16日目~20日目
16日目
昼休み、学食のトレーを持ったまま、どこに座ったか思い出せない。気づくと食器を返却していた。皿の底に薄く水が残っていて、手に取り上げた瞬間、それが吸い込まれるように消えた。食堂のガラスに外の並木道が映り、ベンチに濡れた影がひとつ。外に出るとベンチは乾いている。午後、寮の階段を上る途中で背中が冷えた。今日も風呂は長め。
17日目
図書館。窓際の席に座ってノートを広げた。向かいの窓にうっすらと自分の後ろ姿が映る。ページをめくると、映っている方の僕が動きを止めたまま、こちらを向こうとしない。腕を上げて確認すると、少し遅れて追いかけるように反応する。鏡ではなくただの窓なのに。職員が通り過ぎる音で現実に戻った。ノートの角がしっとりしていた。今日も風呂は長め。
18日目
夜、スマホの画面が濡れていた。触っても水の感触はないのに、指先に湿り気が残る。アプリを開くと、履歴が全部空欄になっている。消した覚えはない。天井の隅で水滴が光った。見上げるとすぐに消えた。夢うつつのような夜。寝る前に鏡を見ると、首筋に細い線のような赤みがあった。爪で掻いたのだろう。今日も風呂は長め。
19日目
朝、廊下で足音が自分の後をついてくる。立ち止まると静かになる。再び歩くとまた始まる。試しに急に振り返ると、窓の反射にだけ人の影。すぐに白くかすれて消えた。講義の教室で、席が一つだけ濡れていた。窓は閉まっている。ノートを置いたら紙が波打った。講義が終わるころには乾いていた。今日も風呂は長め。
20日目
夢に知らない寮の廊下が出てきた。照明が点滅していて、奥のほうに人影が立っている。顔はなく、肩から雫が落ちていた。目が覚めると同じリズムで水道の蛇口がぽたぽたと音を立てている。締めても止まらない。蛇口の下に置いたコップの水面に、蛍光灯の光が波打っていた。音が小さくなるまで見ていた。今日も風呂は長め。
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