第11話「チーム戦:カジノラリー」


 裏カジノ部との対決まで、残り三日。


 水曜日の放課後。


 部室には、緊張した空気が漂っていた。


 御影が、ホワイトボードに戦略を書き出していた。


「土曜日の勝負は、5対5のチーム戦だ」


 御影が、全員を見回した。


「私たちのメンバーは——神楽くん、天音、凛、司、そして私の五人だ」


「裏カジノ部は?」天音が聞いた。


「黒瀬、氷室、そして——」


 御影が、三つの名前を書き加えた。


```

裏カジノ部メンバー:

- 黒瀬(確率支配)

- 氷室(演出完全支配)

- 白鳥(記憶消去)

- 紅林(感情増幅)

- 真白(未来固定)

```


「……全員、能力者か」司が呟いた。


「ああ。しかも——全員が、君たちの"上位互換"だ」


 凛が、険しい顔をした。


「上位互換?」


「氷室は、凛の演出改竄の上位。白鳥は、司の記憶強化の上位。紅林は、天音の感情共鳴の上位」


 御影が、真剣な目で続けた。


「そして、真白の未来固定は——水城の未来予測の、さらに上だ」


「……勝てるの?」天音が、不安そうに聞いた。


 御影が、微笑んだ。


「勝てる。なぜなら——」


 御影が、僕を見た。


「——私たちには、"無能力の最強"がいる」


---


 その日、僕たちは最後の特訓を行った。


 形式は、カジノラリー——複数のゲームを同時進行する、総力戦だ。


 ルールは単純。


 三つのゲーム——ブラックジャック、ルーレット、ポーカーを、それぞれ別のメンバーが担当する。


 そして、総合得点で勝敗が決まる。


「カジノラリーで重要なのは——個人の実力だけじゃない」


 御影が説明した。


「チーム全体の"連携"だ。誰かが苦戦していたら——他のメンバーが助ける」


「助ける?」司が聞いた。


「ああ。例えば——」


 御影が、図を描いた。


「ブラックジャック担当が、カードの流れを読めなくなったら——ポーカー担当が、心理面からヒントを送る」


「心理面から?」


「そうだ。相手の表情、呼吸、視線——そういった情報を、リアルタイムで共有する」


 御影が、微笑んだ。


「それが——チーム戦の本質だ」


---


 模擬カジノラリーが始まった。


 僕は、ブラックジャック担当。


 天音は、ルーレット担当。


 司は、ポーカー担当。


 凛と御影は——サポート役だ。


 第一ゲーム。


 僕は、ブラックジャックで苦戦していた。


 カードの流れが読めない。


 確率計算が——なぜか、合わない。


「くそ……」


 その時——凛の声が聞こえた。


「ユウ!相手のディーラー、カードを配る時——左手が微妙に震えてる!」


「……震えてる?」


「そう。つまり、次のカードは——高い数字の可能性が高い」


 僕は、凛の情報を信じた。


「スタンド」


 結果——勝利。


 凛の観察眼が、僕を救った。


---


 第二ゲーム。


 天音が、ルーレットで苦戦していた。


 相手のルーレットには、微妙な偏りがある。


 だが、天音にはそれが見えない。


「どうしよう……」


 その時——司の声が聞こえた。


「天音!過去三回のデータを見ると——"赤"が連続で出てる。次は"黒"の確率が高い」


「……司くん、ありがとう!」


 天音は、黒に賭けた。


 結果——当たり。


 司のデータ分析が、天音を導いた。


---


 第三ゲーム。


 司が、ポーカーで苦戦していた。


 相手のブラフが読めない。


 記憶だけでは——心理は読めない。


「……」


 その時——天音の声が聞こえた。


「司くん!相手、今すごく緊張してる!感情が揺れてる!」


「……緊張?」


「うん!だから、ブラフの可能性が高い!」


 司は、天音の感情読解を信じた。


「コール」


 結果——相手のブラフを見破った。


 天音の感情共鳴が、司を支えた。


---


 模擬カジノラリーが終わった。


 結果——僕たちの完勝。


 御影が、満足そうに頷いた。


「素晴らしい。これが、チームの力だ」


 凛が、小さく笑った。


「……まあ、悪くなかったわね」


 司が、眼鏡を押し上げた。


「データと感情の融合——これは、効果的だな」


 天音が、満面の笑みで言った。


「みんな、すごかった!」


 僕は、全員を見回した。


 この仲間となら——絶対勝てる。


---


 その夜。


 僕は、自室でノートを開いた。


 そして、書き始めた。


```

【カジノラリーで学んだこと】


1. チーム戦は、個人戦ではない。全員の力を合わせる。

2. 苦戦している仲間を——他の仲間が支える。

3. 情報をリアルタイムで共有する。

4. 論理、感情、データ、観察——全てを融合させる。


【裏カジノ部への対策】

- 黒瀬:静止の瞬間を突く

- 氷室:感覚を遮断する

- 白鳥:記憶に頼らない

- 紅林:感情を制御する

- 真白:未来を"変える"


最大の武器——仲間の力

