魔法雑誌創刊編

第12話 久々の王都へ

 さて、私は今どこにいるでしょーか?


 正解は──リブロ王都でした!


 と、ゆらゆらと馬車に揺られ、久々に訪れた王都にて、しょうもない一人クイズをやってみた。今のかわいい女の子モードならば、こんなあざといことをやっても見苦しくないだろうが、残念ながらスマホも鏡も持ち合わせていないので、本当にただの一人芝居である。


 寿命が尽きるまで、二度と戻らないと覚悟を決めて王都を離れたはずが、なぜだか寿命が倍になってしまったので、戻ってくる羽目になってしまった。人生とは何が起こるか分からない物だ。まあ、少女になるとは誰も思わないだろうが。


 もちろん、わざわざ王都に遊びに来たわけではない。


 ピアンテの家に泊まってから一週間後に王都に出した手紙が返ってきて、『来い』という熱いメッセージを受け取った。ルミエールではなくルーチェの姿になった今、正直王都に顔を見せるなどしたくないのだが、やはりオスクリタの情報を手に入れることができないと、どうにも安心できない。プラス、魔法書の普及に関して相談したいこともあるということで、仕方なく。


 手紙を見てから一週間は同じ生活をして粘っていたのだが、ピアンテが最初の魔法書を使えるようになったのを見て、重い腰を上げることにしたのだ。


 最初、ピアンテに魔法書の説明をしたとき、あまりに伝わらなかったので、魔法を使えるようになるまで一年くらいかかってしまうのではないかと危惧したが、やはりモチベーションの高さの分、才能も持ち合わせていたようで、わずか半月で魔法の初歩にたどり着けたというわけだ。


 ちなみに、魔法学校にて魔導書を使って魔法が扱えるようになるまでがだいたい一年である。魔法書を使っているとは言え、素晴らしい進化スピードだ。


 ここまでに、私も認識を改めて、初心者向けの魔法を勧めることより、まず適正のありそうな属性や魔法を探すことから始めた。得意な教科は教科書を読んだとき、覚えや理解が速いのを思い出して、もしかしたら……と、ピアンテを魔法書店に連れて行って、属性ごとにいろいろ読み比べてもらった。


 火属性の魔法書は全く理解できず、雷属性はいまいちで首をひねり、しかし、水属性の魔法書を読んだときは、意外にもすらすらと読める様子だった。元々、商人からもらったとかいう水の魔導書を、分からないなりにも読んでいたことも功を奏したのかもしれない。


 今回は現在在庫のある魔法書を見比べてもらって試したが、もっと私の能力が上がれば、適した魔法書を取り寄せて案内することもいずれはやっていきたい。再販制度とかなんとかで、返品ができるのだ。一つの魔法書ばかりを穴が空くように読ませる必要もないだろう。一番適正にあったものを買ってもらわなければ。


 ちなみに、私がベントウルフと戦った際に使った二冊の魔法書は、こんな弱い魔法書はあまり使い物にならないから別のものと入れ替えようと思って、返品のため定期便を運んできたゴーレムに返品の札を貼って渡した。


 すると、次の便で帰ってきた。おい、返品の話はどこに行った? と、取り出してみれば紙が入っていて、『使用済みの魔法書は返品不可です』と書かれていた。……考えて見れば当たり前か。一応魔法自体はまだまだ使えるが、一回でも使ったら返品不可、というルールになっているようだ。


 しかし、一回使ったものを売り物にするのはあまり良くない気がするし……返品しようとしたやつが何を言っているんだという話だが、私が買ったことにするしかない。経営的には損失だ。今後、お試しで使ってもらうのは、買ってからにしてもらおう。


 とはいえピアンテの場合、魔法を使えるかどうかがわからない。なので、一度魔法書を貸し出す形にして、実際に使えたら買ってもらうことにした。貸したのは、水球を出す魔法書である。


 最低限、魔法学校のカリキュラムをできるだけ簡単に、最低限使うための知識だけに絞って伝え、あとは魔法書の発動ができるまで、読解と練習を繰り返してもらった。今回は詠唱するタイプだったので、詠唱と共に魔法が発動する感覚をつかんでもらうまでは、私は見守るしかない。


 そして、来たる日──ピアンテの『水よ』という一言とともに、開いた魔法書の上には小さな水球が現れた。初めての魔法に成功したのだ。


 まだ体内のマナを使って魔法を発動することはできないようだが、魔法書で感覚をつかめればいずれは可能になるだろう。そうでなくとも、魔法書をバンバン使う戦闘スタイルは個人的にもおすすめしていきたい。自分の魔力を使わないことは、様々な面でメリットがある上、私の得意分野なのだ。大魔法士と呼ばれるだけには。


 ともかく、第一ステップのクリアは見届けた。精一杯教えたかいがあったと、やったやったとはしゃいでいたら、イゾラの人が皆、自らの街に魔法使いが誕生したとうわさをし、喜び始め、気づけば祭りになっていた。


 私はあまり騒がしいのが好きではない、というかこの年で騒ぐ方がおかしいだろうと身を引こうとしたのだが、ピアンテに手を引かれて強制的に参加になってしまった。


 かつては遠くで小さくなった音だけを聞いていた祭り、その中心部にいる日が来ようとは、これまた思ってもみなかった。街の人たち全員の前で自己紹介をするはめにもなったが、これも魔法書店の宣伝のためだと割り切った。


