第18話 師弟の相談会

 雑誌内の文章をスィレンに任せ、写真はほぼ撮り終わり、ピアンテへの取材も終わった。後残すは魔法書を学ぶための方法についてと、雑誌そのものの流通方法について。細かい契約などはエウロに任せているが、大雑把なことについては私が決める必要がある。特に、流通における重要人物とやり取りしなければならないので、これに関してはエウロには任せられない。


 いや、任せてもなんとかはなるが、絶対にケンカすると思うので。


「やっほー。僕が来たよ」

「すまんな。こちらの都合で呼びつけてしまって」


 というわけで、テッラと相談するため、私の魔法書店まで来てもらった。礼儀から言えば私から出向くべきなのだが、私が馬車に揺られていくより、ゴーレムに乗ってくるテッラのほうが速いので。あと、魔法書店で話したほうがリラックスできるって個人的な理由。


 議題は、もちろんテッラの得意分野のゴーレムに関して。現在、私の魔法書店以外にも、当然いくつも店があるが、その運搬はテッラのゴーレム技術によって行われている。


 ところで、通常の魔法書と、新たに始める雑誌の大きな違いは何か? それは、一定期間ごとに必ず物を入れ替えていく点だ。私も学生自体、数々のコミック週刊誌を読んでいたわけだが、あれらと同じだ。読む人に取っては、毎週必ず新しい内容の物を読めるので、その分新たな情報を得られるし、書店に足を運ぶきっかけにもなる。


 しかし、ただただ雑誌をばらまくだけでは、魔法書店側だって邪魔だろう。ゆえに、魔法書店が得られるメリットを明確にしなければ成らない。一つは、先ほどの魔法書店に足を運ぶきっかけになるという点。単純な業界紙的な役割をなすとしても、常連には足を運ぶ理由とさせられるし、もし私の狙い通り、今まで魔法を使ってこなかった人への教育に成功したのなら、そもそもの客を増やすことに繋がる。


 そして、二つ目、これは経営的な面で大切なことで、売れ残った雑誌を返品したなら、魔法書店はその分の仕入れにかかるお金を払わなくて良い、ということ。要は、魔法書店に金銭的なリスクはないのだ。売った分だけ儲けになるし、売れなくても返品すれば負債にならない。せいぜい雑誌を陳列する手間くらいか。


 という、前世こと日本の雑誌と同じようなシステムを作りたい。ので、テッラと話が必要だったのだ。現状、ゴーレムは毎週決まった日に魔法書店へ魔法書などを運ぶシステムになっているので、とても都合の良い状態が整っているのだが、せっかくゴーレムが運んでいるのだし、もう少し工夫したい。


 私が懸念しているのだは、せいぜいと言った雑誌を陳列する手間である。割と無視できない。売れるかも分からない無名の魔法雑誌を陳列する手間を、はたして私以外の魔法書店の者たちがやってくれるか、微妙である。まだどの程度の量を出版するか決めていないが、少なくとも各店に一冊や二冊という小規模でやるつもりはない。


 手間だからうちの店では入荷しない、と言われては、当初の目的の達成はほど遠い。


 そこで、古い雑誌を抜き取り、新しい雑誌を並べて帰るところまで、ゴーレムにやってもらえないかと思いついた。先ほどから言っているように、雑誌は同じ物を入れ替えて一定期間ごとに出すのだ。場所は固定的だし、他の魔法書のように適切に並べ替える必要もない。幸い今は私の構想しているもの以外に雑誌は存在していないし、一種類ならそう複雑な処理も必要ないのではないか。


 以上が、テッラに聞きたいことである。前提知識を含めて少し長々とした説明をしてしまったが、テッラはちゃんと最後まで聞いてくれ、ん~、と考え込んでいた。まるで、未知の問題に当たったときの数学者のようだ。


「ゴーレムちゃんたちが、本を持っていって、古いのを回収して、新しいのを置いて帰る……んだよね?」

「そうだ。建物の中に入らずとも、屋外に置いたテーブルを雑誌用の陳列台にするつもりだが……どうだ?」


 さすがに、ゴーレムが店の中に入って陳列するのだと、いろんな面で上手くいきそうにないのでやめておく。あまりゴーレムにずかずか上がられたら不愉快な人も怖がる人もいるだろうし、何より建物のサイズによっては入る際に店ごと破壊しかねない。


 初回は陳列用のテーブルもサービスってことで各地に机を持っていき、そこに雑誌を置いてくれと指示するつもりである。店の人間に管理する手間を与えなくて良いし、店の外ならば魔法書店に興味がない人にも目立つだろうという目算もある。


