情けは全動物のためならず
1
洞窟の奥に身を潜め、静かに目を光らせる生き物がいた。
近づいてくる匂いと音に反応をするがすぐにまた元の体勢に戻る。
それは良く見知った相手の匂いで安心すら覚えていた。
その匂いは洞窟の入り口で立ち止まる。
「おうおう、ひぐっさん!生きてっか?寺嶋様とリクガメ様のおなーりーだぞ!」
ひぐっさんと呼ばれた洞窟の奥の獣はゆっくりと体を起こし力なく手を振る。
「ハハハ。お久しぶりです。すいません、こんなところにわざわざ足を運んでもらって。」
「はん!オラはお前に会いに来たんやないわ。」
「そう言ってやりますな。先ほど私だけで行こうとしてたのに無理やり着いてきたではないですか。」
寺嶋が丁寧にリクガメを諭す。
リクガメは興奮した様子で喚く。
「誰がそんなことをしたって?バカなこと言うな!アホ!なんで俺が自業自得のバカを心配せんといかんのか。」
「まあまあ。あまり興奮すると体に障りますよ。」
2匹の様子を見ながらひぐっさんは微笑む。
「真意がどうであれ、お二方に会えたことが俺は嬉しいです。」
その言葉を聞いた寺嶋とリクガメは言い合いをやめ落ち着いて腰を据える。
「全くお前もつくづく面倒に巻き込まれるやつだよ。」
「全くや。安住できない星のもとにでも生まれたんか。」
2匹の遠慮のない物言いに苦笑いをしながらひぐっさんは頭を下げる。
「全く面目次第もありません。平和な山に問題を持ち込んでしまって…。」
リクガメはため息をつくと鋭い目つきでひぐっさんを見る。
「ふん、今更何か言ったところでしゃあない。全く人間というのはなんで無意味に命を奪うんか…。」
「一括りにしてはいけませんよ。人間はいいもののほうが多い。ホウチュンのことも知っているでしょう?」
寺嶋に何度も諭されることにつまらないと言った顔をしながら吐き捨てるようにいう。
「それはわかっとるわ。せやけど、今回のこの件はあの子と周りにいる物怪のせいやと思ってまうわ…。」
「それもダメですよ。いろんなものを敵に回します。」
「あー!あー!もううるさい!わかってるいうとるやろが!」
その様子を見ながら気まずそうに口を挟む。
「ホウチュンたちは関係ありませんよ。俺の過去の行いが招いた災いです。他の者のせいにするつもりはありません。」
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