柊雷の詩
第2話 柊雷(しゅうらい)
世界は大きく四つの大陸に分かれ、大小様々な島や陸で成り立っている。
生き残るために弱肉強食を繰り返してきた。
ここはその大陸の一つ、東側に位置し東の大陸と呼ばれ、
城は古い大きな石造りの居城で、人と人外と魔性が共存していた。
今は平穏な地も、ここまでになるまで何万年という月日を費やしてきた。
しかし、近年、他大陸で争いが頻発し、
その影響はこの東の大陸にも及んできていた。
そんな中、シオンから三つ子の飛竜を預かったのだ。
子供たちは
それぞれの持つ力を最大限に発揮できるように教育されていった。
子供たちの名を
子供たちは飛竜の中でも武闘に
コハクの力を受け継いでいた。
兄の
末妹の
十五歳ぐらいに成長した
技術も身につけるようにとの
城軍隊の訓練に参加するようになっていた。
ある日、人間と力の弱い魔性で混成された部隊の訓練を
城壁の上から見ていた
「どこでだろ? 懐かしい匂いだ。風に乗ってくる。
この匂い…、昔、シオンと一緒に居たときに嗅いだはず」
「あいつだ! 見つけた!
まだ幼かったころ、ここに来る前に、
シオンに連れられ世界を旅していたころの記憶。
「
隊員にしては線の細い優しい面立ちに淡い青色の瞳が揺らぐ。
「
私の名はフーイと申します。どなたかとお間違えではありませんか?」
若者は柔らかな声で答える。
「間違っていない!お前は
二人の騒ぎに気が付いて他の隊員たちが集まってきた。
指導教官が二人の間に割って入る。
「
「俺はこいつと話がしたい。こいつは俺が昔、見つけたヤツだ」
「
あの谷でお前は死にかけていた。あれから十年は経っている。
なのに何故、お前はここに居る? 何故、今、生きている? 答えろ!」
若者は黙ったまま何も話そうとしない。
指導教官が
夕刻、部隊が解散したのを確認して
「
「説明しろ」
「ご無沙汰しております。
若者が認めた。
「あの時、あなたと別れた後、祖父である
維持されていた幻の谷が崩壊しました。
私は母が残した
東を目指したのはあなた方が東の話をしていたからでしょう」
少し影を帯びた声がかすれる。
無言の圧がかかる。
「今までこの命が長らえたのは、あなたにお会いしたかったからかもしれません。 あなたがこの城に居ると知った時は喜びに満ちました」
「知っていて今まで何もせず黙っていたのか?」
「私はあなたを見ているだけでよかったので…」
「俺が気が付かなければお前はそのまま朽ち果てていたのか⁉ふざけるな!
あの時、俺はお前を
「あなたの
本当に
「
俺たち竜の
同化だ!だが、相手は誰でもいいわけではない!
本当に欲しいと思ったものだけ、俺を求めてくれるものだけだ。
お前はあの時、微笑み返してくれた。笑顔で俺の手を握ってくれただろう⁉」
「
あなたはそんなことを信じていたのですか?」
「
あの時、俺が見たお前の魂の輝きは間違いじゃなかった」
「私は本当なら既に死んでいるもの。
今でこそ母の
私にはあなたに望まれるような価値などありません」
「価値は俺が決める。俺が求めるものが真実だ。
その短い命、残りは俺が貰う。いいな!」
「どうして
童顔の隊員が
「お前、誰?こんなチビッ子が隊員?」
「ボクは
それにチビッ子ではありません。もうすぐ十六歳になります!」
「フーイじゃない。
「
城の警護にも当たっています」
「えっと、二人とも仲良くしていただければ有難いのですが…」
結局、指導教官から
暗闇の中、向かったのは一般棟と呼ばれる城の西側、
その奥の軍隊関係者が寝起きをしている棟だ。
その一つの部屋の扉が
「
その
元々、色白の肌はさらに白く、血が通っているとは思えないほどだ。
「もう
しかし、ここまで生きてこれたとは、母親の執念も大したものだな。
「私を
それが本当ならこんな幸せなことはありません」
「
その瞳に俺だけを映したまま
二人の周りを柔らかな光が包み込み
「
「
今はお前と二人だけだ。
暖かな光の中、
そして
満月の光が優しく降り注ぐ王宮の中庭に、
静かに
三つ子はお互いに
痛みも悲しみも喜びも三人で分かち合う。
今、
「
俺のものだと思ったんだ」
「でも
「お互い一目ぼれだったんだよね?