「僕の作ったゴーレムちゃんなら簡単にできるけど……魔法協会の人たちに渡したゴーレムを作る魔法書だと、ちょっと性能不足かな」

「ほう、何が違うんだ?」

「あれはね、決まった動きをするだけだから。同じ道を歩いて帰るだけだから。あと、荷物を持ち上げて降ろすくらい?」

「なら、古い雑誌を持ち上げて、新しい雑誌を下ろすのもできそうだが」

「確認だけど、ルーチェの考えてるのって、店に来るゴーレムが一体の場合だよね」

「そうだな」


 すでに魔法書を運ぶのに使っているゴーレムを利用するつもりなのだから、当然だ。


「そうすると、決まった道を歩いて行って、荷物を降ろして、古い雑誌を回収して、空いてる木箱に詰めて、運んできた荷物から新しい雑誌を取り出して、テーブルの上に置いて、魔法書の返品と一緒に詰めて帰る……って、複雑化しちゃうよ。できないこともないけど、魔力消費が跳ね上がっちゃうかな」

「なるほど……燃費の問題か……」

「やるなら魔法書用のゴーレムと、魔法雑誌用のゴーレムで分けなよ。まあ、ゴーレムの数が二倍になっちゃうけどね」

「それでは意味がないだろうな」


 なにより、魔法協会が管理しきれないだろう。運送会社に、いきなりトラックの数を二倍にしろとか言ったら、それはもう大変な事になるに違いない。


 やはり、魔法書店の店主たちに雑誌の素晴らしさを説いて説得して回る方が早いか? 

いや、情報を伝えるために雑誌を出しているのに、その説明のために足を運んでいては、なんだか本末転倒な気がする。最初から魔法の講習でもして回れば良いという話になってしまう。


 それに、せっかくの魔法の世界なのだ。魔法でなんとかしたい、という意地がある。テッラに難しいのならば、後は私がどうにかできるかどうかだ。これでも昔から、魔法書の研究は第一人者なのだ、今回だって……できるか?


 流石にゴーレムは作ったことないぞ。


「ルミエール──」

「え?」


 考え込んでいたのに、思わずはっとしてテッラの顔を見てしまった。急に、ルミエールと言われたから。テッラはじっと私を見ていて、どこか故郷を見るように、懐かしそうにしている。


「あ、ごめん。ルーチェが考え事してる顔が、ししょ~そっくりだったから」

「ああ……なんだ、そういうことか。びっくりしたわー」


 てっきり、正体がばれたのかと。なお、そっくりというのは間違いではなく、そのものであるので、テッラの言うとおりである。


「ししょ~がその顔した後は、だいたい大発明だったんだよね」

「そうなのか?」

「うん。見たこともない魔法書が誕生してたよ、ほとんど毎回。ぶっちゃけ怖いくらいに」


 確かに、ちょっと考え込んだかと思ったら、文明変えるレベルの発明をしていたら怖いかもしれない。当時の私には全くそんなつもりはなく、興味のままにやっていたのだが、周りの人からしたら怖いか。……だからことあるごとに貴族たちに目をつけられていた可能性があるな。今さらに気づいたところでもう遅いが。


 テッラは怖いくらいに、というが、あまり怖がっている様子はない。むしろ、懐かしさにちょっと口元を緩めているように見える。ルミエールに師事していた頃を回想して、良い時代だったなぁと振り返っている……というのは、私の驕りすぎだろうか。


「そういえば、さ。ルーチェにずっと聞きたかったことがあるんだけどさ」

「……なんだ?」


 妙に真剣な面持ちを浮かべるテッラ。次に何を言い出してもおかしくない。


 やはり……私がルミエールだと気づいているのか? 正直ボロなんて出まくりだし、今さらししょ~だよね、と言われても、全くおかしいとは思わない。


 いよいよ、白状するときか?