```


 ペンを置き、窓の外を見る。


 月が、明るく輝いている。


「あと二日」


 僕は、呟いた。


「準備は、できた」


---


 翌日、木曜日。


 部室に、予想外の来客があった。


 扉を開けたのは——柳瀬アヤだった。


 天音を破った、感情支配の能力者。


「……柳瀬さん?」天音が驚いた。


「天音。それと——カジノ部のみんな」


 柳瀬が、真剣な顔で言った。


「私、裏カジノ部のことを知ってる」


「……知ってる?」


「ええ。紅林——裏カジノ部の感情増幅能力者。彼女は、私の姉なの」


 一同が、息を呑んだ。


 柳瀬が続けた。


「姉は、昔——カジノ部にいた。でも、黒瀬に誘われて、裏カジノ部に移った」


「……なぜ?」


「姉は、言ってた。"能力を極限まで使いたい"って」


 柳瀬が、暗い表情になった。


「でも、今の姉は——おかしい。能力に溺れて、人を傷つけることに何も感じなくなってる」


 柳瀬が、天音を見た。


「天音。あなたたちなら——姉を止められる。お願い」


 天音が、頷いた。


「……分かった。柳瀬さんのお姉さんを——私たちが、救う」


---


 柳瀬は、紅林の能力について詳しく教えてくれた。


「姉の感情増幅は——相手の感情を、何倍にも増幅させる」


「何倍にも?」


「ええ。例えば——少しの不安が、恐怖に変わる。少しの怒りが、激怒に変わる」


 柳瀬が、真剣な目で言った。


「でも、弱点がある」


「弱点?」


「姉は、"強い感情"にしか反応できない。弱い感情、穏やかな感情には——干渉できない」


 天音が、はっとした顔をした。


「つまり……心を落ち着かせていれば——紅林さんの能力は、効かない?」


「その通り」


---


 柳瀬が去った後。


 御影が、全員を集めた。


「裏カジノ部の情報が揃った。最終確認をしよう」


 御影が、ホワイトボードに図を描いた。


```

【対戦予想】

ブラックジャック:神楽ユウ vs 白鳥(記憶消去)

ルーレット:天音 vs 紅林(感情増幅)

ポーカー:司 vs 氷室(演出完全支配)

サポート:凛、御影

最終戦:神楽ユウ vs 黒瀬(確率支配)

```


「この配置で、戦う」


 僕は、黒瀬の名前を見た。


 最終戦——。


 ついに、あいつと対決する。


---


 金曜日。


 決戦前日。


 僕たちは、部室で最後のミーティングをしていた。


「明日、14時——旧体育館で決戦だ」


 御影が、全員を見回した。


「もう一度、確認しよう。私たちの目的は——」


「勝つこと」司が言った。


「仲間を守ること」凛が言った。


「裏カジノ部を救うこと」天音が言った。


 御影が、微笑んだ。


「そうだ。そして——」


 御影が、僕を見た。


「——黒瀬を、救うこと」


 僕は、頷いた。


「……ああ」


---


 ミーティングが終わった後。


 僕は、一人で部室に残っていた。


 窓の外を見ながら、考えていた。


 明日——全てが決まる。


 扉が開く音がした。


 振り返ると、天音が立っていた。


「ユウくん。一人?」


「……ああ」


 天音が、僕の隣に座った。


「不安?」


「……少し」


「私も」天音が、微笑んだ。「でも——みんながいるから、大丈夫」


「……ああ」


 天音が、僕の手を握った。


「ユウくん。私、信じてるから」


「……何を?」


「ユウくんが、黒瀬さんを救うって」


 天音の目が、真っ直ぐに僕を見ていた。


「ユウくんの論理は強い。でも——ユウくんの優しさは、もっと強い」


「……優しさ?」


「うん。ユウくんは、いつも——敵も味方も、傷つけたくないって思ってる」


 天音が、微笑んだ。


「その優しさが——きっと、黒瀬さんを救う」


---


 その夜。


 僕は、自室で最後の準備をしていた。


 ノートに、戦略を書き出す。


 確率計算を見直す。


 能力の弱点を確認する。


 全て——完璧だ。


 だが——。


 胸の奥に、何かが引っかかっていた。


 天音の言葉が、頭の中で響く。


「ユウくんの優しさが——きっと、黒瀬さんを救う」


 優しさ。


 論理じゃなく——優しさ。


 僕は、窓の外を見た。


 月が、雲に隠れている。


「黒瀬」


 僕は、呟いた。


「お前を——救ってみせる」


---


 同じ頃。


 旧校舎の奥。


 黒瀬は、一人で準備をしていた。


 ルーレット、サイコロ、カード——全てが、彼の周りを浮遊していた。


「明日——全てを破壊する」


 彼の目は——狂気に満ちていた。


「ユウ。お前の論理を——完全に打ち砕いてやるぞ」


 彼は、手のひらにルーレットの玉を浮かべた。


 玉が——何十個にも分裂した。


「そして——俺が証明する」


 黒瀬が、不敵に笑った。


「能力こそが——絶対だと」


---


 土曜日。


 午後14時。


 旧体育館。


 僕たちは、入口の前に立っていた。


 天音、凛、司、御影——全員が、真剣な顔をしている。


「行こう」御影が言った。


 僕たちは、扉を開けた。


 体育館の中央に——裏カジノ部の五人が、立っていた。


 黒瀬、氷室、白鳥、紅林、真白。


 全員が、僕たちを見ていた。


 黒瀬が、不敵に笑った。


「来たか、ユウ」


「……ああ」


 黒瀬が、一歩前に出た。


「では——始めようか」


 彼の目が、鋭く光った。


「お前たちの"絆"と、俺たちの"能力"——どちらが上か、決着をつける」


 僕は、仲間を見た。


 全員が、頷いた。


 僕は、黒瀬を見た。


「来い」


---


 審判——学園の教師が、中央に立った。


「これより、カジノ部 vs 裏カジノ部の、公式対決を開始する」


 審判が、ルールを読み上げた。


「形式は、5対5のカジノラリー。総合得点で、勝敗を決する」


「敗者は——部活動を解散する」


 一同が、固唾を呑んだ。


 審判が、腕を上げた。


「では——開始!」


---


次回、第12話

「模擬戦:ユウ vs 御影」

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