王宮の窓から
「どうして
「それは違う。
それはあの子たちにとってはエモノと同じだ。
それに竜は優しい生き物だからな。
弱いものに惹かれてもおかしくはない。
あの子たちの寿命はまだまだ長い。
これからも、このような事は起こるだろうよ。
その度に失う辛さを知るだろう。
だが、自分にとって本当に大切な相手を見極める力はある。
あの子たちは乗り越えるその強さも持っている」
三つ子を幼い時から育てている
三人は大切な子供たちになっていた。
歯がゆい思いを感じていた。
「シオンにやられたな」
「あの…
満月の夜の翌朝、
だから、敢えて聞いてみたのである。
「
「ど、どうしてですか⁉」
「
本来なら十年前に死んでいたはずだからな。だから
俺の
『ああ、
二人の間に優しい風が吹いた。
*
「
外庭の隅で昼寝をしていた
「何でお前が呼びにくるわけ?」
鬱陶しそうに
「仕方ないでしょ? ボク、今組む相手いないし、教官の命令だし。
ほら早くしてください」
のろりと
しかも訓練せずとも
だが、こうして
「
隊の仲間である
四人は仲がよく、いつも一緒に行動していた。
しかし、剣術に関しては部隊の中でも上位で強い。
四人はいつも
何かにつけて声をかけてくれていた。
「大丈夫だよ。
「何かあったら言ってね?できることは手伝うから」
剣術も決して上手くなく、力も弱い魔性の
「
ガタイのいい
「
小柄で人懐っこい顔の
「本当のことだろ?」
派手な見た目の
「みんな、ありがとう」
竜の力は封印し自分の腕だけの勝負に
それ以外の訓練には興味を示さなかった。
本来の竜の力と元々備わっていたのでだろう闘争本能に加え、その身体能力は高く太刀筋もいい。
体力もバカが付くほどあるから、相手をしている隊員たちはいつも立ち上げれないほど打ちのめされた。
その
「さて、今日も最後まで残ったのはお前ら四人か。誰から来る?」
「では、私から」
結局、いつもこの
しかし、
竜の力を封印しているとはいえ、自分と互角に戦える相手がいることに喜びさえ感じていた。
対する四人も
そして、いつしかこの琥珀の竜に対し敬愛の念を抱き、この竜を守りたいと思うようになっていた。
ある日、城壁の一部が崩れていると連絡があり、
西側の一般棟に続く城の中央近く、割と人の出入りの多い場所で、城壁の一部が崩れかけていた。
隊員たちは規制をかけることにした。
「
「
近くで城に出入りする職人の子供たちが遊んでいた。
久実は危ないからと違う場所へ移動するように促した。
その時、子供たちが遊んでいた毬が跳ねて城壁の方へ転がった。
慌てて
と、思った瞬間、地面の一部が崩れて
「うわー⁉」
「
『間に合え‼』
そう
『ぶつかる‼』
と同時に、物凄い気配が
恐怖なのか
竜は城壁の上、安全な場所にそっと
目の前にいるのは綺麗な琥珀色をした立派な飛竜だった。
大きな翼は光に反射してキラキラと輝いていた。
二つの瞳は
全身の
琥珀の竜は姿を変え、
あれ以来、
出来ないでいた。
しかし、何とか世話係は続けていた。
ある日、
「あ、あ、あの、
「
しかし、
「ち、違います。あの時は驚いてしまって、
こっ、怖かったけど、でも、でも、
ボクのこと嫌いにならないでください! ご、ごめんなさい!」
服の裾を掴まれたまま、
自分のためにこれ程泣いてくれる他人を初めて見たからだ。
しばらくして、
顔は涙でグチャグチャになっていた。
指導教官が
「ここ最近、
