第10話 未来への第一歩

春の暖かい日差しが街を包む。

川沿いの桜並木は満開で、淡いピンク色の花びらが風に舞う。

健人は美久の手を握りながら歩いていた。

手の温もりは、これまでの季節を共に乗り越えてきた証のように感じられた。


「ねえ、健人くん。」

美久がふっと笑い、肩をすり寄せる。

「なんだ?」

「今日、私……ちょっとドキドキしてるの。」

「どうして?」


美久は少し目を伏せ、でも嬉しそうに言った。

「今日は、私たちの未来をちゃんと形にする日だから。」


二人が向かう先は、小さな教会。

家族や親しい友人たちが集まり、温かい空気が漂っている。

健人は深呼吸をして、ふと笑みを浮かべた。

——ここまで来られたんだな。


* * *


式は穏やかに始まった。

美久がゆっくりとバージンロードを歩く。

健人は目を潤ませながらその姿を見つめる。

幼稚園の頃の泣き虫の少女が、今はしっかりと大人の女性になっている。

その変化を胸に刻みながら、健人は誓いの言葉を述べた。


「美久、幼稚園の頃からずっと、君のことが特別だった。

 これからもずっと、君の笑顔を守りたい。

 どんな時も、君と一緒に歩いていく。」


美久も力強く応える。

「健人くん、私もずっとあなたを見てきました。

 これからも、どんな時も一緒に、支え合って歩いていきます。」


指輪を交換する瞬間、二人の手がしっかりと重なった。

温かく、確かな感触が未来への約束を象徴している。


* * *


披露宴会場では、幼い頃の写真や二人の思い出がスライドで流される。

健人と美久は、笑いながらも互いの目を見つめ、時折手を握り返す。


「ねえ、覚えてる? 最初に会ったカフェで、君が泣きそうだったこと。」

「覚えてる。あのとき、健人くんに助けてもらったんだよね。」

「今度は、俺が君をずっと守る番だ。」

美久は微笑み、軽く頭を健人の肩に寄せる。


周りの歓声や祝福の声が、ふたりの未来をやさしく包む。

どんな困難も、もう二人で乗り越えられる。

あの甘酸っぱい日々の記憶も、今は温かい光に変わっている。


* * *


夜、ふたりは夜景の見える部屋で窓の外を眺めていた。

「こうして、やっと一緒になれたね。」

「うん。遠回りしたけど、その分、しっかり実感できるね。」


健人は美久の手を握り、そっと頬に触れる。

「これからも、ずっと一緒に。」

「うん。ずっと一緒。」


外の風がカーテンを揺らし、桜の香りが室内に流れ込む。

二人の心は、過去の痛みも、失恋の記憶も、すべてを超えて、

ようやく同じ未来に向かって歩き始めていた。


——これが、甘酸っぱい青春の果てに手に入れた、二人の幸せ。


夜空にわずかに輝く星を見上げながら、健人と美久はそっと笑い合った。

そして二人の新しい日々が、静かに、確かに始まったのだった。

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