21.ダンジョン

「これで六つ目の階段か。

思っていたよりも深いな。」


ダンジョンの構造は主に二種類あり、

どちらも基本的にそれぞれの階層は

階段によって繋げられている。

たまに階段ではなくスロープや

坂道になっているダンジョンもあるが、

そういったダンジョンにはほぼ必ず

大きな岩が転がってくる罠があるらしい。

それを先に知っていれば、

杉森や柑凪たちといた時に

もう少し楽に解決できていただろう。


「当たり前でしょ。

魔女の私を封印してたんだから

それなりのダンジョンじゃないと。

もし魔王に見つかっちゃったら

大変なことになるんだから。」


と言いながらも、日々和は前を歩く。

二種類あるダンジョンの構造のうち、

今凛太郎たちが歩いているのは

より高難度で強力なモンスターがいる

自然型ダンジョンである。

おおよその道と呼べる道が少なく

たくさんの石や柱が立ち並んでいるため、

多くの分岐と死角が存在しており

そのほとんどが完全に攻略されていない。

一方で、凛太郎が柑凪たちと

足を踏み入れていたダンジョンは

常識型ダンジョンと呼ばれ、

その構造はほとんどが道である。

分かれ道こそ多いが複雑ではなく、

死角が少ないためモンスターからの

不意打ちを浴びることもない。

なぜダンジョンがこのような

対極にある構造をしているのか、

その理由もダンジョンの謎であり、

多くの学者が研究をしているようだ。


「…あの大きな扉は無視していいのか?」


そして、ダンジョンの謎と言えばもう一つ。

ボス部屋とお宝の存在である。

ダンジョン内のモンスターは

どこでいつ現れるか分からないが、

ボスというのは専用の部屋があり、

更にそれを倒すと扉が開いて

色々なお宝を手に入れることができる。

しかしお宝の内容は運次第で、

伝説級の武器や装備が出る時もあれば

苦労した割に価値のない物が出る時もある。

一体どこからそんなお宝を

運んできているのかも不明で、

ボスが再度現れるクールタイムも

定まっていないらしい。


「ボス部屋のこと?

木瀬が行きたいなら行ってもいいけど、

今は経験値とかお宝よりも

外に出ることを優先したいわ。

封印されてる間の体の時間が

止まっていたとは言っても、

早く外に出てシャワーを浴びたいもの。」


今の凛太郎の実力で

ボスモンスターを相手に

どこまで戦えるかも気になるが、

凛太郎もダンジョンの中にいる時間が長いので

早く外に出て体を洗いたい。

傷やケガは治すことができても、

汚れを落とすにはまた別の魔法が必要な上に

お湯や水で体を洗うという感覚が

凛太郎たちには染み付いているのだ。

いくら魔法で清潔にしたとしても、

きちんと体を洗いたいものだ。


「その武器にももう慣れたみたいね。」


ゴブリンやオーク、リザードマンなど

色々なモンスターを倒しながら

上へ上へ目指していた凛太郎と日々和。

主に倒していたのは凛太郎だが、

日々和は初めて手にした武器を

凛太郎が使いこなせるようになるまで

見守ってくれていたようだ。


「あぁ、暗殺者用の武器だからなのか、

初めて持った時から手に馴染んでる。」


ショーテルなんて今まで見たことも

触ったこともなかったのだが、

手にした瞬間から使い方が分かった。

大きく湾曲しているだけに

普通の剣とは明らかに違うのに、

もはや手足を使うのと同じくらいには

エーゼコルドを使いこなせている。

もはや誰にも負ける気がしない。


「それなら良かったわ。」


しかし、気になることが一つある。

それはなぜ日々和がこのような

暗殺者用の武器や装備を

持っていたのかということだ。


「もらっておいてなんだが、

どうしてお前はこんな物を持っていたんだ?

どう見ても暗殺者とは思えないんだが。」


日々和自身の装備は魔法使いか

それに類する職種の物だ。

とても前衛に出て敵を狩るような

見た目に見えない上、

先程からモンスターを倒しているのは

凛太郎ばかりだ。

何か戦えない理由でもあるのか、

それならばなぜ暗殺者用の

装備を持っていたのか。


「私を解放した人に合う装備を

その場で渡して報酬にするためよ。

暗殺者の他にも剣士とか弓使い、

守り手の装備も持ってるわ。

封印されると分かった時に

知り合いに頼んで一通り作ってもらったの。」


日々和はなんてことのないように話すが、

間違いなく凛太郎に渡された装備一式は

一級品の中でも質の良い物だ。

魔王に恐れられる程の彼女に渡された物が

ただの一級品であるはずもないだろう。

しかもそれを一通り持っているとは、

彼女の持つ財力も人脈も

凛太郎の想像の遥か上をいっている。

もしこのことを事前に知らされていたら、

他の者が黙っていないだろう。

魔王なんてそっちのけで

彼女を探していたに違いない。

それほどの装備である。


「そろそろ出口へ着くわ。」


彼女と共に行動を開始して約3時間。

やっと地上へ出る扉へ辿り着いた。

久しぶりに見る太陽の光。

頬を撫でる温かな風。

穏やかな気分になる鳥の鳴き声。

全てを待ち侘びながら、その扉を開ける。

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