第19話 準備完了

 雑誌の創刊をエウロに持ちかけてから、あっという間に一ヶ月が経った。誰に急がされているわけでもないが、結果的には全速力で製作を行ったので、非常に忙しい日々となった。


 魔法協会との契約、事務手続きをエウロが担い、私がコンテンツの企画と取材を、アファレとスィレンが雑誌の写真、文章を整理し、テッラが私の作った魔法書を元に新たな雑誌流通のためのシステムを作った。まあ、私は取材される側でもあったが。


 雑誌入れ替えの魔法書を作ること自体は特段苦労しなかった。遠隔起動の魔法書も、すでに作ったことのあるものだったし。問題はテッラが本当に四号ゴーレムによる魔法書の発動ができるかどうかだが、『おっけー』という緩い返事をもらっている。まだこの目で見ていないので確実ではないが、嘘をつく意味もないのでまあ大丈夫なのだろう。


 三日前、中身を作成していたメンバーで集まり、成果物を回収した。アファレとスィレンが作った私の記事は、正直まともに読むと気恥ずかしい気分だが、クオリティは間違いなく高いものだったので、拒否せず受け入れよう。


 ピアンテに関する記事は私がすでにまとめている。魔法書の読み方に関してはかつて魔法学校で教えていた内容を引っ張り出して簡単に整理して載せ、文字の読み方に関しては同じく魔法学校での、かつての知り合いに執筆依頼を出した。魔法言語の教授で、大魔導士たちと同じく変わり者である。


 頭が非常にキレるやつだったので、難解な内容にならないよう、赤ちゃんでも分かるくらいわかりやすくと書いたら、赤ちゃん言葉で書いてきやがったので先々週にリテイクし、完成物がようやっと昨日に届いたのだ。今度は私がすらすら読めるくらいの内容でと説明したら、まさしくちょうど良いものとなっていた。ちゃんとしたものができたのはいいのだが、それはそれとして私のことをなんだと思っていやがる。


 結局、載せることとなったコンテンツは順番に、

・魔法書店について(私のこと含む)

・田舎の魔法使い(ピアンテ)

・文字の読み方

・魔法書の使い方

・スィレンによるルミエールのミニエピソード

 となった。


 そして、エウロとの約束の通り、表紙は私の写真。どの写真にするつもりなのか見せてもらったが、思ったよりまともな写真だった。私が魔法書を片手に、実際に魔法書を使うときの感じで決めポーズしているものだった。アファレに好き勝手されていた内の一枚だ。幸い服装はまともな魔法使いのローブのものであり、表紙で手に取る気が失せるようなコスプレではない。


 それにしても、改めて自分の姿を見ると、本当に別人だな……。今まさに動いている自分の体のはずなのだが、写真自体は知らないモデルを撮ったものかと勘違いしてしまいそうだ。下手に整った顔と体格のせいで、より一層自分な気がしない。いい加減、慣れなければ……。


 実際に紙としてまとめるに当たっては、こちらの世界には存在しない物を作ったために、手間取ることも多かった。特に、昔のようにパソコンがあるわけではなく、最初のひな形を作るのに苦労した。が、エウロの用意した関係各所の尽力により、魔法書より大きないわゆる雑誌サイズでの製本に成功し、あとは各魔法書店に配るだけとなった。


 雑誌のタイトルは、『LuceMagia』。発案者は、私。なんかアルファベットの数単語で書くと、めっちゃ雑誌ぽい雰囲気が出てくるのでそうした。自分の名前を入れるのは自意識過剰かもしれないが、表紙を飾った時点で今さらである。


 雑誌入れ替えの魔法書はすでに魔法協会の管理する輸送用ゴーレムたちに持たせてあるので、後はテッラの準備が整えば、いつでも雑誌の販売が開始できる。すでに連絡は取れていて、本日、ゴーレムによる雑誌運搬が本当に可能だったのか、直接確認しにいく予定だ。


 というわけで珍しく、私からテッラの元へ行くこととなった。


 彼女は現在、王都から一つとなり、名門魔法学校──エミネンテ魔法学校のあるスクオーラという街に住んでいるらしい。この街は王都のとなりにあるために、住んでいるのはほとんど高名な家柄の人々。あとは各地から学生たちがやってきて、学業に励むのがメインの街だ。エミネンテ魔法学校以外にも、カフェなり、学生向けの市場なり、それこそ魔法書店なり、学生街となっている。


 エミネンテで先生をやっていたために、私も街自体は何度も訪れているが、わざわざ彼女の家まで行くのは初めてだ。


 大魔法使いだし、どんな立派な家に住んでいるんだろう……と、思いきや。


 だいたい、魔法学校に通う生徒は併設された寮に住んでいる。彼女は入学した時期が早かったので、年齢的にすでに卒業しているのかと思っていたが、どうやらそうではなかったらしく、来るように伝えられた場所は、その寮だった。


