20.エーゼコルド
この武器を元いた世界の
武器で例えるとするなら、
ショーテルが最も近いだろう。
大きく湾曲して先の尖った真っ黒の刀身。
刃の長さは1メートルくらいで、
柄は片手で握られる程の幅しかない。
他に大きな特徴があるとすれば、
その武器が二本であることだろう。
二本で一組となる一対の武器。
ショーテルという武器はそもそも
殺傷能力に重きを置いているので、
それが両手にあるとなれば
その攻撃性能は計り知れない。
あまりに完成されたそのフォルムに、
凛太郎は見惚れてしまった。
だって仕方ないだろう。
凛太郎だって男の子なのだから。
「武器の名前はエーゼコルド。
暗殺者だけが持てる専用武器で、
敏捷バフと気絶効果がついてるわ。」
しばらくの間見惚れていると、
着替えを終えた日々和が戻ってきて
その武器の名前を教えてくれた。
「エーゼコルド…なんていい響きだ……。」
名前の響きも確かにいいのだが、
驚いたのはその武器が持つ効果だ。
ただでさえ速い凛太郎の敏捷に
バフをかけてくれるばかりか、
気絶させる付随効果まであるなんて。
それはつまり、体を傷つけることなく
相手の意識を奪うことができるという訳だ。
モンスター相手に使うことはないだろうが、
暗殺ではなくただ相手を無力化させたい時に
重宝することになるだろう。
しかし確かにそう考えてみると、
王宮でもらった装備には
武器による効果なんて一つもなかった。
本当にただ見た目が派手な装備だったようだ。
「鎖帷子と胸当てには物理防御、
ローブには魔法防御バフと
魔力節約スキルのおまけ付きよ。」
エーゼコルドだけでなく
他の装備にもバフがあるとは。
日々和になんとお礼を言ったらいいのか。
そこで初めて凛太郎は彼女の服装を見る。
凛太郎と同じようなローブだが、
彼女の方が少し青みがかっており、
ローブの隙間から覗く足は
真っ黒で薄い布で覆われている。
ダンジョンの中なので
オシャレとは無縁な場所のはずだが、
どうやらそれは凛太郎の偏見らしい。
今はローブの前を閉じているので見えないが、
一体ローブの下は何を着ているのだろうか。
「こんなにいい装備は初めてだ。
ありがとう日々和。」
「ふんっ、どういたしまして。
その分木瀬には頑張ってもらうから、
覚悟しておくことね。」
「あぁ、任せておけ。」
二人の装備も整ったところで、
いよいよこのダンジョンから出るべく
本格的な行動を開始した。
まず最初に突破することになるのは、
凛太郎がいくら攻撃しても
ビクともしなかった岩の扉だ。
妙な模様が入っているので、
てっきり何か特別な手順や
合言葉が必要なのかと思っていたのだが、
二人でその扉の前に立つだけで
岩が勝手に道を開けてくれた。
「え、木瀬ここに来たの?」
凛太郎が何をやっても
無駄だったことを日々和に言うと、
彼女は目を丸くして驚いていた。
「前に立つだけで開く扉なのに……?」
聞けばこの岩に描かれている模様は
元の世界で言うところの
自動ドアと同じ仕組みになっているようで、
普通は扉の前に立つだけで開くらしい。
だが、ここで凛太郎は自分の
ユニークスキルを確認する。
他者からの認識を阻害し、
認知されなくなるという『無存在』。
それは生き物以外にも有効だというのか。
「なるほど…隠密の完全上位スキルね。」
相手からの認識を阻害する隠密スキル。
あくまでも阻害するだけのスキルなので、
相手が自分を注視していたりすると
簡単に破られるらしいのだが、
日々和曰く凛太郎のユニークスキルは
意識しなくとも自動で常時発動され、
たとえ相手が自分を注視していたとしても
レベル差があれば隠れることができるらしい。
日々和のように様々な魔法やスキルを持つか、
凛太郎のことをずっと意識しているような
変人でもない限りはどんな時どんな場所でも
隠れられるという訳だ。
今にして思えば、凛太郎は元の世界でも
自動ドアが中々自分を感知してくれずに
苦労することがあった。
「木瀬、ゴブリンの群れよ。
まず最初に一番大きなキングを潰しなさい。」
岩の扉を抜けてしばらく歩くと、
前方にゴブリンの群れを発見した。
暗殺者としての本領を発揮する舞台。
凛太郎のユニークスキルのおかげで
先手を取ることに成功し、
凛太郎はエーゼコルドを振り抜いた。
風切り音すらしない凛太郎の一閃。
レベルが上がっている上に
装備によるバフもあって、
凛太郎の姿はほぼ視認できない。
現れては切り、切っては消えを繰り返して
40匹はいたであろうゴブリンの群れを
たった数十秒で殲滅してしまった。
やはりエーゼコルドの切れ味は凄まじく、
どれだけ切っても鈍る気配がない。
ゴブリンがあと1000匹いたところで、
簡単に切り伏せられるだろう。
「上出来ね。それじゃ私がお手本見せるから、
木瀬も解体してみなさい。
モンスターの死体はそのままじゃ売れないけど、
必要な部分だけを切り出せば
それなりのお金になるわ。
稀に貴重なアイテムもドロップするし、
できるようになっておきなさいよね。」
「俺は魚だって捌けるんだ。
解体くらいすぐに覚えてやろう。」
エーゼコルドとは違う真っ直ぐなナイフを
日々和から受け取って、
凛太郎はゴブリンの体を切り開く。
ゴブリンの素材はほとんど金にならないが、
全てのモンスターの心臓部には
魔石と呼ばれる魔力を持った石があり、
それが主に金に変わるようだ。
更に、ゴブリンというモンスターは
他のモンスターや冒険者から
色々な物を奪って自分の物とするため、
ゴブリンの持ち物を念入りに確認する。
時にはその中に掘り出し物だってあるのだ。
「ん?日々和、これはなんだ。」
「あら、スクロールじゃない。
木瀬って運がいいのね。」
「これがスクロールか。」
スクロールとは、紙や布の巻き物で
中に様々な魔法が保存してあるアイテムだ。
それを開くと一度だけその魔法を
魔力消費なしで使うことができ、
ここぞという時の切り札として
冒険者たちに重宝されている。
中に記されている魔法にもよるが、
高い物だと一つで高級宿屋に
一ヶ月は泊まれる程になるという。
これをゴブリンが持っているということは、
持っていた冒険者はほとんど為す術なく
ゴブリンにやられてしまったのだろう。
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