2

普段と変わらないように見える山は大きな問題を抱えていた。


かつてひぐっさんは少女を助けようとした。

その仕事は最後まで完遂することはできずクマ撃ちに妨げられた。


「俺があの時情けなんかかけずに確実に殺しておくべきでした。」


「過去のことを言ってもしょうがないだろ。ひぐっさん、お前は間違ってねえよ。人と関わりを持った動物は生殺与奪に迷いが生じるもんだ。」


寺嶋はチチチと軽く笑いながらひぐっさんの肩に止まる。


「寺嶋さん…。ありがとうございます。けど、その甘さのせいで今あのクマ撃ちが山を荒らしてるんだ。」


ひぐっさんは苛立ち地面をドンと殴りつける。

その反動で寺嶋は投げ出されるがうまくバランスを取り滞空する。


「あ、悪い。寺嶋さん。」


「おめはどうしてえんだ?」


リクガメは端的に聞く。


「俺が撃たれれば…この件は収集がつくと思います…。」


その言葉に寺嶋は激昂する。


「バカ言ってんじゃねぇ!お前が殺されて悲しまねえ奴がいねえとでも思ってんのか!俺だって悲しむだろう!わけえ奴らはもっと心に傷を残すぞ!考えてもの言え!」


寺嶋の言葉にひぐっさんは俯き涙を流す。


「でも、どうしたらいいんだよ…?寺嶋さん…リクガメ様…。」


リクガメがのそのそと前に出てひぐっさんの腕を甘噛みする。

ひぐっさんは驚きリクガメを見つめる。


「泣き虫、毛虫。泣いたってなんともならんわ。確かに俺らにはどうしようもないわ。先生に手を借りてもいいがどうなるか想像もつかん。だからその手は使わん。」


一呼吸おいてリクガメはひぐっさんの目をまっすぐ見る。


「ほとぼりがいつ冷めるかはわからんが、おめはしばらく他所へ行って身を隠せ。どうなるかはわからんが実際にいないと分かれば諦めるやろ。」


ひぐっさんは俯きただ頷く。


「安心しろ、ひぐっさん。ホウチュンにはしばらく山に来ないように誘導しておく。トビーもしばらく街に滞在するよう言ってる。クマ撃ちだから余計な心配かもしれんが被害は最小限になるようにしてる。」


寺嶋は再度ひぐっさんの肩に乗り翼で首の裏をさする。

ひぐっさんは涙を流し言葉を途切れ途切れに紡ぐ。


「すまん…。ありがとう…。ホウチュン達には…言わないでくれ…。彼らには…いつもの…日常を…送ってもらいたい…。」


リクガメは背を向け洞窟の外に向かって歩き出す。

数は歩くと足を止めて振り返る。


「寺嶋と俺で二つ山に口を聞いて匿ってもらえるように言ってる。この恩を噛み締めろ。俺らへ恩返しせん限り死ぬことは許さん。なんとしても生きろ。」


それだけいうともう振り返ることなく出口へ向かう。


「まあ、そういうこった。ひぐっさん、細かいことはまた決まり次第報告しにくる。俺も死ぬことはぜってえ許さねえからな。」


寺嶋も言いたいことを言うと出口は向け羽ばたく。


「ありがとう…ありがとう…。」


暗い洞窟の奥。

冷たい地面を涙が少し暖めていく。

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