第3話 回想

「それじゃあ、お邪魔します...」


クライスが家に入ろうとした瞬間、フレイアは荷物のことを思い出した。


「あ、すまない。その前に荷物を受け取ってもいいかい?けっこうな量の食材を持ってきてくれたんじゃないかな?」


「はい!このマジックボックスに入っています」


「さすがにあの量の食材を家の中で出す訳にもいかないからね。すまないが私のマジックボックスに入れなおすから、ここに一旦、荷物を出してくれないか?」


「わかりました。ではここに出しますね」


クライスは家の前で食材をマジックボックスから全て取り出した。


「む!?ザックのやつめ...あれだけ野菜はいらんと言っておいたのに、こんなに入れよって...」


「あの...フレイアさんは野菜が食べれないのですか?」


「ん?いやいやいやいやいやいやいや!!そんな、ま、まさか!!この私が食べ物の好き嫌いなど、す、す、するわけないだろう...!!」


フレイアは赤面しながら、全力で否定している...


この反応、どうやらフレイアさんは野菜が苦手らしい。やはり肉が多い気がしたのは間違いではなかったんだな...


「と、とりあえず、マジックボックスに収納も終わったし、家の中に入ろうか」


「では、改めて...お邪魔します」


「うむ。何もない家だが、ゆっくりしていってくれ。こう山奥に住んでいると話し相手もおらず暇していたからな」


「ありがとうございます。あのフレイアさん、お聞きしてもいいですか?」


「なにかな?」


「フレイアさんは、その、神族...の方なんですか?」


背中の翼...間違いない。

7年前、過激派の魔族たち、通称【魔王軍】が人界を支配しようと起こした大戦。人族だけでは間違いなく負けていただろう。

しかしこの戦争は神界からやってきた神族が人族に助力したことにより魔王軍を倒すことに成功した。

しかし、神族は戦争が終わった後、全員、神界に帰ったと聞いていたが...


「そうだ。私は神族だ。一応な...」


「一応...ですか?」


「そうだ。7年前の大戦で右眼、右腕、そして右翼を失ってな...翼が無ければ神界に帰ることもできん。それで私は人界に留まり生活することにしたんだ。神界に帰ることもできないボロボロの神族。故に一応だ...」


おかしい...神族は驚異的な再生能力を持っているはず...

なのになぜ、傷が回復していないんだ?


傷が回復していない理由を聞きたいが、今日あったばかりの人に聞くのも図々しい気がする。


戦争の話になってしまったせいで雰囲気が暗くなってしまった。どうにか話題を変えないと...


家の中を見渡すと壁には刀身の赤い剣が飾ってあった。


「この剣はフレイアさんの?」


「ん?あぁ、この剣は私の妹の形見なんだ...」


「すみません!俺...」


「いや、良いんだ...気にしないでくれ」


フレイアは優しく、しかし、どこか寂しそうな表情を浮かべながら剣を見つめていた...


「あの...フレイアさん...?」


「ん?あぁ、すまない。昔のことを思い出してしまってな」


あぁ...やってしまった...

せっかく話題を変えようと思ったのに、また雰囲気が暗くなってしまった....


どうしようか悩んでいるクライスに、フレイアはフッと笑いながら優しく声をかけた。


「クライス、腹は減っていないか?」


「え...あ、はい...今日はまだ何も食べていないので...」


「ちょうどいい。私も今から食事にしようと思っていてな。良かったら食べていかないか?」


「良いんですか?」


「あぁ、久しぶりの客人だ。良かったら付き合ってくれないか?」


きっと俺が悩んでいたから気を使ってくださったんだろう...

なんて優しいんだ...

ここで断ったら逆に失礼だな...


「それじゃあ、お願いします」


「よし!今日は私の得意料理をふるまおう!!クライス、ステーキは好きか?」


やっぱり肉料理なんだ...


「はい!大好きです!!」


「よし!見ていろ!私のこの炎魔法であっという間に完成だ!!」


マジックボックスから取り出した大きな肉の塊に炎魔法を発動させた。


ジュ!!ボンッ!!


