3.先遣隊
「えっと…まずは率直に。
正直、ここが異世界で俺たちが
勇者だって言われても実感が湧いてない…
って思っている人は挙手をして。」
場所は王宮の広い一室。
大きなテーブルが置いてあるので、
会議か大人数で食事をする部屋だろう。
煌びやかな装飾品の数々は
凛太郎たちの知っている物ではなく、
ここが本当に違う世界であると
見せつけられているようだった。
その部屋に集まった彼らに
杉森が第一声を投げかける。
「……29、30、31…。俺を入れて32人か。
うん、手を下ろしていいよ。」
このクラスの合計が36人なので、
ほぼ全員が手を挙げたことになる。
異世界召喚なんてものは
二次元の中にしかないもので、
現実に起こる訳がない。
手を挙げた者の多くはそう思っているだろう。
実際、凛太郎だってまだ飲み込めていないのだ。
だからきちんと手を挙げていた。
逆にこの現実を受け入れられている者が
羨ましいくらいだ。
「先生、俺たちどうするべきだと思いますか?」
「え、えーっと…。正直、こんな事態は
私の手に負えることではないので、
皆さんの気持ちを優先するべき……
じゃないかと思うかなー…。」
いくら偏差値の高い学校で
先生も優秀な人材が多いとは言え、
異世界に勇者として召喚された生徒を
正しく導くなんてことは容易ではない。
ここではもはや、学校という概念すら
機能していないのだから。
「じゃあ、何か意見がある人はいる?」
再び杉森はみんなへ呼びかける。
先生ですら導くことができないのなら、
自分たち生徒が意見を出し合って
進んでいくべきだと判断したのだろう。
そしておそらく、この場において
これ以上の選択肢はない。
「
最初に手を挙げたのは柑凪だ。
杉森と共にクラス委員を務めており、
とても頭がいいことで知られている。
「ここが私たちのいた世界とは
違う場所だっていう確たる証拠を探すために、
一度外に出てみるのはどうかな?
アイズさんたちの話が本当なら、
この国の外にはモンスターがいるんでしょ?」
ここが異世界だということを
信じきれていないのは半数以上。
ならばまずはその疑念を払うために
外へ出てみるというのは、
言われてみればいい考えかもしれない。
ただ、その案には少なからず危険が伴う。
「そうだな…いい案かもしれない。
でも、もし本当にモンスターがいて、
俺たちを襲ってきたら……。」
杉森は言葉の続きを言わなかった。
考えるだけでも恐ろしいことだから。
モンスターと聞けば色々と思い浮かぶ。
スライムやラビット程度であれば
今の彼らでも倒せるであろうが、
オークやゴーレムなどのモンスターは
戦闘経験のない彼らには荷が重い。
もしもそのようなモンスターに襲われたら、
きっと甚大な被害が出てしまう。
「それなら、強い奴らが代表して
外を見てくるっていうのはどうだ?
もしもモンスターが本当にいるなら、
そいつの体の一部でも持って帰れば
嫌でも信じるしかないし、
何人かの奴は他とは比べ物にならない
チートユニークスキルがあるんだろ?」
「まぁ、そうなるか…。」
優秀なステータス、ユニークスキルの他に
チートスキルの存在も明らかになっている。
誰が何のユニークスキルを持っているのか
確認する手段こそないが、
少なくともここにいる人間の中に
チートスキルを持っている者はいる。
ユニークスキルの内容は実に様々らしいが、
モンスター相手に簡単にはやられないはずだ。
「よし、じゃあこうしよう。
戦闘向きのスキルを持つ人たちで
外にいるであろうモンスターを1匹倒し、
体の一部か素材を持って帰る。
これからのことはそれから考えよう。」
杉森が最も合理的であろう結論を出し、
他のみんながそれに納得した。
外にいるモンスターというのが
どのような存在なのか不明な以上、
危険は常につきまとっている。
だが、彼らならやってくれるだろう。
「みんな、行ってきます。」
「全員必ず帰ってこいよ!」
杉森を筆頭に5人の先遣隊が組まれると、
アイズから受け取った装備を纏って
意気揚々と王宮を後にした。
残された者たちはその背を見送り、
会議をした部屋で待機することになる。
落ち着くためにゆったりと居眠りをする者や
未知の中にいる恐怖に震える者など、
その待ち姿はまさに人それぞれだった。
「暇だな…。」
凛太郎はチートスキル持ちでありながら、
先遣隊には名乗り出なかった。
彼の持つスキル『
本人である彼にも分からないからである。
モンスターにも認知されないとすれば、
奇襲に特化した戦闘スタイルで
活躍できるのであろうが、
ぶっつけ本番で試すのは危険すぎる。
先遣隊が持って帰ってくるのが
モンスターの一部と凛太郎の死体という
結末だけは避けなければならないのだから。
そして、ただ待っているだけでは暇なので、
凛太郎は部屋の隅の方で
筋トレに精を出すことにした。
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