鏡
真夜中のトイレは用を足して出る瞬間が1番怖いと思います。
うちの洗面所には鏡があるんです。
うちのって言うか、大抵はどこの洗面所にもありますよね。
洗面台の反対側に風呂場があって、洗面台の鏡に、ちょうどお風呂の扉が映る様になっているんです。
トイレから出て手を洗う時、どうしても鏡ごしの顔と正面から向かい合う事になるでしょう。
私ね、子どもの頃に一度だけ、鏡越しのその扉に、手形が付いているのを見たんです。
まるで、誰かが中から叩いたみたいに沢山。
ありがちなおばけ像なんですけど、それ以来、鏡が怖くて。
だって、また手形が映るかもしれないじゃないですか。
私が顔を上げないように注意しながら手を洗っている時、私の後頭部が写った上に別の世界の何かが映っているかもしれないじゃないですか。
だからね、何か映るかもと思うと、反射する物は皆んな怖くて。
見て下さい、このスマホ。
画面をね、割っちゃうんです。スマホって、結構反射するでしょう。
私の顔が映った時、その黒目の中に何か怖いものが映るかもしれないじゃないですか。
それが嫌なんです。
日本ってどこを歩いても鏡だらけでしょう?
ガラスや金属だって顔が写るし、結構苦労するんですよ。
できるだけ考えないようにしてますけど、たまに、私が見てない鏡にも何か違う物が映されているかもって所まで考えが行き着いちゃうんですよ。
そうなるともう一日中そればかり考えちゃって、泣きたくなりますね。本当に。
え?お風呂?
お風呂は怖くありませんよ。
鏡が怖いんです。
私ね。大人になって気付いたんですよ。
あの手形、お風呂の扉に付いてたんじゃなくて、あの扉が写った鏡の中に付いてたんだって。
だから鏡が怖いんだって。
鏡の向こうから怖いものが、叩いてるんです。
あの薄いガラスがもし割れたらどうなるんですか?
先生、今日は何をするんですか?
ばくろ?ばくろって何ですか?もう言いましたよ?
え、……ちょっと、止めてくださいよ。
嫌だって、言ってるじゃないですか。
先生なんか映ってても良いですよ、どうでもいいです!
だから!私に向けないで下さい……!写ったらどうするんですか!?
ええ、どうもありがとうございました。
お陰様で、なんだか生まれ変わった気分だわ。
やっと胸を張って外に出られる。
私の人生を取り返さなくちゃね。
じゃあ、バイバイ。
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