第27話 忘れかけたもの

雷牙と刃とのコラボから二週間後。


拓真は、毎日のようにVTuber週間ランキングをチェックしていた。


一位:日里燈&東遊里

二位:赤羽雷牙&黒崎刃


「まだ、一位か……」


拓真は呟いた。


でも、ポイント差はわずかだ。


「油断できないな……」


拓真は不安だった。


***


その日の夜。


拓真は、配信の企画を考えていた。


「もっと過激な企画が必要だな……」


ノートに、色々なアイデアを書き込む。


24時間耐久配信、危険なゲームチャレンジ、炎上覚悟の企画。


「これくらいやらないと、雷牙と刃に勝てない……」


拓真は焦っていた。


コンコン。


ドアがノックされた。


「拓真、入るよ」


凛が部屋に入ってくる。


「何してるの?」


「企画考えてる」


拓真はノートを見せた。


「……拓真」


凛の声が、冷たくなった。


「これ、本気で言ってるの?」


「え?」


「24時間耐久配信? 前やって、体調崩したでしょ」


「でも……」


「危険なゲームチャレンジ? 炎上覚悟の企画?」


凛は呆れた顔をした。


「拓真、何考えてるの」


「だって、雷牙と刃に負けたくないし……」


「だからって、こんな企画……」


凛は首を振った。


「私たちらしくない」


「でも……」


「拓真」


凛は拓真の目を見た。


「また、忘れかけてるよ」


「え?」


「初心を」


凛は真剣な顔で言った。


「私たち、楽しいから配信してるんでしょ? 視聴者と笑い合いたいから、配信してるんでしょ?」


「……」


拓真は黙り込んだ。


「ランキングのために配信するの?」


「……違う」


拓真は項垂れた。


「ごめん……また、焦ってた……」


「わかればいいよ」


凛は優しく言った。


「私たちは私たち。雷牙と刃は雷牙と刃」


「競争は大事だけど、自分たちらしさを失ったら意味ないよ」


「……そうだな」


拓真は笑った。


「ありがとう、凛」


「どういたしまして」


凛も笑った。


***


その日の夜。午後八時。


配信開始。


「はーい! みんなこんばんは! 日里燈だよー!」


「東遊里です」


『きたああああ』

『今日も楽しみ!』


「今日はですね、いつも通り視聴者参加型のゲーム大会やります!」


燈が元気に宣言する。


「特別な企画とかじゃなくて、いつも通り」


「それが、私たちのスタイルだから」


遊里が笑った。


『いいね』

『それが燈と遊里だ』

『変わらないでね』


「ありがとう! じゃあ、今日も楽しくやっていこう!」


ゲームが始まる。


今日はマリオカート。


「よし、今日は絶対勝つ!」


燈が意気込む。


「燈、何回同じこと言ってるの」


「今日は本気だって!」


「いつも本気でしょ」


「いつも以上に本気!」


「意味わかんない」


「わかれよ!!」


『もう喧嘩www』

『安定してる』


レースが始まる。


最初のカーブ。


燈のカート、コースアウト。


「ぎゃああああああ!!!」


「ほら、本気でこれ?」


「うるせえ!!」


『www』

『燈wwww』

『何も変わってないwww』


配信は、いつも通りのペースで進んでいく。


喧嘩して、笑って、また喧嘩して。


視聴者たちは、それを心から楽しんでいた。


***


配信終了後。


拓真と凛は、リビングでお茶を飲んでいた。


「なあ、凛」


「なに?」


「今日、すごく楽しかった」


拓真は笑った。


「うん」


凛も笑った。


「やっぱり、いつも通りが一番いいね」


「ああ」


拓真は頷いた。


「無理に過激な企画とかしなくても、俺たちらしくやればいい」


「そうだよ」


凛は笑った。


そのとき。


拓真のスマホが鳴った。


「お?」


雷牙からのDMだ。


『燈、今週のランキング見たか? 俺たち、一位取ったぞ!』


「……え?」


拓真は慌ててランキングを確認した。


一位:赤羽雷牙&黒崎刃

二位:日里燈&東遊里


「……抜かれた」


拓真は呟いた。


「……」


凛も黙っていた。


