第12話「模擬戦:ユウ vs 御影」


 審判の開始宣言——。


 だが、その瞬間。


 御影が、手を上げた。


「待て」


 全員が、驚いて御影を見た。


 黒瀬が、眉をひそめた。


「……何だ?」


「黒瀬。お前は——神楽くんとの一騎打ちを望んでいるんだろう?」


「……ああ」


「ならば」御影が、僕を見た。「神楽くん。その前に——私と、戦ってもらう」


 僕は、目を見開いた。


「……御影?どうしたんだ急に」


「君が、本当に黒瀬と戦えるか——それを、確かめたい」


 御影が、真剣な目で言った。


「私に勝てなければ——黒瀬には、勝てない」


---


 体育館に、緊張が走った。


 黒瀬が、興味深そうに言った。


「……面白い。御影、お前——本気か?」


「ああ」


「じゃあ、俺たちは待っててやる。さっさと始めろ」


 黒瀬が、不敵に笑った。


「ユウと御影の戦い——見せてもらおう」


 審判が、困惑した顔をした。


「しかし、これは公式戦では——」


「構わない」御影が言った。「これは——模擬戦だ。この結果は、公式記録には残さない」


 御影が、僕を見た。


「だが、この勝負は——君にとって、最も重要な戦いになる」


---


 体育館の中央に、ブラックジャックのテーブルが用意された。


 僕と御影が、向かい合って座る。


 天音が、心配そうに僕を見た。


「ユウくん……」


 凛が、静かに言った。


「……御影部長、本気よ」


 司が、眼鏡を押し上げた。


「これは——試練だな」


---


 ゲームが始まった。


 審判がディーラーを務める。


 ルールは単純。10回勝負で、6回以上勝った方が勝者。


 第一ゲーム。


 カードが配られる。


```

僕の手札:K♠、Q♠ = 20

御影の手札:10♦、? = 10 + ?

```


 強い手札だ。


 御影が、カードを見た——その瞬間。


 彼の目が、鋭く光った。


「ヒット」


 カードが配られる。A♣。


「スタンド」


 僕は、スタンドした。


 オープン。


```

御影の手札:10♦、A♣ = 21

僕の手札:K♠、Q♠ = 20


御影の勝ち

```


 御影が、静かに言った。


「神楽くん。君の判断は——間違っていない。だが、足りない」


「……足りない?」


「ああ。君は、論理で戦っている。だが——私は、"構造"で戦っている」


「構造?」


 御影が、テーブルを指差した。


「ブラックジャックは、確率のゲームだ。だが——その確率には、"構造"がある」


「……」


「カードの配られ方、ディーラーの癖、テーブルの傾き——全てが、"構造"を作っている」


 御影が、微笑んだ。


「その構造を読めば——確率を超えられる」


---


 第二、第三、第四ゲーム。


 御影の判断は、完璧だった。


```

現在スコア:ユウ 1勝 - 御影 3勝

```


 圧倒的な劣勢。


 僕は、御影の動きを注視した。


 彼は、カードを見る前に——必ず、ディーラーの手元を見ている。


 そして——わずかに、目を細める。


 あれは——。


「御影」僕は言った。「お前、ディーラーの"配り方"を読んでるのか?」


 御影が、目を見開いた。


「……気づいたか」


「ああ。お前は、カードの出目じゃなく——カードが"どう配られるか"を予測してる」


 僕は、ディーラーを見た。


「ディーラーの手の動き、カードの持ち方、配る速度——それらから、次のカードの"位置"を予測してる」


 御影が、微笑んだ。


「素晴らしい。それが——"構造読解"だ」


---


 第五ゲーム。


 僕は、御影の方法を真似た。


 カードではなく——ディーラーの手元を見る。


 手の動き。


 カードの位置。


 配る速度。


 全てを——観察する。


 カードが配られる——。


```

僕の手札:9♠、8♥ = 17

御影の手札:7♦、? = 7 + ?

