程ではないが、

ここも賑わっているな。」


門を潜って街へ入り

住宅が並ぶ通りを抜けると、

市場のような場所が広がっていた。

多くの出店が建ち並び、

多くの人が品物を物色している。

肉や野菜などの食料品、

ナイフや剣などの武器装備、

回復薬などのアイテム類。

日用品も並んでいるので、

何か買うならこの市場に来れば

一通り揃うだろう。

だが、奴隷を売っている店は見当たらない。

闇市か闇のオークション会場が

どこかにあるのだろうか。


「木瀬ってお金持ってるの?」


色々と観察しながら歩いていると、

日々和の方から声をかけられた。

そう言われて思い出すが、

まだこの世界に来てからというもの

買い物をしたことがないので、

通貨が何なのかも分からない。


「現金はないが、魔石とか素材を売れば

宿代くらいはある……はずだ。」


王宮でアイズから受け取ったのは

装備やアイテムだけなので、

今の凛太郎は無一文だ。

しかし、ダンジョンの中でそれなりに

モンスターを倒して解体しているので、

ある程度のお金は確保できるはずだ。


「それじゃ、まずは換金しましょ。」


日々和の後ろを付いていくと、

市場から離れて建物が並んでいる通りに入り

そこにある建物に彼女は入っていく。

その建物の看板を見上げてみるが、

日本語ではないので

何が書いてあるのか分からない。

話の流れから考えるに

換金ができる場所なのだろうが、

石造りの立派な佇まいからは

行政機関のような雰囲気が漂っている。

凛太郎も彼女に続くように入り、

入口から見て左の方へ歩く。


「いらっしゃい。換金所ならここだぜ。」


そこにはいかにもな強面のおじさんがいて、

笑顔を二人を迎えてくれた。

とはいえ、彼に見えているのは

日々和一人だけだろうが。


「魔石と素材の換金お願いね。」


「あいよ。魔石は赤の箱で、

素材は青の箱に入れてくれ。」


おじさんが用意した箱は赤と青。

魔石と素材で扱い方が違うのか、

わざわざ分ける必要があるらしい。

しかし、日々和はすぐには入れずに

一瞬だけチラッと凛太郎を見る。

彼から視認されていない凛太郎では

一人で換金ができないと思ってか、

どうやら一緒に入れろということらしい。

もうすっかり凛太郎の扱い方を

理解してくれたようだ。

これが嬉しいのかどうなのか、

凛太郎は複雑な気分であった。

箱の上に手をかざす彼女の上から

凛太郎も収納魔法を使って、

魔石や素材を箱の中に入れた。


「おぉ、結構あるじゃねぇか。

お嬢ちゃんもしかして冒険者か?

女一人で冒険者とは、

何かと苦労もあるだろう。

素材も色々あるようだし、少し待ってな。」


やはり凛太郎のことは

彼の目に映っていないらしい。

いや、実際は間違いなく映ってはいる。

凛太郎のユニークスキルは

透明人間になるのとは違うのだから。

ただ気に留まらず気にされないだけ、

言ってしまえば背景と同じだ。

そこにいるのに意識されない。

それが凛太郎のユニークスキルだ。

もし凛太郎が一人で来ていたなら、

きっと認識してもらえるまで

かなりの時間と苦労を要したことだろう。

想像するだけでも骨が折れそうだ。

日々和と一緒で助かった。


「待たせたな。魔石と素材合わせて

21万6700ゼルだ。

特にレッドアナコンダの鱗は

状態が良かったからな。

高値で買い取らせてもらったぜ。」


レッドアナコンダとは

凛太郎が喰った蛇のモンスターのことで、

その鱗は頑丈な上にしなやかなことから

いい装備の材料になるらしい。


「ありがと。」


「またいい素材が入ったら持ってきな。」


お金が入った袋を受け取って、

二人はその建物を後にした。

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