 当然部外者の私一人が勝手に学校内に入るわけには行かないので、テッラに校門まで来てもらい、付き添いで寮の部屋まで行った。途中、物珍しそうに私を見る生徒たちが多かった。逆に、私の方も、今までは先生として歩いていたはずの廊下だというのに、生徒どころか全くの部外者として歩くというのは、おかしな気分だった。


 部屋に入ると無数のミニゴーレムがそこら中にいたが、まあ想像通りなので全く驚かない。適当に空いてる床のスペースに座らせてもらい、ようやっと二人で話せる状況にたどり着いた。


 まずもって、雑誌の前に、気になっていた事を聞いた。


「まだ魔法学校に通ってたんだな」

「まだってどういう意味?」


 テッラは怪訝な顔をする。

 やべ、口が滑った。今のなし。


「ほら、テッラは早期入学したという話だろう? 早く入った分、とっくに卒業しているのかと思っていたぞ」

「ああ、それね。ちょっと事情があって、長居してるんだ」

「事情とは?」

「ししょ~以外には内緒の話だから。ルーチェでも教えない」

「そ、そうか……」


 私、一切そんな事情は知らないんだが……昔に話されたか? 全く記憶にない。そもそも、テッラは昔から私にあれこれと率直に話してくるタイプだったし、隠し事などないように見えるのだが……。


「ていうか、僕はその話をしたくてルミエールししょ~に会わせてって、ルーチェと最初に会ったときに言ったんだけど。まだししょ~は帰ってこないの? 緊急じゃないとはいえさ、そろそろさぁ。雑誌の魔法書作るために、実は一回帰ってるんじゃないの?」


 雑誌を入れ替える魔法書は、ルーチェが作ったのだとあまりにもおかしな話になってしまうので、ルーチェがルミエールに事の次第を伝え、作ったものを私が受け取り、エウロ、テッラに引き渡した、ということになっている。冷静に考えれば無理が多いし、確かにテッラの言うとおり、連絡をするにしても一回会いに来てるだろという指摘は非常にごもっともである。


「ま、まだだな。あ! でも近々帰ると連絡があったぞ」

「本当に!? ちゃんと僕の元まで引っ張ってきてね!」

「あ、ああ。約束しよう」


 あまりにも突発的な約束だが、仕方ない。さすがに弟子の内緒話をほったらかしにするのは良くないと罪悪感にかられた。幻影魔法でもなんでもいいからごまかして、一度姿を見せなければ……。なんかもう、意地を張ってないで素直に白状すべきだと理性が言っている。が、それは私のスローライフが消え失せることを意味するわけで……。悩ましい……。


「で、ルーチェは雑誌の話に来たんでしょ?」

「そーだな。あ、本当に上手くいったのか?」

「当たり前だよ。ししょ~の魔法書なんだから。四号ちゃん、試しに見せてあげて」


 と、テッラが小さなゴーレムの一つに話しかけると、そいつはトコトコ歩いて、床に寝かせておいてあった魔法書を拾い上げ、器用にページを開く。


 三号が確か、テッラが散歩のさいによく肩に乗っかっている巨大なやつだったから、てっきり四号もでかいのかと思っていたが、そうではなかったらしい。想像に反してちっこいヤツだった。サイズが大きいと威圧感があったが、それこそ魔法書と同じようなサイズだと、動くぬいぐるみみたいでかわいげがある。


 その後またトコトコ歩いて、あらかじめ用意しておいた土印を持ち上げ、ページの所定の場所に印を押す。土印はゴーレムの識別用のハンコであって、用は人間の魔法印のゴーレム版のようなものだ。運搬用ゴーレムに対応する土印があり、これを四号専用遠隔起動の魔法書に押すことで、対応するゴーレムの持つ魔法書が発動する仕組みとなっている。


 今はテスト用の土印なので、雑誌入れ替えの魔法書が発動するわけではないが、代わりに近くにいたゴーレムが片手を挙げるようになっていた。やっぱ、なんかかわいい。テッラがちゃん付けで呼ぶくらい愛でる理由が分かった気がする。


 見る限り、魔法書、およびゴーレムの動作は問題なさそうだ。実際にやってみたら問題が起こるかもしれないが、それはもうやらなければ分からないことなので、仕方ない。起こってから対応しよう。


 よし、全ての準備は整った。いよいよ明日から魔法協会に発送し始めてもらい、来週には各魔法書店で販売が開始されるだろう。


 魔法雑誌「LuceMagia」、これにて創刊!




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