```


 ディーラーの手が、わずかに震えた。


 次のカードは——高い数字だ。


「スタンド」


 御影が、ヒットした。


 カードが配られる。K♣。


```

御影の手札:7♦、K♣ = 17


引き分け

```


 御影が、小さく笑った。


「いいぞ、神楽くん」


---


 第六ゲーム以降。


 僕は、御影の"構造読解"を完全に理解した。


 確率ではなく——構造を読む。


 その視点が、僕の論理を一段階上げた。


```

最終スコア:ユウ 6勝 - 御影 4勝


僕の勝利

```


 僕は、勝った。


 だが——喜びはなかった。


 御影が、立ち上がった。


「よくやった、神楽くん」


「……御影」


「君は、私を超えた」


 御影が、穏やかに微笑んだ。


「もう、君には——私が教えられることはない」


---


 御影が、全員を見回した。


「神楽くんは、"構造読解"を習得した」


 天音が、嬉しそうに言った。


「ユウくん、すごい!」


 凛が、小さく笑った。


「……また、成長したわね」


 司が、眼鏡を押し上げた。


「これで——黒瀬との勝負も、見えてきたな」


 だが——御影の表情は、まだ真剣だった。


「神楽くん。だが——これで終わりじゃない」


「……まだ、足りない?」


「ああ」


 御影が、黒瀬を見た。


「黒瀬の能力は——構造を"破壊"する」


「……破壊?」


「そうだ。彼は、確率の構造を書き換える。だから——構造読解だけでは、勝てない」


 御影が、僕の肩に手を置いた。


「君に必要なのは——"無能力の本当の意味"を理解することだ」


「……」


「それを理解した時——君は、黒瀬を超える」


---


 黒瀬が、拍手した。


「いい戦いだった、ユウ」


 彼は、不敵に笑った。


「御影を倒すとは——お前、本当に強くなったな」


「……黒瀬」


「だが」黒瀬の目が、鋭く光った。「それでも——俺には勝てない」


 彼は、手のひらにルーレットの玉を浮かべた。


 玉が——何十個にも分裂した。


「俺の確率支配は——もう、お前たちの想像を超えている」


---


 審判が、再び中央に立った。


「模擬戦は終了。では——公式戦を開始する」


 僕たちは、それぞれの持ち場に向かった。


```

【第一戦:ブラックジャック】

神楽ユウ vs 白鳥(記憶消去)


【第二戦:ルーレット】

天音 vs 紅林(感情増幅)


【第三戦:ポーカー】

司 vs 氷室(演出完全支配)


【サポート】

凛、御影

```


 僕は、ブラックジャックのテーブルに着いた。


 向かいには——白鳥が座っていた。


 銀髪の少女。冷たい目つき。


「……初めまして、神楽くん」


 彼女の声は——どこか、無機質だった。


「私の能力は、"記憶消去"。あなたの記憶を——消すことができる」


「……」


「どうやって戦うのか、見せてもらうわ」


---


 ゲームが始まった。


 第一ゲーム。


 カードが配られる——。


 その瞬間、僕の頭が——真っ白になった。


 何も、思い出せない。


 今、何をしていた?


 カードの確率は?


 ディーラーの癖は?


 全て——消えた。


「これが——記憶消去?」


 白鳥が、冷たく微笑んだ。


「そう。あなたの"短期記憶"を消したの」


「……!」


「記憶がなければ——論理も、機能しない」


---


 第一ゲーム——敗北。


 第二ゲーム——敗北。


 第三ゲーム——敗北。


```

現在スコア:ユウ 0勝 - 白鳥 3勝

```


 絶望的な状況。


 だが——。


 その時、凛の声が聞こえた。


「ユウ!記憶に頼るな!"今"を見て!」


 僕は、はっとした。


 そうだ。


 記憶がないなら——記憶に頼らなければいい。


 過去を忘れても——"今"は、ここにある。


---


 第四ゲーム。


 僕は、記憶を使わずに——"今この瞬間"だけを見た。


 カードの配置。


 ディーラーの手の動き。


 白鳥の表情。


 全て——"今"の情報だ。


 そして——判断した。


「ヒット」


 カードが配られる。


 5♠。


「スタンド」


 結果——勝利。


 白鳥が、驚いた顔をした。


「……なぜ?記憶がないのに——」


「記憶がなくても」僕は言った。「"今"があれば、戦える」


---


 第五ゲーム以降。


 僕は、記憶に頼らず——"今"だけを見続けた。


 過去は忘れても、今は消えない。


 その瞬間、瞬間を——完璧に読み続けた。


```

最終スコア:ユウ 6勝 - 白鳥 4勝


僕の勝利

```


 白鳥が、信じられない顔をした。


「……負けた」


---


 同時に、他のテーブルでも——勝負が終わっていた。


 天音が、紅林に勝利していた。


 心を落ち着かせることで、感情増幅を無効化したのだ。


 司が、氷室に勝利していた。


 目を閉じて戦うことで、演出完全支配を回避したのだ。


```

【現在の総合スコア】

カジノ部:3勝

裏カジノ部:0勝

```


 僕たちは——圧勝していた。


---


 だが——。


 黒瀬が、立ち上がった。


「……なるほど。お前たち、本当に強くなったな」


 彼の目が——狂気に染まっていた。


「だが——これからが本番だ」


 黒瀬が、中央のルーレットテーブルに向かった。


「ユウ。お前と俺——一対一で、決着をつけよう」


 僕は、立ち上がった。


「……ああ」


 審判が、宣言した。


「これより——最終戦を開始する」


「神楽ユウ vs 黒瀬」


「ゲームは——ルーレット」


 僕と黒瀬が、テーブルを挟んで向かい合った。


 黒瀬が、不敵に笑った。


「ユウ。お前の"無能力"——その本当の意味、まだ分かってないだろう?」


「……」


「なら、教えてやる」


 黒瀬が、手のひらにルーレットの玉を浮かべた。


 玉が——無数に分裂した。


「お前の"無"は——能力干渉を受けない」


 僕は、息を呑んだ。


「……何?」


「そうだ。お前には能力がない。だから——俺の確率支配も、お前には効かない」


 黒瀬が、不敵に笑った。


「それが——"無能力の本当の意味"だ」


---


次回、第13話

「裏カジノ部の挑戦」

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