第2話 希望を築こう
蓮は冷や汗をかきながらベッドの上で飛び起きた。
右手はまだ、もう存在しない武器を強く握りしめている。
腕は伸びたまま、まるでまだゴブリンを殴ろうとしているかのようだった。
心臓が激しく鼓動し、こめかみにまで脈が伝わる。
部屋は暗く、窓から差し込む月の光だけが頼りだった。
携帯の画面には「午前4時50分」と表示されている。
床にはクッションが落ちていた。きっと眠っている間に投げ飛ばしたのだろう。
外では現代の街の車の音が響く。それは、頭の中にまだ残る叫び声と炎の残響との、あまりにも残酷な対比だった。
蓮の手は椅子に座り直そうとして、震えている。あるはずのない傷の感覚による、足の幻影痛が、彼に何が起こっているのかと問う。焦げた匂いが、鼻の奥に残っている。窓を開けたかったが、それは数時間後に仕事のある大樹を起こしてしまうかもしれない。
彼はキッチンまで車輪を転がした。
蓮の心は、内なる自問自答に囚われていた。
「あれは現実だったのか?まさか…でもあの女の子が…」
あの女の子は、数年前に蓮を体の不自由にした事故で死んだ、妹の空(そら)に瓜二つだった。
「もし夢だとしたら…なぜこんなに痛むんだ?そして夢でなければ…あの子を一人にさせてしまった!」
蓮は拳が真っ白になるまで、車椅子の肘掛けを強く握った。あれは現実だったのか?ありあわせの棒のざらざらした感触が、指先に残っていた。だがここ、自分のアパートには、エアコンのブーンという音だけが、沈黙を破っていた。
答えを見つけないまま、時間だけが過ぎた。朝日がカーテンを伝って差し込み、彼を、睡眠不足で眼(まなこ)を赤くしたまま、まったく同じ姿で見つけた。
大樹は長いあくびをして起き上がり、キッチンに入ると、兄弟を見て足を止めた。蓮の姿は動揺を誘った:髪は乱れ、目はうつろで、手は震え止まらなかった。
何が起こったのか尋ねようと口を開いたが、時計が仕事に遅れることはできないと思い出させた。彼は急ぎ足で出かける準備をした。
「行ってくる」と、ジャケットを整えながら彼は告げた。
蓮がまったく反応しないのを見て、彼はやや強い調子で付け加えた。
「それと、変なことをするなよ、分かったか?」ガタンという音を立てて扉が閉まったが、それは蓮をその黙想から引き出せなかった。
不調和な時間が過ぎた後、蓮は瞬きして、まるで目を覚ましたかのように見渡した。
アニメの一種に集中しようとしたが、映像は意味もなく目の前を過ぎていくだけだった。彼の心は、助けを必要とするあの女の子と共に、別なる場所に囚われていた。
意識することなく、彼の指は携帯に「剣術の基本技法」と打ち込み始めた。
奇妙な貪欲さをもって、ビデオの講師が防御運動や、相手の隙を突く方法を説明するのを見た。
ビデオが終わると、彼は黒い画面を見つめたままだった。
「なぜ俺はこんなものを見ているんだ?」と声に出して自分に問いかけたが、私心からはその答えをよく知っていた。見覚えのある目をしたあの女の子、まだ救えるかもしれない空の姿…
苛立ちが彼を再びベッドに戻した。
「二度とは起こらない」と、目を強く瞑りながら自分に言い聞かせた。
「ただの変な夢だったんだ」。
だが、自分の考え事と戦っている間ですら、息遣いが正常になるのを、緊張が体から離れていくのを感じた。そして、気付かぬうちに、彼は再びそこにいた。手の中の棒のざらつく感じ。土と焦げた木の匂い。そして、袖における優しい引っ張り。
「大丈夫?」と女の子は震える声で尋ねた。「しばらく動かなかったよ」。
蓮は隠れ家の薄暗いさに目を慣らすために瞬きした。「ああ、大丈夫だ」と囁いた、現実の世界の記憶が煙のように消えていくのを感じながら。
そして彼は思い出しました:迫る危険を。息を深く吸い込み、あり合わせの武器の握りを確かめた。ゴブリンが彼らを襲ってくるだろう、でも、今度こそは準備ができている。