しばらく、沈黙が続いた。


そして。


「まあ、仕方ないな」


拓真は笑った。


「え?」


「だって、雷牙と刃、頑張ってるし」


拓真は続ける。


「俺たち、無理に一位を守ろうとしてたけど、それって意味ないよな」


「拓真……」


「大事なのは、順位じゃない」


拓真は凛の目を見た。


「大事なのは、楽しく配信すること。視聴者と笑い合うこと」


「それができてれば、順位なんてどうでもいい」


「……うん」


凛は笑った。


「そうだね」


「おう」


拓真は雷牙に返信を送った。


『おめでとう! でも、次は負けないからな!』


すぐに返信が来た。


『上等だ! でも、俺たちは負けねーぞ!』


拓真は笑った。


「いいライバルだな」


「うん」


凛も笑った。


***


翌日。


拓真と凛は、カナタと三人で配信をしていた。


「はーい! みんなこんばんは!」


「日里燈です!」


「東遊里です!」


「天音カナタです!」


『きたああああ』

『三人コラボ!』


「今日も、三人で楽しくやっていきます!」


燈が宣言する。


「先輩、ランキング二位になっちゃいましたね……」


カナタが心配そうに聞く。


「まあ、な」


燈は笑った。


「でも、別にいいんだ」


「え?」


「大事なのは、順位じゃなくて、楽しく配信すること」


燈は続ける。


「それができてれば、一位でも二位でも関係ない」


「先輩……」


カナタは感動していた。


「かっこいいです……」


「そ、そうか?」


燈は照れくさそうに笑った。


「でも、負けっぱなしは悔しいから、次は一位取り返すけどな!」


「それが燈だね」


遊里が笑った。


『www』

『燈らしいwww』

『応援してる』


配信は、いつも通り楽しく進んでいく。


***


その夜。


拓真は、ベッドで天井を見つめていた。


「一位、取られちゃったな……」


でも、不思議と悔しくない。


「楽しかったから、いいか」


拓真は笑った。


「順位より、大事なものがある」


拓真は呟いた。


「楽しく配信すること」


「視聴者と笑い合うこと」


「それを、忘れないようにしよう」


拓真は、そのまま眠りについた。


***


翌朝。


拓真のスマホに、通知が来た。


視聴者からのDMだ。


『燈さん、遊里さん、いつもありがとうございます。順位は二位になっちゃったけど、私はずっと応援してます。これからも、楽しい配信を続けてください』


「……」


拓真は涙が出そうになった。


「ありがとう……」


拓真は呟いた。


「こういうメッセージがあるから、頑張れるんだ」


拓真は、凛の部屋に向かった。


「凛、起きてる?」


「起きてるよ」


凛が部屋から出てくる。


「見て、これ」


拓真はスマホを見せた。


「……いいメッセージだね」


凛は笑った。


「うん」


拓真も笑った。


「こういう視聴者のために、頑張ろう」


「うん」


二人は拳を合わせた。


***


その日の夜。午後八時。


配信開始。


「はーい! みんなこんばんは! 日里燈だよー!」


「東遊里です」


『きたああああ』

『今日も楽しみ!』


「今日もですね、いつも通り視聴者参加型のゲーム大会やります!」


「順位は二位になっちゃったけど、気にしない!」


燈が笑う。


「大事なのは、楽しく配信すること!」


「視聴者と笑い合うこと!」


遊里が続ける。


『そうだよ!』

『順位なんて関係ない!』

『応援してる!』


コメント欄が、応援の言葉で埋まる。


「ありがとう! じゃあ、今日も楽しくやっていこう!」


配信は、いつも通りのペースで進んでいく。


喧嘩して、笑って、また喧嘩して。


でも、それが心地いい。


世界一うるさい青春は、まだまだ続いていく。


順位に囚われずに。


楽しく配信することを忘れずに。


拓真と凛は、これからも走り続ける。


喧嘩しながら。


でも、お互いを信じて。


そして、視聴者と笑い合いながら。

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