11日目~15日目
11日目
朝、洗面所の鏡が少し斜めになっていた。誰かが触れたのだろう。顔を近づけると、背後の壁がほんのり暗く見える。振り返ると白いだけだ。講義室では窓ガラスに自分以外の肩が一瞬映り、まばたきのあいだに消えた。昼休み、食堂のスプーンが一つ足りない気がした。後ろの席に人の影が落ちていたが、椅子は空のまま。風が通り抜けるように軽い音がした。今日も風呂は長め。
12日目
天気が崩れて、小雨。傘を差して登校する途中、ガラス戸に映る自分の姿の横に、濡れた肩が重なって見えた。通りすぎた後も、水滴の筋だけが残っていた。講義が終わって建物を出ると、地面に一対の足跡が並んでいた。僕の靴と同じ形で、少し大きい。寮に戻ると廊下が湿っていて、上の階から誰かが歩く音がした。上にはもう部屋がないはずだ。今日も風呂は長め。
13日目
目覚めたらカーテンの内側に細かい水滴。窓を開けると外は快晴。手のひらを当ててみると、指の跡が曇りを追い越すように消える。授業中、教室の前の黒板がにじんで文字が読めなかった。チョークの粉が濡れていた。帰り道の地下通路で、足音が二つに分かれて響いた。僕のテンポより半拍遅い。角を曲がって確かめたが、照明がひとつ切れているだけ。今日も風呂は長め。
14日目
洗濯をした。乾燥室の中が思ったより冷たく、服を取り出すと袖がしっとりしていた。機械の故障かもしれない。寮の廊下で誰かとすれ違った気がしたが、反射した窓にしか姿がない。ガラス越しの彼は、僕より少し早く歩いている。すぐ横を通ったとき、湿った空気が肌にまとわりついた。夜、部屋の蛍光灯がわずかに明滅した。今日も風呂は長め。
15日目
午前、雨。傘をたたむと手首が濡れていた。廊下に置いた傘立てからしずくが落ちる音が止まらない。授業の途中で後ろを振り返ったら、最後列の窓際に制服姿の人影。顔が光で見えない。目をこすった瞬間、空席になった。友人に話しかけようとしたが、彼はノートに何かを書きながら、こちらを見なかった。板書の文字だけがやけに鮮明だ。今日も風呂は長め。
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