2.異世界召喚とステータス

そこは薄暗い地下のようだった。

いや実際、地下だった。

壁にいくつか灯っている炎と

『彼女たち』が持っている炎以外に

灯りと呼べる物はない。

広々とした空間に太い柱が立ち並び、

ここで行われたのであろう儀式用の

大きな魔法陣の上に凛太郎達たちがいるので、

異世界に召喚されたのは間違いないようだ。


「い、一体どうなってんだ…?」


「ここはどこなの……?」


彼らを包んでいた光が消えて

それぞれが目の前の現実を

理解できずに困惑する中、

凛太郎を含む何人かの人間は

何が起こったのかを把握している。

ここへ来る前に凛太郎と同じように

これから行くのが異世界であることや

チートスキルを授かった者がいることを

誰かに聞かされているはずだ。

だが、把握している側の人間が

今のこの状況について説明したところで、

それを現実のこととして

受け入れられる者が何人いるだろうか。

むしろそんなことを言ってしまえば、

自分たちをこんな場所へ連れてきた

彼女たちの仲間だと誤解されかねない。

これから世界を救う勇者として

彼女たちに歓迎されることを考えれば

別に仲間だと思われてもいいのだが、

不要な情報はより大きな混乱を招く。

だから凛太郎は何も言わず、

目の前に並んでいる彼女たちが

説明してくれるのだろうと、

ただじっと佇んでいた。


「ようこそおいでくださいました。

遠い世界からいらした方々。」


まだ困惑の空気が蔓延る中、

たった一つの清らかな風が吹いた。

その風は彼らの心に安らぎを与え、

全ての不安を薙ぎ払うようだった。


「困惑されるのも無理はありません。

なぜなら貴方方はたった今、

異世界へと召喚されたのですから。」


声の主を炎が照らす。

彼女の姿はまるで天女のようだった。

揺らめく薄い金の髪は長く繊細で、

全身を純白の布で包んでいる。

薄暗い地下であるはずなのに

彼女の美しい姿はしっかりと視認でき、

男子生徒はもちろんのこと、

女子生徒や女教師までもが

その美貌に釘付けとなってしまった。

自然と不安な心を忘れて、

彼女の次の言葉を待つ。


「私はガートム王国第二王女のアイズと申します。

そして、ここはガートム王国王宮の地下、

皆様を呼ぶ召喚の儀式を行った場所。

皆様にはこれから勇者となって、

邪悪なる魔王を討ち滅ぼして欲しいのです。

世界のため、民のために、

どうか力をお貸しください。」


アイズが頭を下げると、

彼女の後ろにいた者たちも頭を下げる。

必要最低限の情報をもらった彼らは

最初は何のことだか分からない様子だったが、

次第に自分たちの状況を理解する。

ただ、あまりに突飛な現実というのは

素直に受け入れ難いものだ。


「ちょ、ちょっと待ってください。

この世界の状況はお察ししますが、

だからと言って、どうして何の力もない

僕たちがわざわざ遠い異世界から

召喚されなければいけないんですか?」


こちら側の先陣を切ったのは

クラス委員を務めている杉森だ。

杉森は初対面の相手への敬意を

忘れないように配慮しながら、

当然の疑問をぶつける。


「それは、私たちこの世界の人間では、

魔王に勝つことができないからです。

異世界からいらした貴方方には

私たちにはない特別な力が宿っており、

皆様でなければ魔王を倒すことができないのです。」


「特別な力…ですって……?」


疑問をぶつけて答えが返ってきたのはいいが、

分からないことが増えてしまった。

みんなそれぞれ自分の手のひらを

まじまじと見つめているが、

体が何かを教えてくれることはない。

だが、それはアイズがきちんと

教えてくれることであった。


「では、その証拠をお見せ致しましょう。

皆様、私と同じことをしてください。

片手の指を2本使って、こうです。」


アイズに言われるがまま、

みんな片手の人差し指と中指を

何もない空中に振り下ろした。

するとどうしたことだろうか、

パソコンのような画面が

目の前に出現したではないか。


――――――――――――――――――――


【木瀬凛太郎 Lv.1 職種未定】


攻撃 120  魔法攻撃 60

防御 100  魔法防御 100

敏捷 140  魔力    80


魔法 なし


スキル なし


ユニークスキル 無存在ゼロオーラ

他者からの認識を阻害し、認知されない。


SP 残り50


――――――――――――――――――――


こうして自分の名前が入った画面を見ると、

自分が本当に異世界に来たのだと

実感せざるを得ない。

ただその画面は本人にしか見れないようで、

周囲の反応を確認してみると

やれお前はどうなっているとか

魔法は持っているのか等言い合っている。


「今皆様に見えているのがステータスと言って、

この世界における強さの数値となります。」


ステータスの項目は名前に職種、

全6種類の基礎ステータス、魔法、

2種類のスキル、SP《ステータスポイント》の4項目となっており、

SPは基礎ステータスに振り分けるか

新たな魔法やスキルの修得に使用できるらしい。

そして、この世界の人間におけるステータスの

平均値としては基礎ステータスの合計が

200を超えれば一流と呼ばれるのに対し、

異世界から来た凛太郎たちのステータスは

初期の段階で600と50のSPがある。

単純な数字の能力値でさえ

これだけの差がある上に

ユニークスキルを持っていることもあって、

まさにこの世界の人間にとっては

凛太郎たちは勇者と呼べるだろう。


「ですからどうか、私たちの世界を

救ってはいただけないでしょうか。」


基本的なステータスの話が終わると、

アイズは再び頭を下げる。


「少し…時間をもらえますか?」


ある程度の時間も過ぎて

十分な説明をされた後ではあるが、

まだ頭の整理が追いついていない者もいる。

日本の高い技術力による

大規模なドッキリではないかという

疑念も完全には捨て切れないので、

杉森と女教師の先導の下、

場所を移しての学級会が開かれることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る