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街道が近くなってきた。
ひぐっさんは周囲の匂いを嗅ぐ。
少女の匂いは先に続いているがその先には違った匂いもする。
うまく誤魔化しているが体から放たれている呼吸や汗の匂いを誤魔化すことはできない。
クマ撃ちだ。
彼らはいつでも緊張した匂いがしている。
殺し殺されを楽しむ人種なのだとひぐっさんは思っていた。
足を止めたひぐっさんに少女は上から覗き込むようにして話しかける。
「どうかした?もしかしてもうすぐつくの?」
ひぐっさんは黙って首を振る。
先ほどまでとは違う張り詰めた野生の雰囲気を醸し出すひぐっさんに少女も気を張り詰める。
「何か…いるのね?」
黙って頷くと体を振るって少女に降りるよう促す。
「お嬢さん、ここからは危ない。お一人で行かせるのは忍びないが私が一緒にいるより危なくない。」
「いや!いやよ!私たちお友達じゃない!クマにもあって欲しいし私の家族も紹介したいわ!」
ひぐっさんは黙って首を振る。
「この先に小さな獣の匂いがこちらに近づいてきてる。おそらくお嬢さんのクマだろう。迎えにきてくれてる。早く見つかってやりなさい。」
少女はひぐっさんにしがみついて離れようとしない。
困りながらも悪い気はしない。
しかし、自分といては少女も危険な目に遭わしてしまうのは変わらない。
再三の説得も彼女には馬の耳に念仏。
「今生の別じゃないよ。またきっと会えるさ。俺とお嬢さんは友達なんだろう?ならば別れは再会の前約束さ。」
納得しないながらもこれ以上訴えかけてもひぐっさんの決断は変わらないだろうと諦めかけたその時。
パァン!
静かな森に無情な音が響く。
まさに感情のない鉛玉が打たれた音だった。
少女を庇って腕で鉛玉を受け止める。
「グゥ…グルル。」
撃たれた痛みに耐えながら少女の前に立つ。
匂いを確かに追っていたつもりだったがどうやら一枚上手の相手だったようだ。
ひぐっさんの嗅いだ匂いはダミーでいつの間にか近づいてきねたようだ。
「な、なに…?ひぐっさん?血が…。」
パニックになりそうな少女を努めて冷静に声をかける。
「俺なら大丈夫。お嬢さん、お逃げなさい。直ぐそこまでクマさんがきている。後ろの森を突っ切れば見つかるだろう。」
少女は大粒の涙を流しながら首を振る。
しかし、そんなことをしてもひぐっさんを困らせるだけだとわかっていた少女は唇から血が出るくらい噛み締めて背を向け走り去る。
その様子を確認したひぐっさんは前を向き直し姿を見せないクマ撃ちとの決戦に備える…。
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