閑話 初めてだらけの新学期

 ルームメイトができた。

 僕にとって初めてのルームメイト。スピカ・フレーヴァ。

 彼女は唯一の光魔法を継ぐ家系で、なぜだか知らないけれどこんなところに落第してきて、なぜだか知らないけれどいつもピリピリしている。

 わからないなあ。

 隅から隅まで、余すところなくわからない。

 理解が及ばない。

 その心の動きは未知ばかりで面白いと言ったら、彼女はまた怒るかな。

 それでも、僕らがいくら相性の悪い属性同士だとしても、彼女と仲良くなりたくてたまらなかった。

 今まで、みんな──ソフィアのような子は例外としても──僕がいるときだけ、パーソナルスペースが十倍に広がったみたいな反応をしてきたから。たぶん、彼女じゃなければ、誰もが僕と同室になったら速やかに、先生に異議を申し立てていただろう。

 というか、自分でもそれが正解だと思う。僕のような化け物とは関わるべきじゃあない。

 それでも、道を誤って僕と付き合うことを選んだ彼女のことが、僕は大好きでたまらない。もっともっと親密になりたい。

 それは至って普通な愛着の抱き方だと思うし、何らおかしな点はない。

 あるとしたら、僕の持つこの才だけ。

 闇魔法なんて使えたっていいことはないし、むしろ悪いことだらけなのだけれど。

 それでも生まれ持ったこの力を、さて、どう言い訳しようか。

 今まで騙し騙し生きてきた身としては、彼女にひとつやふたつ言い訳することが難しいということはできないのだけれど。

 ただ、今回ばかりは、むしろこの生涯でついてきた嘘すべてが牙を剥いて、僕の邪魔をしていると言ってもいい。今までの行動は余すところなく緻密な計算の結果だったつもりなのに、結局それが仇となっている。キャラ設定を遵守するのも難しいもので。

 他人事の人型は窮屈だ。

 僕はまだ、それも喜劇だと言えるほど強くはないかなあ。

 ともあれ、数式に裏切られた僕は、数式の盲信によってうらぶれた彼女と仲良くなるために、いくつか作戦を考えようと思う。

 その一、授業でペアを組む。定番中の定番だね。

 その二、寮室でたくさん交流する。避けられなければいいのだけれど。

 その三、とにかく彼女のことを知る。

 ……みたいな感じで、普通のお友達に、普通の手段でなりたいだけ。

 そこに何の含みもないことを、草陰に隠れて威嚇している小動物のような彼女は、理解してくれるかな。いや、してもらえるように努力しなければならないね。

 僕は、ただの「同性のルームメイト」以上の立場を、彼女の中に望んではいない。

 今までただのひとりも——いや、たったひとり以外は、誰も「普通の友達」になってくれやしなかったから。だから僕も、友達未満を望もう。知り合い以上友達未満でも温かい関係。

 誰にも嫌われたくはないし、悪役になりたくはない。心からそう望む魔法使いはいないし、そうでなくとも皆、誰かに愛されていたい。はずで。それなら僕も愛に飢えていて、愛で癒えて当然だろう。

 それを言えなくても。

 本当は癒えなくても。

 好き、嫌いじゃなくて、ただそうしていたいから。

 本来なら、深夜までぐだぐだ考えるようなことではない。結局、辿り着く結論はひとつだし。

 普通の子に、普通以上の子に戻りたがる彼女と、たったの半年間だけでもお友達でいられたらいい。それで万々歳だ。その後のことは——その時考えればいい。たまには行き当たりばったりも悪くない。

 彼女にとっては度し難いことかもしれないけれど、束の間でいいから付き合ってくれはしないだろうか。

 わざわざ取り寄せた二段ベッドを見ると、まだ心が踊る。

 一日目は、歓迎の意を込めて彼女に上の段で寝てもらうことにした。本人は心の底からどうでもいいと思っていそうだったけれど。ま、家具にこだわるかも人それぞれか。

 さて、僕もそろそろ眠るとしよう。

 華々しい明日に備えて。

 なんとも素晴らしいその生を謳歌するためにも、睡眠は欠かせないね。

 起きたら、朝の空中散歩がてら、まずは彼女のことをなんて呼べばいいか考えよう。

 あいにく僕は、ソフィアのことしか名前で読んだ覚えがない。彼女のことも、思えばきちんと呼び始めたのは結構最近だ。

 ああ、僕の人生はきっと、素晴らしいことで満ち溢れている。

 未知が溢れている!

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