 しかし、若い女になるとこうも男どもの目線が違う物か。どいつもこいつも妙な目をしやがって。今後はいつでも吹っ飛ばせるように風の魔法書を抱えて生活することにしよう。 


 そんな決意を決めたが、それは単純に私の存在が物珍しかっただけのようで、あれこれと質問をされたものの、魔法や出自に関してで、セクハラまがいの発言や、面倒事などは一切なかった。むしろ、ピアンテに教えた事、魔物から守ったことへの感謝を何度も言われた。


 想像以上に、良いやつが多い。やはり、イゾラは温厚な街だな、隠居先にはぴったりだし、魔法書店をやるにしても穏やかにやっていけるだろう。


 一通り事が終わった後、大人たちは早々に酒を飲み潰れ、各自家に引きずられていった。魔物の件も片付いていないし、夜に道ばたで寝転んでいるわけにはいかないし。


 人が去って言った後に、ピアンテからも改めて、お礼を言われることになった。


「ルーチェさん、本当にありがとうございました! 魔法が使えるようになったらいいなって、ただの願望だったのに、ここまで面倒見ていただいて……。あの、追加でどれくらいお金払えば良いですか!」

「いや、別に魔法書の代金だけで大丈夫だ。私としても、良い経験になった」

「謙虚な方ですね……ならせめて、今後魔法書買うときは、ルーチェさんのお店で買いますね、絶対に!」

「ああ、今後ともごひいきにってことで」

「お世話になります!」


 素っ気ない対応をしてしまったかもしれないが、これでも内心かなり喜んでいる。超うれしい。


 ピアンテは最終的に水球を出す魔法書を買い、加えて二冊、水に流れを作る魔法書と、水で形を作る魔法書を買った。これが、私の魔法書店での初めての販売となった。初めて使う魔法書を初めての売り上げにできたのだから、これ以上はない。お互いにとって、貴重な思い出になるだろう。


 かつて王都で仕事をしていた頃に比べれば些細な報酬金額だが、明らかにやりがいが桁違いだ。一冊売るだけでこれなのだから、今後が楽しみだ。


 ピアンテもどんどん成長していくだろうし、別の魔法書にも手を出すだろう。彼女の成長とともに店をやっていければ何よりだ。


 以上がイゾラでの顛末であり、私もどこかでピアンテに感化されたのか、王都まで向かうことを決めたのだ。


 万が一また魔物が現れたときのために、イゾラに結界を張ってきた。ピアンテも魔法を使えるようになったことだし、私が要らなくなる日も近いに違いない。


 ところで、ピアンテの時にも軽く属性分けをしたが、基本属性は全部で七つある。火・水・風・雷・土・光・闇だ。五大魔導士・二大魔法士はそれぞれ一つずつ属性の専売特許があり、火の大魔導士、光の大魔法士などと呼ばれている。私は一応属性的には光なのだが、一般の人に取っては魔法書のイメージが強いので、大魔法士といったらルミエールを差している。


 なお、テッラは大魔法士を自称し、実際ゴーレムの大魔法士と呼ばれてはいるのだが、魔法の属性自体は土であり、魔法よりかは魔導に近い。正確には土の大魔導士のはずなのだが、それでも大魔法士を名乗るのは、単にルミエールリスペクトのためである。ストーカーみたいで怖いね。


 今回手紙を送っていたのは、風の大魔導士、エウロである。大魔導士には変わり者が多く、いや私も人のことを言えたものではないのだが、ともかく話の通じない連中なのだ。


 その中でも唯一、話ができるまともな人間がエウロという青年。青年と言っても私と同じくらいの歳を重ねており、風の加護によって風貌が老化せず、まったく変わらない。彼は私が出会った頃から青年であり、歳が近かったのもあって、昔からずっと友達感覚で接していた。


 他の連中は手紙なぞ出しても絶対に返事がないのに、彼は確実に返事をくれるのだ。まさか『来い』という返事だとは思ってもみなかったが、まあ彼の事だ、何かしら理由があるのだろう。


 ルミエールではなくルーチェであることについては……彼の反応を見て、どこまで話すか決めよう。基本はルーチェで通すつもりだが、最悪正体がバレても、彼は話が分かる男、ちゃんと秘密事は守ってくれるはずだ。


 手紙に書かれていた場所は、王都にある、オシャレさに溢れた店構えの、飲み物がメインの飲食店。早い話が、オシャレなカフェだ。カフェを話の場に選ぶ辺り、彼らしい。エウロは風の大魔導士だけあって、消音など当たり前のように使える。よって、重要な話も開けた場で可能だし、むしろ人の会話が多いカフェでは違和感も少ないため、うってつけだ。


 一番の理由は彼がお茶大好き人間だからなのだが。余談だが、私が持っているお茶を作る魔法書は、彼の異常なお茶好きを見て思いついたものであり、何冊かは彼にプレゼントしている。


 店の扉を開いてカフェ内に入ると、王都だけあって椅子がほとんど埋まっていた。しばし歩いてエウロの姿を探していると、わりかしすぐ見つかった。茶色の髪に青色の目、大魔導士の特製ローブ……は、着ておらず、カフェに似合う、都会人といった様子の流行を抑えた上で、体格に合うようアレンジした服を着ている。彼、ローブは重要な式典などでしか着なかった記憶がある。私は日常で着崩しているのにな。今も着てるし。


 こちらにはまだ気づいていない様子。そもそも私と目があったとしても、ルミエールとは全く逆の姿になっているのだから、待ち人ではないと認識して目をそらすだろう。


 さて、どんな反応をするか、見物だな。


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