蓮はそっと隠れ家から出る、急いで。手には裂ける棒を。彼の前では、青緑色の肌をしたゴブリンが、尖った木槌を振りながら唸る。戦いは野蛮で、優雅さはない:蓮は既に弱った壁を打ち壊す一突きをかわし、そして即座に反撃し、棒をモンスターの脇腹に突き刺す。黒い血が垂れ流すが、ゴブリンは倒れない。蓮は喘ぐ、体が燃えるように熱い。一度の過ちが死を招くと知っている。
ゴブリンが素早く突入し、蓮は地面を転がって腹に木槌の衝撃を感じる。だが、止まることはできない。やけくそな動きで、ゴブリンの脚に棒を突き刺す。モンスターは苦激し、立ち上がれなくなる。
蓮は倒れた間に、ゴブリンの上に乗り上げ、傍にあった石でその頭を打ち付けた。
一つ。ひびの音は乾いたもの。二つ。三つ。腕はしばらく石を持ったままで、四つ目で落ちる。ひびの音は湿ったもの。ゴブリンは動かなくなる。
蓮は震えながら身を起こす。体は痛みを必死に叫ぶが、時間はない。更なる化け物の唸り声が近づいてくる。最期の時を覚悟する…
突然、森から裂けるような咆哮が轟く。それは人でも獣でもない。血が凍りつくような音色。潜んでいたモンスターたちは進行を止める。互いに唸り声を交わし、そして後退する。何かが彼らを呼ぶ。
蓮は祝福しない。あの咆哮が再び彼らを待つ悪夢であることを知っている。だが、今は生きている。
やがて、空が明け始めた。夜明け。赤い太陽が、まだ立ち上がる焼けた家の煙の間から差し込む。空気は灰と焦げた木の匂いがする。村人は、一時的な避難所から出る、ある者は虚ろな目で、他の者は静かな涙を流して。
女の子は震えながら隠れ家から出る。目は最初にゴブリンの死体に、そして蓮に止まる。何も言わない。その必要もない。蓮はズボンで手をこすり、そして土と乾いた血で汚れた手を差し出す、彼女は躊躇わずそれを取る。
二人は一緒に、村の残骸へと一歩を進める。風は灰を運ぶ。夜明けの最初の光が真実の恐怖を暴く:家は炭化した骸骨になり、瓦礫の下の死体、かつて生命があった場所には沈黙が。
女の子は、自分の家だったものの炭骸の前で立ち止まる。煤で汚れたドレス、半分焼けた布人形を拾い上げ、両腕で抱きしめる。
「お兄さん…私、リオラっていうの…そして、ここがウチだったんだ…」こう言うと、女の子は人形を強く抱きしめ、堰を切ったように泣き崩れた。それは、彼女が失った全てを象徴していた:お母さん、家、持っていたもの全てを。
蓮はゆっくり近づく。最初は何も言わない。リオラを見て、そして瓦礫を見る。どの言葉も彼女の痛みを癒せないと知っている。その代わり、しっかりとした、しかし優しい手をその肩に置く。女の子は反応しないが、離れもしない。
蓮はかがみ、残骸の中から半分焼けた板を拾い上げる。焼焦げの跡に親指を滑らせ、しばらくそれを見つめる。そしてリオラの前に跪き、彼女と同じ目線になり、その板を差し出す。
「彼らを取り戻すことはできない。だが、彼らを弔うことはできる」。目で、その板を指し示す。「これは、おまえの家の一部だったんだろ?」
リオラは、泣き腫らした目を焦げた木に深く据え、ゆっくりと頷く。
蓮は、彼女を直視しながら続け、提案する:「再建するのを手伝ってくれ。家だけじゃない…全てをだ。誰にも、二度と死なない村を。モンスターが俺らを恐れることを学ぶ場所を。」
リオラは驚いて彼を見つめる。彼女の指は、その板の周りを固く握りしめる。蓮は笑わないが、その瞳には固く決意した意思が宿る。
ある近隣民は、手を止めて観察している。彼らの表情は様々です:年老いた女性が言う:「子供への約束か?言葉で壁は建たないよ。」
梁を肩に担いだ男が:「少なくとも誰かに計画があるのだろう?」他の村人たちは、この二人を聞いた後、ただ沈黙を守るだけだった。
だがその時、リオラは板を胸に押し付け、頷く。小さな仕草だが、それで十分だった。蓮は立ち上がり、彼女に手を差し出す。女の子はそれを取りました。
