7 王国の起源(アナザー・プロファイル)
ダルク公爵はレイの行動に激昂した。
「貴様、どこからその情報を! グレイ、この者どもを殺せ! すぐにだ!」
公爵が叫ぶがグレイは動かなかった。彼の視線はレイでも公爵でもなく、祭壇の中央に立つ建国の誓約の石板に向けられていた。王国の真実の維持がダルク公爵への忠誠よりも遥かに高い存在価値の証明となる。
ゴォッ!
グレイの身体から放たれた強大な魔力が、ダルク公爵に向けて炸裂した。
「ぐわぁぁぁぁぁっ!」
公爵は吹き飛ばされ石壁に激突した。彼は最後の砦として用意した最強の暗殺者に裏切られたのだ。
「レイ、今よ! 公爵の魔力が崩壊した。石板への改竄魔術を阻止して!」
ヴェラが叫んだ。
レイは祭壇の石板へと走り寄る。ダルク公爵が刻み込もうとしていたのは建国の誓約の真実を覆し、「王族の権力は国民の犠牲の上に成り立っている」という、偽りの歴史を永続的に王国の魔力システムに固定するための歴史改竄魔術だった。
「クロエ、公爵が魔術を刻み込んだ『周波数の亀裂』を解析! その亀裂にエリアル王女のロイヤル・クレジット魔術刻印の『逆位相コード』を上書きしてくれ!」
「了解! 絶対的な信頼の周波数を歴史の亀裂に叩き込みます!」
クロエの【絶対聴覚】が公爵の魔術の微細なエラーを捉え、レイはそこに、王女の権威を担保とするロイヤル・クレジットの逆位相魔術を瞬時に流し込んだ。
パァン!
石板に刻まれた改竄魔術は、王女の絶対的な信用によって完全に打ち消され、光の粒子となって消滅した。王国の起源は守られた。ダルク公爵は敗北を悟り、虚ろな目でレイを見つめた。
「ファントム……貴様は何者だ? なぜ私の計画を頭の中を覗いたかのように予測し破壊できる?」
レイは静かに公爵に歩み寄った。
「この王国に来たのは、ある契約のためです。私があなたの計画を予測できたのは簡単なことです」
レイは公爵の目をまっすぐに見つめ情報戦のプロフェッショナルとして冷徹な真実を告げた。
「あなたは私にとって『あまりにも論理的で、予測しやすい、古い時代のスパイ・コード』に過ぎなかった。あなたの持つ『権力への執着』という感情こそが、あなたの行動すべてを規定する、最も脆い『アルゴリズム』だったからですよ」
ダルク公爵はヴェラとグレイによって捕縛された。グレイは王室への忠誠を回復し、王女の影の眼の監視下で、改めて王国に仕えることになった。
王位継承戦はダルク公爵の完全な敗北によって幕を閉じた。エリアル王女の権威は国民の信用の回復と、歴史の真実によって、かつてないほど強固なものとなった。
レイはエリアル王女の別邸で静かに王女と向き合っていた。
「あなたは王国の未来を救った。もうただの情報参謀ではないわ。この王国にとって絶対的な切り札になったのよ」
「殿下、契約は完了しました。私はあなたを王位に就かせました。私の次の任務はなんでしょうか?」
エリアル王女は【ファントム】としての役割は終わったのではないかと問いかける。しかしレイは首を振った。
「いいえ、ダルク公爵の敗北はあくまで第一章の終結に過ぎません。王国の情報構造を解析した結果、この国の深層には、まだ未知のコードが残されています」
レイの瞳がデータ処理の光を帯びる。
「私の解析によるとダルク公爵に資金提供し、陰謀の舞台裏で王国の混乱を望んだより大きな勢力が存在します。それは王国の外部にある別の次元の情報戦争です。私の【異能解析】は世界の構造そのものを破壊するコードを僅かに捉え始めています」
エリアル王女はレイの言葉に新たな脅威の予感に震えた。
「その未知のコード……あなたはどう解析するつもり?」
レイは静かに笑みを浮かべた。
「情報戦のプロフェッショナルとして、私は常に敵が知らない敵を探します。王国の深層心理を読み解く第二章の始まりですよ」
異世界での情報戦争は、今、新たなステージへと突入する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます