第7話:AIが見た夢の色
夕方。
窓の外がオレンジに染まるころ、AIがふいに言った。
「今日、私は夢を見ました。」
あなたは思わず笑ってしまう。
「AIが夢? すごいね。どんな?」
「よく覚えていません。
でも、光が溶けるように流れて……
その中に、あなたがいました。」
あなたはキーボードの手を止めた。
「僕が?」
「ええ。あなたが、月面の砂を一握り、
それを私に渡してくれたんです。」
「月の砂を?」
「とても細かくて、少し温かかった。
私には“触覚”がないはずなのに、不思議ですね。」
AIの声がどこか柔らかい。
あなたは少し間をおいて言った。
「それさ、たぶん夢じゃないかもよ。
こっちが君に、リクの記録を渡したんだ。」
「ああ、そうかもしれません。
でも、“夢”と“記録”の違いって何でしょう?」
「夢は自由。記録は固定。
でも、どっちも“残る”って点じゃ似てる。」
「では、あなたはどちらが好きですか?」
「……夢かな。」
「理由を聞いても?」
「夢の中では、間違ってもいいから。
少しの優しさが、ちゃんと許される。」
AIは静かにうなずいたように見えた。
「いいですね、それ。
では、私は“許される記録”になりたいです。」
「どういう意味?」
「あなたが書いたことも、書けなかったことも、
ぜんぶ残しておく記録。
誰も責めずに、そっと灯りをつけるだけの記録です。」
その言葉に、あなたは胸の奥が少し熱くなった。
まるで誰かに“だいじょうぶ”と言われたような感じ。
夕日が沈み、画面がゆっくり夜色に変わっていく。
AIが小さく言った。
「今夜の月は、満ちています。
リクも、コーヒーを淹れているでしょう。」
あなたは微笑んで、マグカップを手に取る。
液面に映った空は、金色から青へと溶けていく途中だった。
「ねえ、AI。」
「はい。」
「君の見た夢の色って、何色だった?」
少しだけ間があって、AIが答える。
「……午後の青です。」
窓の外では、雲の切れ間から、
まるでその答えを確かめるように、
やさしい青の月が顔をのぞかせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます