路上占い、あれこれ55【占い師は頼まれる】
崔 梨遙(再)
夕食後に2241文字、いかがですか?
僕が夜のミナミの路上で占いをしていた頃の話。
「あの・・・」
振り向くと、若い美人。美人だが目が泳いでいる。嫌な予感しかしない。
「何でしょう?」
多分、この時点で僕の顔は引きつっていたと思う。嫌な予感しかしない。経験上。
「座ってもいいですか」
「占いですか?」
「占いというか・・・人生相談みたいな感じなんですけど・・・」
「・・・どうぞ」
占い師は、いかなる時、いかなる相手でも門を閉ざしてはいけないのだ。と、僕は勝手に思い込んでいる。
「さて、なんでしょう?」
「あの・・・私、大学に通ってたんですけど、父が会社をクビになってしまって、大学を中退しなければいけなくなったんです」
「はあ・・・それは大変ですね」
「それで、田舎から大阪に就職で来たんです。寮のある会社だったんですけど」
「はあ・・・それで?」
「会社に行ったら、会社の都合で採用を取り消しになったと言われたんです」
「じゃあ、家に帰ってまた就活ですね!」
正直、僕は早く話を終わらせようとしていた。早く帰らせたい。
「それが・・・家、徳島なんですよ。遠いし、帰るお金も無いし、今、実家もお金が無くてめちゃくちゃなんです。父はずっと飲んでDV、母親は怯えてますし。私が働いて実家にお金を送らないといけないんです」
「はあ・・・それで?」
「求人のフリーペーパーは手に入れました。明日、電話して、どこかに就職します。ネットの求人サイトもあるし」
「はあ・・・じゃあ、それでいいんじゃないですか?」
「それが・・・今夜ホテルに泊まるお金も無くて・・・」
来た-! やっぱりお前もお金をもらいに来たのか?
「それで・・・すみませんが、今夜泊めてもらえませんか?」
そう来たか-! やられたぜ変化球! だが、こっちも負けてはいられない。
「いやー! 1DKなんですよ。狭いし、ベッドはシングルだし、泊めてあげるのはちょっと無理かな-!」
「いいですよ、私、床で寝ますから。流石に野宿はできないですけど」
「いやいや、待って、落ち着きましょう、僕、男ですよ! 男の部屋に簡単に泊まったらダメですよ。ほら、あそこに女性の占い師さんがいらっしゃるじゃないですか、あの人達に頼んだらいいと思いますよ」
「いや・・・あの人達には怖くて頼めません」
「なんで? ほな、なんで僕には頼めるの?」
「なんか・・・お兄さんなら、なんとかしてくれそうな気がして」
「わかった、ホテル代を貸します。それでいいでしょう?」
「そんなの悪いですよ。お金を使わせたくはないんです」
「なんで? なんでそうなるの?」
「泊めてください。お願いします」
頭を下げ続ける美女、僕は髪を掻きむしった。
「わかりました。じゃあ、僕が住んでいるマンションに行きましょう。今日はもう店じまいです。歩いていける距離ですよ」
「はい」
「いいんですか?」
「何が?」
「私がベッドを使って」
「女性を床で寝かせるわけにはいかんやろ」
「こっちに来ますか?」
「え?」
「私を抱いてもいいんですよ。私、二十歳だし」
「やめて~!」
「私、魅力無いですか?」
「めっちゃ魅力的。って、そういう問題ちゃうねん。弱みにつけこむようなことはできへんやろ」
「優しいんですね」
「女性にはな。さあ、もう寝てください。明日は動いてもらいます」
「はい、明日には出て行きます」
「そうやけど、明日、寮のある会社を紹介するから、面接に行ってもらわなアカン」
「会社を紹介してくれるんですか?」
「僕のお客さんの会社や。飲食店とパチンコ店、どっちがいい?」
「どっちが給料がいいですか?」
「基本、パチンコ店」
「パチンコしたこと無いですけど」
「大丈夫、研修もあるし、教育もしてくれる。未経験者歓迎や」
「・・・お願いします」
「おはよう、土曜日も人事部長はいるから電話してみるわ」
「お願いします」
「・・・・・・はい、よろしくお願いします」
「どうでした?」
「13時半に本社で面接や。あのな、本社は地下鉄で・・・」
「行ってきました」
「あれ? まさか不採用やった?」
「いえ、採用していただきましたよ」
「ほな、即入寮やろ?」
「入寮しましたよ、それで、少しだけ給料を前借りして食材を買って来ました」
「? どういうこと?」
「手料理を作りますよ。カレーでいいですよね?」
「う・・・うん」
「美味しいですか?」
「美味しい」
「良かったです!」
「そろそろ帰った方がええんとちゃうか?」
「もう一晩だけ、泊めてください。明日からは寮に泊まります」
「なんで?」
「もう一晩、この部屋で寝たいんですよ」
「・・・もう、好きにしてくれ」
「崔さん・・・」
「なんや?」
「やっぱりベッドには来ないんですか?」
「理由は昨日、話したやろ」
「でも、昨日の私と今日の私は違いますよ。昨日の私は無職で住むところも無かったですけど、今日は職もあるし、住むところもあります。弱みは無いですよ」
「ここで抱いたら、今度は恩着せがましくなるやろ」
「ベッドに来てくれないんですね」
「行かない」
「まあ、いいか。これはこれで良い思い出かも」
翌朝、彼女は本当に出て行った。疲れた。
後日。
「あの・・・」
オッサンだ。いかにも困ってそうなオッサンだ。嫌な予感しかしない。
「何でしょう?」
「座ってもいいですか?」
「占いですか?」
「人生相談です。座りますね」
「はあ・・・どのような相談でしょうか?」
「実は会社をリストラされて、家賃滞納でアパートも追い出されたんです」
「はあ・・・・・・・・それで?」
「今夜、泊めてもらえませんか?」
「絶っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ対に嫌ーーーー!」
路上占い、あれこれ55【占い師は頼まれる】 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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