第28話 カナタの決意

ランキング二位になってから二週間後。


拓真は、カナタからの連絡を見ていた。


『先輩、相談があります。今日、時間ありますか?』


「相談……?」


拓真は首を傾げた。


『いいよ。うちに来る?』


すぐに返信が来た。


『はい! 今から行ってもいいですか?』


『おう、待ってる』


拓真は凛に連絡した。


***


一時間後。


カナタが、拓真と凛の家に到着した。


「せ、先輩……お邪魔します……」


カナタは、明らかに緊張していた。


「どうした? 相談って」


拓真が聞く。


「あ、はい……その……」


カナタは言いよどんだ。


「落ち着いて。お茶でも飲もう」


凛が優しく言う。


三人は、リビングに座った。


「それで、相談って?」


拓真がもう一度聞く。


「あの……私……」


カナタは深呼吸した。


「ソロで、大きなライブをやりたいんです」


「ソロで?」


「はい……」


カナタは続ける。


「今まで、先輩たちに助けてもらってきました。でも、いつまでも頼ってちゃダメだって思って……」


「だから、一人でやってみたいんです」


カナタの目には、決意が宿っていた。


「……そっか」


拓真は笑った。


「いいじゃん」


「え?」


「一人でやってみたいって思えるくらい、成長したんだな」


拓真は続ける。


「嬉しいよ。カナタちゃんが、自分の足で歩けるようになって」


「先輩……」


カナタは涙を流した。


「でも、不安です……一人でできるか……」


「大丈夫」


凛が断言した。


「カナタちゃんなら、できる」


「私たちが保証する」


「先輩……」


カナタは泣いていた。


「ありがとうございます……」


「でも、困ったら頼っていいからね」


拓真が言う。


「俺たちは、いつでもカナタちゃんの先輩だから」


「はい!」


カナタは笑顔で頷いた。


***


それから一ヶ月。


カナタは、ソロライブの準備を進めていた。


会場は、キャパシティ三千人のホール。


拓真と凛の初ライブより、大きな会場だ。


「すごいな、カナタちゃん……」


拓真は呟いた。


***


ソロライブ当日。


拓真と凛は、観客として会場に来ていた。


「緊張するね」


凛が言う。


「ああ。まるで、自分がライブするみたいだ」


拓真も緊張していた。


会場は、満席だった。


三千人。


全員が、カナタのファンだ。


「すごいな……」


拓真は感慨深げに呟いた。


午後六時。


開演時間。


幕が上がる。


「はーい! みんなこんばんは! 天音カナタです!」


カナタの声が、会場に響く。


会場から、大きな歓声が上がった。


「今日は、私の初めてのソロライブです!」


「緊張してるけど、全力で頑張ります!」


さらに大きな歓声。


「じゃあ、最初の曲!」


音楽が始まる。


カナタは、全力で歌った。


「♪〜〜〜♪」


透き通った声が、会場を包む。


拓真と凛は、静かに聴いていた。


「……上手くなったな」


拓真が呟く。


「うん」


凛も頷いた。


「もう、私たちがいなくても大丈夫だね」


「ああ……」


拓真は、少し寂しさを感じた。


でも、それ以上に。


誇らしかった。


***


ライブは、三時間続いた。


カナタは、次々と歌を披露していった。


MCでは、自分の想いを語った。


「私、デビューした時は、自信がありませんでした」


「でも、燈先輩と遊里先輩が、支えてくれました」


カナタは、客席にいる拓真と凛を見た。


「先輩たちがいなかったら、今の私はいません」


「本当に、ありがとうございます」


カナタは深々と頭を下げた。


会場から、大きな拍手が起きた。


拓真と凛も、拍手していた。


「そして、今日、私は決意しました」


カナタは顔を上げた。


「先輩たちから受け継いだ想いを、大切にしながら」


「自分の道を、歩いていきます」


「先輩たちみたいに、いつかドームでライブをやります!」


会場から、さらに大きな歓声が上がった。


「見ていてください、先輩!」


カナタは、拓真と凛に向かって言った。


「私、頑張ります!」


拓真と凛は、涙を流していた。


「……頑張れ、カナタちゃん」


拓真は呟いた。


***


ライブ終了後。


拓真と凛は、楽屋にカナタを訪ねた。


「お疲れ様」


「せ、先輩!」


カナタは飛びついてきた。


「ありがとうございます! 来てくれて!」


「すごかったよ、カナタちゃん」


拓真は笑った。


「もう、俺たちがいなくても大丈夫だな」