「なんでゴスロリ服着てるの?」


「……私の意思ではない、とだけ言っておこう」


 テッラの顔は、真剣なのではなく、意味不明すぎて対応する表情がなかったために、真顔になっているだけだった。プログラミング的に言えばnull顔である。そんなものは存在しないが。


 アファレに無理矢理着せられたまま、テッラとの約束の時間になってしまったのでしょうがない。着るときは着せ替えの魔法書で着せられたために手間がなかったが、地味に脱ぐのが大変なのだ。というか、こういう服が初めてな私には、もはや脱ぎ方がわからない。


 あの着せ替え魔法、おそらく転移魔法の応用であって、相当に高度だろうに、なんだってこんな下らない用途で……。


 おっと──入れ替えといえば転移魔法だ。


 そうか、どーせ毎週出すのだから、雑誌の号ごとに転移魔法用のマーキングをつけ、古い雑誌と、新しい雑誌を入れ替えるようにして転移させてやればいい。魔法書の発動で荷物の入れ替えを行えるようにすれば、ワンステップで事が終わる。


 ただ、魔法書は作れば良いが、後はゴーレムが魔法書を使えるかどうかだ。魔法にかかる魔力については、魔法書自体の魔力が使えるのでゴーレムに負担をかけないが、発動のトリガーをどうするかだな……人のように発声はできないし、本の特定のページを開いて中の魔法陣に指を置く、なんて細かい作業は当然できないし。


「テッラ、ゴーレムは魔法書を使えると思うか?」

「え……考えたこともなかった。えっと……魔法書なら、発動手段さえ確保できれば確かに使えるかも? あ、でも、魔法協会の単純ゴーレムだと魔力コントロールができないや」

「う~む……その通りって感じだな」


 なかなか手詰まりだ。ゴーレムが魔法書を使えたなら、あとは私が魔法書を作るだけで即解決するのだが……。肝心の発動をどうすれば良いのか。


 ピアンテの一件の時から、少し考えていたが、本当の意味で誰でも使える魔法書は作れないものか。全く事前知識がなくとも、それこそ家電のスイッチを押すだけで使えるようなものは。それができれば、ゴーレムにだって使える魔法書になるだろう。


「あ、ねぇ、僕名案思いついた」

「お、期待大だな。なんだ?」

「ルミエールししょ~のインデックスと同じ仕組みでできるんじゃない? ルーチェも知ってるでしょ? なんか、勝手に魔法書が発動するヤツ」


 私のメインウェポンだったはずのインデックスという魔法書。現在はオスクリタに盗られてしまっている。


 その効果は、魔法書の召喚と発動である。簡単に言うなら、魔法書を呼び出す魔法書、それがインデックスだ。


 これが魔導書ならば呼び出したところで、はいすごいね程度で終わってしまいのだが、インデックスの特徴は魔法書を呼び出すこと。魔法書を呼び出すということは、魔力ごと呼び出せることになり、呼び出し元の魔法書が尽きない限り、無限に魔法が打てるのだ。


 遠隔発動のシステムも組み込んだので、極論をいえば、1000冊魔法書を呼び出して1000冊同時に魔法を発動することも可能だ。無駄でしかないのでやらないが。


 無限に湧き出る魔物と一人で戦うため、必然的に生み出されるものではあったのだが、どうやら私以外には作れないらしく、ちょっと現代的な言い方をすれば国宝級の代物となってしまっている。


 だが、もう作ったのが昔過ぎて、どうロジックを組んだのか正確には覚えてない……遠隔発動の機能は、確かインデックスからリモコンで操作するイメージで魔力のリンクを作ったはずだ。


「遠隔で起動か……でも結局、ゴーレムには無理じゃないか?」

「そこは僕の四号ゴーレムちゃんに任せて。もし遠隔で起動できる魔法書があるなら、僕のゴーレムちゃんが起動の役割できるよ」

「え、マジ? そんなのいるの?」

「いっぱいは作れないけど、僕の四号ちゃんは魔力コントロールができるから。指定の場所に到着したら、魔法協会のゴーレムから四号ちゃんに連絡するようにして、四号ちゃんが現地の魔法協会のゴーレムが持ってる魔法書を遠隔で起動して、雑誌の入れ替えをする。っていうので良いんじゃない?」

「連絡って、どうやるんだ? そこが難しいように思うが……」

「ん? 地面で土と繋がってるんだから、そこは楽勝だよ?」


 そういうものなのか、魔法って。あまり人のことを言えないが、専門外の属性になると訳わからんな。話を聞くだけだと、私のインデックスよりはるかに高度なことをやっていると思うのだが……。


 しかし、現実的にテッラができるというのだからできるのだろう。


 構想ができれば後は作業するだけだ。さっさと作ってしまおう。名前は……そのまんまでいっか。『雑誌入れ替えの魔法書』で。


「ふふ、ルーチェと話してると、本当にししょ~と話してるみたいだね。楽しい」

「……ルミエール様と一緒に過ごしてたから、私も口調が移ったのかもな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る