ステーキを普通に作っていたら聞くことのないであろう、凄まじい音が鳴った。


そして目の前には数秒前まで肉の塊であった『何か』が真っ黒こげの状態で誕生していた。


「むむ?失敗か......」


「あの、フレイアさん...フライパンとかは?」


「そんなもの、ここにはないぞ?まぁ見ておれ!!10回に1回くらいは綺麗に焼けるから」


10回に1回...!?

嘘だろ...まさか女神様の料理方法が魔法でゴリ押しだなんて...

これじゃ炭の塊を量産していくだけだ...


「う~む...やはり肉を焼くには魔法の調節が難しいな~」


もう、見てられない...!!


「あの、フレイアさん、良かったら俺が作りましょうか?」


「クライス?君は...料理ができるのか?」


「はい、一応パーティーでは料理係していましたし...」


「それなら...お言葉に甘えさせてもらおう」


「わかりました。ではキッチンをお借りしますね」


「いや~、助かる!実は私は料理が大の苦手でな!毎回、失敗するから多めに食材を届けてもらってたんだ」


なるほど...それであの食材の量か...

1週間で食べるのではなくて、料理を失敗する前提であの量を...

納得...


クライスは自分の元々持っていたマジックボックスから包丁やフライパン、調味料を取り出した。


「君はいつも、その料理セットを持ち歩いているのか?」


「はい。クエストでは野営する時もあるので、外でも料理ができるように」


「ほう...それは素晴らしい心がけだな!!」


そうこうしているうちに料理が完成した。


「どうぞ。お口に合えばいいんですが...」


「おぉ!なんと良い香りだ...!!」


フレイアの口から涎が垂れている。


「いただきます...」


パクッ...モグモグモグモグ...ゴクン...


「こ、これは........」


「あ…お口に合いませんでしたか?」


「う............」


「う?」


「うまい!!うますぎる!!肉とはこれ程までに上品に焼けるものなのか?このソースとの兼ね合いも抜群だ!!こんなにうまい肉は初めて食べたぞ!!」


「そう言っていただけて嬉しいです」


そう言ってフレイアの皿を見ると付け合わせの野菜が残っている。


「あの、フレイアさん。野菜が...?」


「ん?あぁ...これか...。飾りかと思ったぞ…アハハハハハ~」


「大丈夫です。だまされたと思って食べてみてください」


「む~、そうは言ってもな~」


「大丈夫です。信じてください」


「う...わかった。そこまで言うなら...」


フレイアは渋々、付け合わせの野菜を口に運んだ。


パクッ...モグモグモグモグ...


「んんん!?こ、これは...?」


フレイアは驚きで目を大きくしながら叫んだ!!


「うまい!!こんなうまい野菜は初めて食べたぞ!!」


「良かったです。これなら野菜嫌いも克服できそうですか?」


「うむ!これなら野菜嫌いも...って私は好き嫌いなんて初めから無いぞ!!」


強がるフレイアを見て、ついつい笑みがこぼれる。


「そうでしたね。でもこんなに喜んでいただけて良かったです」


「最高だったぞ!!それにしてもクライスのパーティーメンバーは羨ましいな!こんなにうまい食事を毎回作ってもらえるんだから!」


「そう...ですかね...」


「ん?どうした?」


「実は俺、半年前にパーティーをクビになって、今はソロ冒険者として活動してるんです。人に料理作ったのも久しぶりで、こんなに喜んでもらえるって思ってなかったから嬉しくって...」


「クビ?何かあったのか?」


「半年前、ズーク商会から俺たちのパーティーに指名依頼が届いたんです。しかも2つ。1つは魔物の討伐。もう1つは回復用ポーションの材料になる薬草の採集でした。そこで俺たちのパーティーは2手に分かれることにしたんです」


