第9話 桜華の部屋
桜華の部屋の用意ができたというので政陽は桜華を部屋に案内した。
部屋は政陽の奥方用にできているので白い色を基調にした家具が置いてある明るく女性向きの部屋だ。
リビングの他にお風呂もついている。
衣装ダンスには女性用の服と下着類も揃っている。
魔界の衣装は布をたっぷり使った体に巻き付けるように着る服が主流なので体のサイズを気にせず調整ができるものだ。
色は基本は黒系が多いが種族によって好みの色があるのでこの部屋に置いてある衣装は白や赤や青など様々な色の衣装がある。
現在は政陽に妻はいないし囲って寵愛している女性もいないのでこの部屋は基本的に使われていない。
だがここまでいろんな物が揃っているのは日向がいつでも政陽が奥方になる女性を連れて来てもいいように配慮しているからだ。
衣装も数年に一度総入れ替えをする。
その時の流行りの服という物があるからだ。どれだけ豪華な布を使用していてもデザインが古ければ政陽の隣に立つ女性として相応しいと言えない。
大公は魔界において魔王の次の位にある。
政陽の正体を知らない者たちでも魔界の者で大公を知らない者はいない。
政陽は桜華にこの部屋の物は自由に使用していいと伝えた。
桜華はキョロキョロしながら部屋を歩き回る。
「セイ。この扉は何?」
桜華が自分たちが入ってきた扉と反対側にある扉を指差す。
「こっちは寝室だ。入ってごらん」
桜華は扉を開けて隣の部屋に入る。
寝室は真ん中に天蓋付きの大きなベッドが置いてある。
寝室は落ち着いた薄い青色を基調にした造りだ。
桜華はこんな大きなベッドを初めて見た。
ベッドの上に座ってみる。
「ふかふかだね、セイ」
桜華はニコリと笑った。
その笑顔に思わず政陽はドキリとする。
桜華と出会って初めて見た桜華の笑顔だ。
純粋に喜びが分かる笑顔。
「ここでセイと寝るんでしょ?」
「ぶっほぉ!」
桜華の無邪気な言葉に政陽は思わず咳込んだ。
「大丈夫? セイ?」
大きな青い瞳で政陽を見ながら桜華が声をかける。
桜華は今10歳の子供の記憶しかない。
他意があった発言ではないと思いつつ政陽は内心焦る。
「コホンッ!」
政陽の後ろに控えていた日向がわざとらしく咳払いをした。
日向の金の瞳は「どうするんですか?」と政陽に問いかけている。
政陽は一呼吸おいて桜華に答えた。
「桜華。このベッドは桜華が一人で寝るんだよ。それとこれから男の人に気軽に『一緒に寝よう』と言ってはいけないよ」
「桜華、一人で寝たことない。いつもカークお爺さんが一緒だった。カークお爺さんは男の人だったよ?」
「それはカークお爺さんは特別で桜華の家族だったからさ。大人になると一人で寝起きをしなくてはいけないんだ」
「セイは桜華のパパじゃないの?」
桜華は急に不安そうに青い瞳に涙を浮かべる。
(ああ、こんな時はなんて言えばいいんだ?)
政陽は背中に突き刺さる日向の視線を感じていた。
「桜華ちゃんは政陽様とご一緒に寝たらいかがですか? どうせ隣の寝室は政陽様と奥方様の寝室なんですから」
日向の声は完全に諦めを含んでいた。
「日向……」
政陽が日向の顔を見ると日向の顔には「あなたの負けです」と書いてある。
「はあ……桜華、こっちにおいでもう一つ隣の部屋に行こう」
そう言って政陽はもう一つの扉を開き桜華を呼ぶ。
桜華は政陽に続いて隣の部屋に入る。
そこにはさっきのベッドより大きなベッドがある。
「今日はここで私と寝よう。でも私が留守にするときはさっきのベッドで一人で寝るんだよ。分かったかな?」
「うん! 分かったよ、セイ」
桜華は満面の笑みで答えて政陽に抱きつく。
そんな桜華の銀髪を撫でながら今夜からの苦行に自分は耐えられるだろうかと政陽は心の中で呟く。
「とりあえず夕食を食べよう」
誘惑に負けそうな思考を振り払い政陽は桜華を食堂に連れて行った。
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