無辜のマレフィキウム〜魔女狩り異聞譚〜

後藤ふたり

第1話

「邪悪なこと《マレフィコス》を行う者は生かしておいてはならない」『出エジプト記』(22:18)


「男であれ、女であれ、口寄せや霊媒は必ず死刑に処せられる。彼らを石で打ち殺せ。彼らの行為は死罪に当たる」『レビ記』(20:27)


「預言者や夢占いをする者は処刑されねばならない」『申命記』(13:5)


〜丘の上からの視界〜


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 不吉な予感がする...

薬草学に通じた祖母から頼まれ数里離れた隣村までお使いをした帰りに、私は自分の暮らす村から、あと小高い丘を二、三越えるばかりという場所で、橙色になりかけている空に灰色の煙の立つのを見た。


 訝しみながらも早足で一つ目の低い丘を上る。より高い丘があるので村の全景は見えないけれど、ほど近い柏の森が瞥見べっけんされた。今よりも、もっと小さかった頃に、愛する母と祖母とで一緒に散策した場所だ。香しい新緑の匂いが大好きだった。今は新鮮な若木を燻した様な、或いは豚肉を炙った様な臭気が丘の上を領している。一つ目の丘を下りた谷間にも、それは澱んでいた。

 二つ目の丘の上を上ると、もっと濃い焼けた様な臭いが満ち満ちていて、底にも沈み込んでいる。早鐘を打つ様な、動悸がする......

 最後の丘を、より濃くなる臭いに咽せながら、急く心とは裏腹に鉛の様な重い足取りで上る。眼下には、素朴な田舎の農村の、少し欠伸の出るような、けれど愛すべき見慣れた光景が、そこには、なかった......


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 小高い丘から見下ろす眼に映るのは凄惨な光景だった。様々な大きさの家の並ぶ村の中央には広場があって、あぁ、今し数名の人間らしき黒い消し炭が、両手両足を太い木杭に戒められて、灼熱の業火に焼かれているではないか!燃え盛る炎からは黒煙が立ち込めて、燻煙している様な臭いが鼻を刺す。広場の左方の、程離れた所に木製の二本の支柱の間に、梁の様に棒が掛けられている。縄で括られた首を支点として、三人の女性が風にゆらゆらと揺らめいている...



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 ここまで読んで下さって、誠にありがとうございます。以前から書いてみたかった、"魔女狩り"をテーマにしたファンタジーです。厳しい現実に抗って生き抜く様な、読んで下さった方の力になれる様な、楽しい作品にしたいな、と思っています。

 ちょいちょい、文章添削したり、加筆したり、更新したりしますので、よろしくお願いします!




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