第8話 雪乃物語
「夏子さん面白い方ですね。秋田生まれですか。どこか私の祖母に似ている。私は祖母を写真でしか見たことがないんですが。
次は、その祖母の話をしますね。亡くなった立身
釣った魚と武勇伝はどんどん大きくなるのが通り相場ですからね。
四条河原町の我が家、祖父の生まれた家で、私が今も住んでいる家です。その家の隣に、
今は置屋の仕込みさんと言っても、親の承諾と歌舞練場の鴨川学園への入学が必要ですが、当時はまだまだこの辺の決まりはユルユルでしたからね。
掃除洗濯、買い物と
約一年の仕込みのあと、お母さんに認められて見習いさんになる日、富屋のたった一人の
そして、
昭和二十年代の京都では、絶滅危惧種の
ところが一月後、店出しの挨拶回りが終わったあと、黒紋付姿の雪乃さんにお姉さんの松乃さんが、
『これで富屋に舞妓がもう一人、ワテがいつやめても大丈夫や』と言い残して、次の朝にはドロン。
そうです。事件を起こしたのは松乃さんなんです。
あとで分かったことですが、その頃お茶屋にアメリカ軍のお偉いさんが来ることがあったのですが、それに同席した通訳の若い将校と一緒に、松乃さんはカリフォルニアに逃げたんです。
私の祖母雪乃は、その騒ぎで初めて、お姉さんの松乃さんが富屋のお母さんの実の娘だったことを知りました。
舞妓になりたての雪乃を一人でお茶屋に出すわけには行かないので、富屋のお母さんは、まだ四十を超えたばかりでしたから、自分からご
雪乃が
『突然ではございますが、できればこの娘をこちら様の息子さん、
と申し出たということです。
雪子が仕込みさんの時から可愛がっていた吾平は、
『
と快諾。
ちょうどそこへ、大学病院でインターンをしていた午未が、たまたま早めに帰宅。吾平の
『あんさん、雪子を嫁にせんか』
の言葉を聞いて、その場に立ち尽くすこと数分。
そして、
『ええよ』
と返事をして、なんと急転直下、二人の結婚が決まったのです。なんのドラマもありません」
ここで辛酉さんが、ゆっくりと
頭が急に燃えた。スイッチが入る。私は熊ん蜂ドローンになった。辛酉に自爆攻撃だ。これがドラマじゃなくて、何がドラマなのよ、このオタンコナス。
医者の卵とはいえ、立派な大の大人の男が、数分とはいえ
それが出来そうだとわかったら、こんどは熊ん蜂ドローンじゃなく、生身でぶつかって行くから覚悟しろ。
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