16.日々和瑠流
「死神のようなモンスターで、
かつ両手に異なる鎌を持っているのは
ギルムルールしかおらん。
貴様が戦ったモンスターはギルムルールだ。
貴様、よく生きているな。」
どうやらあのモンスターが
名前持ちのギルムルールだったようだ。
実際、柑凪のユニークスキルがなければ
間違いなく全滅していただろう。
というか、何回か本当に死んでいる。
まさに強さの次元が違ったし、
凛太郎が生きているのは奇跡とも言えよう。
「そうか、あれが……。」
遭遇したモンスターが名前持ち。
後から聞けばただの感想だが、
もしあの時あの瞬間、
対峙しているモンスターが
ギルムルールだと知っていたなら、
きっとその名前と存在に怖気付いて
ろくに動くことができなかっただろう。
あれはそれほどのモンスターだ。
もしももう一度ギルムルールと
遭遇してしまったなら、
再び勇ましく戦うことができるだろうか。
正直なところを言ってしまうと、
今の凛太郎にそんな自信はない。
「俺の話はもういいだろう。
次はお前が話す番だ。お前は一体、何者だ。」
思わず弱気になってしまった凛太郎は、
話を逸らすように彼女に振った。
「ふむ、私か。いいだろう教えてやる。
久しぶりに人間と会えて
私の気分も上がっているからな。
人間よ、よく聞け!そして恐れよ!
私こそが世界を震撼させた偉大な魔女!
誰もが知り恐れる私の名は
はははははは!どうだ!恐ろしいだろう!」
「知らんな。」
「…………。」
「…………。」
しばし無言の時間が訪れた。
かなり壮大な前振りだったので
さぞかし有名な人間かと思ったのだが、
凛太郎には聞き覚えのない名前だった。
いや、そこに違和感を覚えるべきであった。
それは彼女の名前が日本人のそれであること。
そして凛太郎に聞き覚えがないこと。
「まさかお前…。」
凛太郎はクラスメイトの名前を
苗字だけはきちんと全員覚えている。
だが、日々和なんて名前は知らない。
しかし彼女が日本人であるなら、
自然と浮かんでくることがある。
「俺たちより前に召喚されたのか……?」
それが最も合理的で自然だ。
勇者として召喚された凛太郎たちだが、
その前例がないとは限らない。
というよりも、クラス全員がきちんと
同じ場所へ召喚されるなんて、
アイズたちが過去にも召喚を
行ってきたとしか考えられない。
そしてその過去の人間の中に
日々和がいたのだろう。
だがそうなってくると分からないのは、
なぜ勇者として召喚された彼女が
こんな場所にいるのかということだ。
まだ彼女の姿は確認していないが。
「バレてしまったか。
くく、だがそれも仕方ないか……。」
「もう芝居はいい。普通に話してくれ。」
「ふふふ、何を言っている…。
私は芝居などしておらんわ。」
根は素直な奴なのだろうか。
返事はすぐに返ってくるし親切だ。
初対面の人間相手に強がるのはいいが、
同じ異世界から召喚された人間同士だ。
そう気を張ることもないだろう。
何にしても、とりあえず彼女の姿を
きちんと目で確認しておきたいところだ。
これだけ言葉を交わしておいて、
彼女が実はもう死んでいる人間で、
ただの魂と話をしていたなんてオチは
ないようにしておきたい。
「それより、お前の姿を見せろ。
誰もいない場所で話すのも
そろそろ虚しくなってきたんだが。」
「そ、それはダメ!」
強く否定されてしまった。
何か直接会いたくない理由でもあるのか。
しかも必死になるあまりに
芝居をすることを忘れている。
しかし、ここで会ったのも何かの縁だ。
互いを知り、親交を深めるためにも
顔くらいは見ておきたいではないか。
「どうしてだ。」
「どうしてもダメなの!」
女の子がどうしてもと言うなら
どうしてもダメな理由があるのだろうが、
しかしここでお預けを喰らうのは
凛太郎の心が落ち着かない。
大人の対応をして引き下がるか、
それとも無理に喰らいつくか。
選択肢は二つに一つだ。
「そうか…それなら仕方ないな。」
根は素直でいい奴そうだが、
ここは一つ汚い手でも使おう。
女の子を相手に卑怯なことをするのは
少しばかり気が引けるが、
凛太郎の興味が勝ってしまった。
「では俺は行く。さらばだ。」
彼女が会いたくないというなら仕方ない。
ここは諦めて帰ることにしよう、
という建前を口実にして、
凛太郎は駆け出した。
「え、ちょっと、どこ行く気よ!
まだ私の話は終わってないわよ!」
彼女の声が頭に響くが、
凛太郎はどんどん加速していく。
途中で神速と影移動を使い、
完全に彼女の認識の外に出た。
しばらくは彼女の声がダンジョンに
響いていたが、すぐにそれも聞こえなくなり、
凛太郎はしめしめと心で笑った。
そして、気配察知を使って
彼女の本体の気配を探す。
彼女が生きている人間であれば、
近づいた時に見つけられるはずだ。
「まさか幽霊ではないだろうな…。」
モンスター、モンスター、モンスター。
どこを探してもモンスターばかりで、
人間の気配は全く感じない。
まさか悪い予感が的中して、
本当に彼女は死んでいるのかと
凛太郎が不安を抱き始めた時、
やっとその気配を感じ取れた。
「見つけたぞ……!」
気配を察知しただけで
その背格好も状況も分からないが、
明らかにモンスターとは違う気配だ。
入り組んだダンジョンであるだけに
すぐには辿り着けなかったが、
凛太郎はその場所に到着した。
大きな岩に塞がれているが、
中に広い空間があって
一人の人間の気配がある。
影移動であれば岩の隙間から
侵入することも可能だが、
ここは凛太郎の今の実力を測ることと
彼女を驚かせることを兼ねて、
岩を蹴り壊してみることにした。
「ふんっ。」
大きな岩は派手な音と共に崩れ、
中への道を開けてくれた。
そして中へ足を踏み入れると、
凛太郎は一人の少女を見つけた。
「あ…あ……。」
どうやら彼女は突然の出来事に
言葉を失ってしまったらしい。
しかも直接会っているというのに
彼女の声は頭に響いてくる。
だがそれよりも凛太郎が驚いたのは、
彼女の全身が壺に入っていたことだ。
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