[運命は今、彼らの道を結ぶようにした。]
囁きが止む。ある大人たちは視線を交わす。誰かが咳をする。他の者はまだ懐疑的だが、今や何かが変わった、彼らは再建を始める。
村人は、村の境の近くに浅い墓を掘る。凝った儀式をする時間はなかった。ただ沈黙、胼胝の詰まった手が粗雑な布に包まれた死体を支え、儀式なく流れ落ちる涙だけ。
蓮は村人が、まるで超自然的な努力を必要とするかのように、足を引きずって歩くのを見た。誰も死者について語らなかったが、彼らの名前は言葉と言葉の間に漂っていた。誰かが壊れたおもちゃや汚れたエプロンにつまづくと、全員が同時に視線を落とす。
少しずつ、表情は石膏の仮面となっていた:緊張した口、見えぬ瞳で見る目、痛みに対してさえ顰蹙しない眉毛。子供だけが大きく泣いていた;大人たちは、悲しみを第二の皮膚のような物理的なものに変えてしまった。
希望ではなく、それができる唯一のことであったために再建していた。梁を縛り、灰を掃くが、誰も見ていないと思うと、彼らの手は震えていた。
蓮は瓦礫の間を歩き、半壊した家の残りの前で足を止める。灰の中にあるほとんど無傷の木の梁を見る。それを取ろうと手を差し出す…
「待て!それは…それはジャレルとシリアの家だった。」
蓮は振り返る。腕に最近の火傷の痕がある40歳ほどの村人が、拳を握りながらその木を見つめている。蓮は手を下ろし、待つ。沈黙が重い。
「今全てを使わなければならないのは分かる。でも…ここは収穫祭の時に集まった場所だった。あの子が木彫りを学んだ場所だった…」蓮は邪魔をしない。痛みに語らせる。
そして、ゆっくりと、その梁の上に、男の手の横に自分の手を置く。そして言います:「では、ここが彼らの家であり続けるようにしよう。」
村人は眉をひそめる。蓮は既に同じような木が積まれた村の中心を指差す。
「壁を作ろう。各家族が自分の住まいの一部分を持ち寄る場所だ。ここに彼らの名前を彫り込む。誰も忘れないために、こうして彼らはいつまでもこの村の一部になる。」
村人は目頭の熱い目で彼を見つめる。年のように重い三秒間、沈黙がある。そして男は、何十年分の痛みを解放するかのように、嗄れた叫びと共に廃材から梁を引き抜く。その音は、他の村人を振り返らせる。その村人は、顔の埃に涙を流しながら、出席者に叫ぶ:「死者の残りを全て持って来い!友達や家族のために壁画を作ろう!」
誰かがわっと泣き始める。他の者は自分の破壊された家へと走る。蓮は笑わない。ただ頷き、梁の一方の端を担う。村人がもう一方を担う。
村中が、できる限りのことを手伝うことに集中した。ある女性が、花が彫刻された扉の欠片を加え入れる(娘のお好みの飾り)。最初に反対した同じ村人が、今や精鋭を込めた板を磨き、追悼の壁に収めます。「シリアはこれが百年続くことを望んだだろう。」
大工は、名前が彫られた板を打ち付けた。村人は自分たちのを渡すために辛抱強く待っていた。終わる頃には、村中が壁の周りにいた、彼らの表情には見つからない安息が宿り。
炭煤で汚れた手をした六歳の少年が、狼にも耳のついた棒にもなるようなまずい二線を彫る。大人たちは興味深く観察する。そして少年は終えると、彼らに言う:「ラマルさんは狩人だったから、こうして狩れるものができる」
ためらいがちな笑いがこぼれる。そしてもっと大きくなる。誰かが涙を隠しながら目をこする。その村人は少年の頭を撫でて、微笑みながら言う:「ラマルは、こんな獣を狩る栄光のために自分の家でも焼き払っただろう。狩人は彼には向いていなかった。」
更なる大きな笑いが場所を満たした。蓮は引きこみじみに観察する。攻撃以来初めて、村に笑い声が響き渡った。
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