「ほう。珍しい依頼形式だな」


「そうですね。どこか違和感を感じてはいたんですが、ズーク商会は有名ですし、俺たちもパーティーランクを上げたくて必死で...」


「それで、その依頼を受けた...と」


「はい。俺のスキルは戦闘向きではないので、採集クエストには俺1人で。討伐クエストの方には他のパーティーメンバー4人が行くことになりました」


「1人と4人で分かれた?それはパーティーとしては褒められことではないな」


「そう...ですね。俺は2つのクエストを全員で受けるべきだと言っていたんですが、アルフレッドっていうやつに半ば強引に分断されて...」


「そのアルフレッドっというやつは余程、君について来てほしくなかったのだな」


「そうですね。アルフレッドっというよりはパーティーメンバー全員が俺のことを煙たがっていたのかもしれません。アルフレッドのことを他のメンバーは恋愛対象として好いていたみたいなので」


「ん?ということはアルフレッドというやつ以外のメンバーは女か?」


「はい。男2人、女3人のパーティーでした。」


「ふむ...」


「俺は1人で指定された場所に薬草採集に向かったんです。そこで指定された数を採って帰る簡単なものでした。でも...その指定された場所には...」


今でもあの時の光景を簡単に思い出すことができる...

本当に人生終わったと思ったからな...


「指定された場所には魔物がいたんです。討伐ランクAの魔物...ドラゴンが...」


「ドラゴンだと?採集場所はカイゼルシティ近辺なのだろう?ここら辺でドラゴンが出現したら大事だぞ」


「その通りです。この近辺でドラゴンが出現したことは過去に1度も無かったそうなんです。でも本当にいたんです。今でもあの時の光景を思い出します。黒い鱗、金色の眼...睨まれた瞬間、終わったと思いました」


「戦ったのか?」


「いいえ。襲われたんですが、たまたま運が良くて、クエストを受けた時は大雨で...ドラゴンがブレスを撃った瞬間に土砂崩れが起きたんです。俺は土砂崩れに巻き込まれましたが、運良く助かりました」


ブレスが直撃していたら無事では済まなかっただろう...


「俺は採集クエストを放棄して、すぐにドラゴンのことをギルドに報告しにいきました。ギルド長も騎士団と数名の冒険者を派遣してくれたんです。でも...消えていたんです」


「消えていた?ドラゴンがか?」


「そうです。正確には形跡が全くなかったんです。見つかったのは土砂崩れが起きた跡だけでした」


「にわかには信じられんな。普通は爪痕や足跡ぐらいの痕跡は見つかりそうなものだが」


「でも何も見つからなかったんです。ドラゴンは俺の見間違いとして処理されました。ブレスも実は落雷で、近くに落ちたショックで自分がパニックを起こしたということになったんです」


「それで依頼は失敗になってしまったということか」


「はい。その1件でメンバーからは嘘つき、役立たず、足手まといと言われ追放されました」


「それからはソロでずっと活動を?」


「はい。ズーク商会からはクエスト失敗の件で冒険者ライセンスの剥奪および追放をした方が良いと言われていたみたいなんですが、ザックギルド長と受付嬢のアイリさんが、かばってくれたんです。おかげで今も冒険者として活動できています」


「そうか...すまない。辛い事を思い出させてしまったな」


「いいえ。それよりも...ありがとうございます。こんな俺の話を聞いてくださって...」


「君とは今日初めて会ったが、私は君が嘘をついているとは思えない。それにこんな美味しい料理が作れる人間が悪人なわけがない。少なくとも私はそう思っている!」


クライスの目から自然と涙がこぼれた


「あ...ありがとうございます。ありがとうございます...」


「溜まっていたんだな。ほらもう泣くな。料理が冷めてしまうぞ」


優しく微笑むフレイアの言葉にクライスは涙を拭いながら頷いた。


     ◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 


クライスとフレイアが出会ったのと同時刻、ズーク商会の会議室では...


「ご無沙汰しております。ズーク会長」


「フフフ...アルフレッド君も相変わらず元気そうで何よりですよ」


アルフレッド率いるタイタンと商会会長ズーク・カースの怪しい会合が開かれようとしていた...

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