「そ、そんなことないです!」


カナタは慌てて首を振った。


「先輩たちは、ずっと私の目標です!」


「……ありがとう」


拓真は涙ぐんだ。


「でも、カナタちゃん」


凛が口を開いた。


「もう、私たちを超えていってもいいんだよ」


「え?」


「私たちの想いを受け継いで、もっと大きくなって」


凛は笑った。


「それが、先輩として一番嬉しいこと」


「先輩……」


カナタは泣いていた。


「ありがとうございます……」


「頑張れ、カナタちゃん」


拓真が背中を叩いた。


「俺たちも、負けないように頑張るから」


「はい!」


カナタは笑顔で頷いた。


***


その夜。


拓真と凛は、家でスマホを見ていた。


Twitterには、カナタのライブの感想が溢れていた。


『カナタちゃんのソロライブ最高だった』

『成長してる』

『もうソロでも全然いける』


「よかったな」


拓真は笑った。


「うん」


凛も笑った。


「カナタちゃん、これからもっと伸びるね」


「ああ」


拓真は頷いた。


「俺たちを超えていくかもな」


「それでいいんだよ」


凛は笑った。


「それが、先輩として一番嬉しいこと」


「……そうだな」


拓真も笑った。


***


翌日。


カナタのソロライブの映像がYouTubeにアップされると、再生数が爆発的に伸びた。


一日で、百万回再生を突破。


コメント欄には。


『最高のライブだった』

『カナタちゃんソロでも強い』

『燈と遊里の育成成功』


そんな言葉が、溢れていた。


***


その日の夜。午後八時。


いつもの二人配信。


「はーい! みんなこんばんは! 日里燈だよー!」


「東遊里です」


『きたああああ』

『今日も楽しみ!』

『カナタちゃんのライブよかったよ』


「ありがとう! カナタちゃん、すごかったでしょ?」


燈が嬉しそうに答える。


「もう、俺たちがいなくても大丈夫だね」


「先輩として、誇らしいです」


遊里が笑った。


『いい先輩だ』

『応援してる』


「ありがとう! でも、俺たちも負けてられない!」


「カナタちゃんに負けないように、頑張ります!」


燈が宣言する。


『頑張れ!』

『応援してる!』


「ありがとう! じゃあ、今日も配信頑張るぞ!」


「今日は何する?」


「視聴者参加型のゲーム大会!」


「また燈が勝手に決めた」


「勝手じゃねーよ!!」


『もう喧嘩www』

『安定してる』


配信は、いつも通りのペースで進んでいく。


喧嘩して、笑って、また喧嘩して。


でも、視聴者たちはそれを楽しんでいた。


***


配信終了後。


拓真と凛は、リビングでお茶を飲んでいた。


「なあ、凛」


「なに?」


「カナタちゃんが成長していくの、嬉しいけど」


拓真は笑った。


「ちょっと寂しいな」


「わかる」


凛も笑った。


「でも、それが先輩ってことだよね」


「ああ」


拓真は頷いた。


「後輩が成長して、自分の道を歩いていく」


「それを見守るのが、先輩の役割」


「そうだね」


凛は笑った。


「でも、私たちも頑張らないと」


「ああ」


拓真も笑った。


「カナタちゃんに負けないように」


「うん」


二人は拳を合わせた。


***


その夜。


拓真は、ベッドで天井を見つめていた。


「後輩が育っていく……」


嬉しいけど、寂しい。


でも、それでいい。


「俺たちの想いが、受け継がれていく」


拓真は笑った。


「これからも、頑張らないとな」


拓真は、そのまま眠りについた。


***


翌朝。


拓真のスマホに、通知が来た。


カナタからのLINEだ。


『先輩! おかげで、登録者が五十万人になりました! 本当に、ありがとうございます! これからも、先輩たちを目標に頑張ります!』


「五十万人……」


拓真は笑った。


『おめでとう。これからも頑張って。でも、俺たちは負けないからな』


返信を送る。


すぐに返信が来た。


『はい! 先輩たちには負けません!』


拓真は笑った。


「いいライバルになったな、カナタちゃん」


拓真は呟いた。


「負けないぞ」


世界一うるさい青春は、まだまだ続いていく。


後輩が成長して、自分の道を歩き始めて。


でも、それを見守りながら。


拓真と凛は、これからも走り続ける。


喧嘩しながら。


でも、お互いを信じて。


そして、後輩に負けないように。


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