第10話 日向と流星
魔界の料理が桜華に食べれるか分からなかったが桜華は目の前に出された物は何でも食べている。
「桜華、おいしいかい?」
政陽はお酒を飲みながらつまみに出された果物を食べていた。
「うん、おいしいよ。セイは食べないの?」
「ああ、俺は普段は酒と果物しか食べない。別に食事で栄養を取っているわけではないからな」
力の強い天族や魔族は食事からエネルギーを摂取するわけではない。
彼らは直接大気中からエネルギー摂取するので本来は食事は必要ないがお酒や果物などの軽食は味を楽しむ物として食される。
だが桜華のような下級天族や下級魔族はそうはいかない。
人間同様食事からエネルギーを摂取するのだ。
「桜華はお腹すくから何でもたべるよ」
そう言って肉をナイフとフォークを使って食べている。
その様子を見ていた政陽は考える。
記憶は10歳のままだが食事の作法などは普通にできている。
きっと体が覚えているのだろう。
黙っていれば桜華は普通の令嬢と変わらない。
体も大人の女性として十分魅力を秘めている。
(これで手を出すななんてなんかの拷問か……)
政陽はお酒を飲みながら心の中で呟く。
桜華はデザートまで綺麗に食べてしまう。
体が細く見えるが大食漢のようだ。
それとも天族が魔界にいるとエネルギー消費が激しいのかもしれない。
(後で日向に訊いてみよう)
日向も天族だ。エネルギー消費のことはあまり考えたことはなかったが日向は力が強いせいか政陽たち同様にお酒や軽食しか食べない。
それでも日向は子供の頃は桜華と同じく普通に食事をしていた時期がある。
日向は天帝飛翔の隠し子だ。
飛翔に子供はいないとされているがそれは正妃との間に生まれた子供はいないというのが正しい。
飛翔は日向の母親の女性に出会った時に正妃がいた。
だが二人は愛し合い日向が産まれる。
飛翔が基本的に子供を作らないのは後継者争いで揉め事が起こらないようにするためだ。
九曜が子供をわざと作り後継者争いをさせているのとは正反対だ。
母親は日向を産んだあとにすぐに亡くなった。
そして飛翔は政陽に頼んで日向を政陽に預ける。
政陽は子育ては初めてだったが無事に日向は育った。
日向に飛翔の子供であることを隠さず話したが日向は「自分の親は育ててくれた政陽様だけです」と言い今は政陽の側近となっているのだ。
もし日向が天界に戻ったとしても日向の居場所はない。
天帝の子供だと言っても飛翔は認めないだろう。
だったら自分を育ててくれた政陽に仕えたいというのは自然の流れだったのかもしれない。
幸いにも日向は力が強かったため魔界でも十分魔族とやり合える。
しかし普段は神霊宮にいることが多い。
やはり天族は魔界では目立つのだ。
九曜も日向の存在は知っているが一言「自分の子供でもないのに厄介者を押し付けられたな」と言っただけ。
政陽は日向のことを厄介者と思ったことはない。
日向はいろんな気配りもできるし日向がいれば安心して神霊宮を留守にできる。
だから政陽の外出に連れて行くのは専らもう一人の側近の流星だ。
流星も子供の頃怪我をしていたところを政陽が助けて以来、政陽のことを慕い側近となった。
流星は「魔天族」だ。
魔天族は少数しか存在が確認されていない謎が多い魔族だ。
元々は天族だったものが罪を犯し天界から追放されて魔界に住んだとも言われている。
別名「堕天使族」とも言われる。
ただ魔力は他の多くの魔族の中でも抜きん出て強い。
そのこともあり政陽は流星が側近になることを許した。
「食事が終わったらお風呂に入って今夜は寝ることにしよう」
桜華が食べ終わったのを確認して政陽はそう言葉をかける。
「うん! 今日は疲れたから寝る」
桜華は無邪気な笑顔でそう答えた。
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