第11話 魔界の話



 心配したが桜華は一人で入浴ができた。

 カークお爺さんから一人で入浴できるように習っていたらしい。

 だが、やはり問題が起きた。



「セイ。これどうやって着るの?」



 桜華には夜着を渡していたのだが着方が分からなかったらしく裸のまま政陽のいる寝室までやって来た。



「ぶっ!」



 政陽は慌てて桜華に近付き夜着を着せる。

 夜着を着せる時に政陽は桜華の裸をバッチリ見てしまった。

 白い肌、小ぶりだが形のいい乳房、細い腰、魅惑的な大きなお尻。



(まったく拷問もいいところだ……)



 政陽は桜華の長い銀髪をタオルで拭いてあげながらも目に焼き付いた桜華の裸がちらつく。

 桜華はまったく気にしてないようだが。



(桜華の記憶が戻ったら俺は桜華に殺されるんじゃないだろうか)



 そう思いながら政陽は髪を乾かして寝る準備のできた桜華と一緒のベッドに入る。



「セイ。何かお話して」


「お話?」


「うん、カークお爺さんは王都の話や冒険の話をしてくれたよ」



 桜華は毛布を被りながら政陽に話を強請る。



「そうだなあ。じゃあ、勉強も兼ねて魔界の話をしてあげよう」


「魔界の話?」


「そう。桜華の今いる場所は『魔界』なんだよ」


「聞かせて、セイ」



 政陽は自分の横に寝ている桜華の銀髪を軽く撫でる。



「魔界の一日は赤い月が出て始まる。夜は青い月が出る。それで1日と数えるんだよ」


「ふーん、今は青い月だよね。窓から青い光が入ってきてるもん」


「そうだね。そして魔界は『魔王』という王様が治めている。私は魔王の次の位の『大公』の地位にいる」


「たいこう?」


「そう。『魔王』とは親戚みたいなものだからね」


「ふーん。セイは偉い人なんだね。カークお爺さんは王様や王族はとても偉い人だって言ってたよ」


「桜華はよく知っているね。そして『魔界』では自分の力だけがその人物の価値を決める。力が強い者が弱い者を治める」


「力って桜華にもある?」


「大丈夫、あるよ。ただ、桜華は天族だから魔族から見ると敵に見えてしまうんだ」


「桜華は天族?」


「そうだよ。桜華には白い羽があるだろう? それは天族の証なんだ」


「でもお風呂で羽を出そうとしたら出なかったよ。桜華の羽はなくなっちゃったのかなあ」



 桜華は自分の背中に手を回して触っている。



「ああ、それは俺が術をかけたから羽が出ないだけだよ。術を解くから出してごらん」



 政陽が術を解くと桜華の背中に白い羽が現れる。



「良かったあ。桜華の羽、ちゃんとあった」



 桜華は満足そうだ。



「羽をしまえるかい?」


「うん、学校で習ったよ」


「学校?」


「天使の学校……あれ、なんで天使の学校なんて行ったのかなあ」



 桜華は何かを思い出しそうで思い出せない。



「無理に考えることはないよ。少しずつ思い出せばいい」


「うん」



 そう言うと桜華は自分で羽をしまう術を使う。



(やはり天界にいたこともあるんだな)



 政陽は桜華の様子を伺う。



「セイ。今日はもう寝ようよ」


「そうだね。おやすみ、桜華」



 政陽は桜華の額におやすみのキスをする。

 桜華はニッコリ笑うとすぐに寝息を立てて寝てしまった。



(やれやれ、これからどうなることやら)



 政陽は桜華の横に寝転んだが寝るわけではない。

 神である政陽は眠りを必要としないが夜の間は体を休めるのを目的に他の多くの種族と同じようにベッドに横になる。


 政陽の今の肉体は本体の一部を使っているため行動すればそれなりに疲労するのだ。

 完全に本体に戻れば疲労など感じない。

 それほどに神の体は強大な力で維持されている。



(今のところは虚無の気配はしない。早く「界の狭間の壺」が見つかるといいが……)



 政陽の隣では桜華がすっかり安心して寝ている。

 その様子を見ていつになく自分の心が和むのを政陽は感じた。






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