21日目~25日目

21日目


朝方、夢の中で誰かが水をかける音がした。起きてもまだ耳の奥で滴りが続いている。蛇口を確かめたが閉まっている。廊下の照明が半分切れていて、昼なのに薄暗い。講義棟までの道で、自販機の下に小さな水たまり。昨日の雨の名残だろう。缶を買って腰をかがめたら、銀色の底に空の天井が映った。泡のように揺れた。今日も風呂は長め。


22日目


天気予報では晴れのはずが、大学に着く頃には小さな霧雨。傘を持っていない学生がほとんど見えない。僕だけが濡れているような気がした。講義のあとノートを開いたら、ページの端が波打っていた。濡れた手で触ったのかもしれない。夜、部屋でイヤホンをしていると、曲の合間に小さく“しゅう”という音が混じる。水が沸くような音。今日も風呂は長め。


23日目


昼休み、図書館の閲覧席。上の階で椅子を引く音。何度も、同じリズム。誰かが立ち上がらずに引いているように聞こえる。階段を上って確かめたが、誰もいなかった。机の表面に円い跡が残っていた。まるで濡れたカップを置いたみたいに。袖口を嗅ぐと、湿った木の匂い。帰り道の空がやけに青かった。今日も風呂は長め。


24日目


部屋のカーテンを開けると、向かいの窓に自分が映っていた。手を上げると、少し遅れて動く。まるで反応を試しているみたいだった。ガラスの向こうの僕は、表情がなかった気がする。午後の講義で、教卓のそばに置かれたモップから水が垂れていた。床が黒く染みていくのを誰も気にしていない。今日も風呂は長め。


25日目


洗面所で歯を磨いていたら、鏡の奥に人が立った気がした。振り返ると誰もいない。鏡を見ると、水滴が一つだけ中央を伝っていた。授業中、ノートに書いた字が滲んだ。インクではなく紙の方が湿っているようだった。日差しは強く、空気は乾いているのに。夜、廊下を歩く足音が、ひとつ後ろで止まった。今日も風呂は長め。

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