19.涙と装備
封印の壺から解き放たれた日々和は
倒れ込む凛太郎を支えた。
見るからにボロボロで
手足がおかしな方向に曲がっている。
一体何をすればこんなにも
ボロボロになれるのであろうか。
倒れ込むと同時に気を失った凛太郎に
回復魔法をかけて治療し、
自分の太ももの上に彼を寝かせた。
「ホント、バカな奴ね……。」
彼の寝顔に涙を垂らしながら、
彼女は幸せそうな笑顔を浮かべていた。
ここに封印されてからというもの、
いつか現れるであろう誰かを待ち続けた。
どれだけの時間が過ぎたのか分からない。
あれから何度の勇者が召喚されて、
何人の者が死んでいったのか。
そして、自分の前に現れる者が
どのような人間なのか。
全てが分からず未知数で、
だからこそ期待も不安もあった。
それがこんなにも不器用で
真っ直ぐな人だなんて、
どうして予想することができようか。
助けるなら助ける、
助けないなら助けないでいいはずだが、
彼は助けないのに助けてきた。
しかし、なかなかどうして、
彼女の目から溢れる涙は止まらない。
それだけ嬉しかったのだから。
もう永遠に外に出ることができないのかと
不安で心がはち切れそうだった。
わざわざ芝居でもするように
強がった口調を使っていたのも、
少しでも気持ちを誤魔化すためだったのだから。
「…泣いているのか。」
涙を零し過ぎたせいか、
彼は目を開けている。
だが、彼女は涙を止めることができず、
彼の目を手で覆ってしまう。
「見るな…バカ。」
こうして自分の意思で自由に
体を動かすことができるのも、
太ももに寝転がっている彼のおかげだ。
もはや感謝してもしきれない。
しかし、今はそっとしておいて欲しい。
この感情の名前を探すためにも。
――――――――――――――――――――
「最初に見た時から気になってたんだけど、
そのただ高そうなだけの装備は何なの?」
凛太郎が十分に回復して
日々和の涙も止まった後、
会話の始まりに彼女が選んだのは
凛太郎の装備についてだった。
「何…と聞かれてもな。
王宮で最初にもらった装備だ。」
煌びやかで美しい凛太郎の装備。
それらは王宮でアイズから
旅に出る餞別として渡されたものだ。
何かと聞かれたところで、
それ以上のことは答えられない。
「ふーん、王宮でねぇ…。武器もそうなの?」
「そうだ。」
収納に入れていた短剣を取り出し、
鞘から抜いて日々和に見せる。
剣先が欠けているその剣を見て、
彼女は訝しむような視線を向けた。
そして呆れたようにそっぽを向く。
「その装備も剣も捨てなさい。
代わりのやつあげるから。」
まさかそんなことを言われるなんて。
あまりに唐突なことだったので、
凛太郎は理解するのに時間を要した。
「これではダメなのか?」
王宮でもらった装備だ。
少なくとも他の装備の何倍も
価値のある代物であるはず。
しかし、日々和はこれを捨てろと言う。
それなりの理由がない限り、
到底納得できることではない。
「ダメ。本当にダメ。
それ、見た目が豪華なだけで質は最悪よ。
頭の悪いゴブリンの方が
よっぽど実用的でいい装備してるわ。
王宮でもらったって言ってるけど、
同じような物を渡されてる
木瀬の仲間たちも苦労してるはずよ。」
そんなことはないだろう、と言おうとして、
凛太郎は言葉を飲み込んだ。
凛太郎だってなんとなく察していたのだ。
武器や装備の善し悪しなんて
素人である彼には分からないが、
柑凪や杉森たちと共に旅をした
たった数時間の中で、
凛太郎の短剣、杉森の大剣、
そして何より浦野の盾は壊れた。
いくら使い方が下手といっても、
盾までもがそう簡単に壊れるはずがない。
信じたくはないが、凛太郎たちは本当に
粗悪品を掴まされていたのか。
しかしそうなってくると、
なぜアイズは勇者である凛太郎たちに
そのような品を渡したのか分からない。
苦労することになるのは必然。
更に言えば装備のせいで
死ぬことになっていたかもしれないのだ。
「…分かった。お前が言うならそうしよう。」
ここで考えていても仕方ない。
腑に落ちないことはあるが、
凛太郎にとってはアイズよりも
日々和の言うことの方が信頼できる。
彼女が変えろというのなら、
それに従っておこう。
「素直でよろしい。
それじゃここに出しておくわ。
私も向こうで着替えて来るから、
着替え終わったら声かけて。
……覗くんじゃないわよ?」
「それは覗けという意味か?」
「そんな訳ないでしょ!バカ!」
怒られてしまった。
少し冗談を言ってみただけなのだが、
どうやらお気に召さなかったらしい。
日々和も収納魔法を持っているようで、
何もないところから装備と武器を
凛太郎に投げつけるように渡してきた。
「泣き顔見られた上に
裸なんて見せられる訳ないでしょ…!
ホント、バカなんだから……!」
そして何やら小言を言っていたようだが、
それに答えるのは野暮だと思ったので
凛太郎は何も返すことはなかった。
「おぉ…。」
日々和の姿が見えなくなってから
渡された装備を見た凛太郎だったが、
思わず声をあげてしまった。
凛太郎の職種が暗殺者であることを
きちんと考慮してくれたようで、
全体的に薄く軽い装備であった。
服の下に身につける
心臓を守るための胸当て、
そして全身を包む黒のローブ。
たったこれだけの装備だというのに、
先程までしていた装備とは
何もかもが違うように思う。
具体的に何が違うのか
凛太郎本人にも言語化できないが、
これはとにかく動きやすい。
そして何より凛太郎が気に入ったのが武器だ。
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