食事もほとんど摂れていませんでした。
あなたに話すことができて安心したのでしょう。このまま部屋に運ばせます」
「いや、俺が預かってもいいか?起きたらメシ食わせて夜までには部屋に送るから」
思わず
「よろしいのですか? では、お願いします」
指導教官は深々と頭を下げた。
残された
「なあ、竜て
一同に何とも言えない沈黙が流れた。
カチャカチャという金属音と人の話し声が聞こえ
「…えっ、ここ…?」
「目が覚めたか?」
耳元で
「ど、どこですか、ここ⁉」
見渡すと、そこには
「チビッ子、
「
「
「あの、ボクは
自分が大胆な発言をしたことを思い出していた。今度は顔が青ざめていく。
「
あの時、咄嗟に力の加減ができなくて、モロ、俺の気配をお前に流してしまった。
怖がらせてゴメン」
「日頃からちゃんと訓練しないから、こんなことになるんだよ?
「分かっている。今回のことで反省した。
ちゃんと力をコントロールできるように訓練するよ。
同じ過ちはしたくないからな」
珍しく
「
助けてくださってありがとうございました。
そして、これからも
その瞳にはうっすらと涙が浮かび、顔には柔らかな笑顔があった。
「…よろしくな」
食後、
「
ジルはニヤニヤしている。
「はあ?」
「いや~城中、噂でもちきりですよ?
で、そのまま
ジルがその体の大きさに比例して豪快に笑った。
「誰だ? そんなデマ流したヤツ」
「
「おや、
痩せてあまり旨そうではないですな」
ジルはまじまじと
「そうだ、
良いものが手に入ったんですよ。田舎から、ほれ、ザクロです。
ジルが真っ赤に割れたザクロを
「へえ、久々だ。ありがとう」
指導教官がそこに立っていた。
「本当に部屋まで送ってくださったのですね?
指導教官がクスリと笑う。
「俺、信用ないんだな。お前たちだろ? こいつ
「まさか。ただ見たままを各々が解釈したまでのことでは?」
指導教官はさらりと受け流す。
「ま、いいや。
「え、でも、これ
「ジルのやつ、ちゃんとお前の分もくれている」
「それ、南の国の実でザクロって言うんだ。旨いぜ。
どっかの国では人間の肉の味だって言われているらしい」
「ありがとうございます」
その顔を見て
部屋に一人残され、
「ザクロって言うんだ。甘酸っぱい。美味しい。
その
四人は
実際、
四人はそれぞれの持ち味を発揮し
「
「え? 大丈夫ですよ。ちょっと夏バテかもしれませんけど」
先日、医者に診てもらって現実となった。
『
知られれば
それは嫌だ。
しかし、それは自分のためではなかった。
竜は人を
「ねえ、チビッ子。ちょっと手伝って」
「はい、
「あのね、」
その瞬間、
「…チビッ子。お前、死ぬの?」
「な、何を言って…」
「ふう~ん、
「
「別に、お前がいいなら、いいけど…」
王宮のある東側の建物は人の出入りは厳しく制限されているが、逆の西側は普段は開放されていて沢山の人々や魔性が行きかっていた。
旅のキャラバン隊も出入りして賑やかだ。
常に行われている城の改修工事の
ちょっとした町のような活気があった。
城の警備隊は持ち回りで各所の警備を担当していた。
西側城門の内外や人々が集う広場などもその一つだ。
城門でもチェックはあるが基本的に日中は誰でも出入りできるようになっていた。
この大陸のために城を開放し活性化させたいという
奥の方で人の叫び声が聞こえた。
駆けつけると二人の男たちが店主を襲い金品を奪おうとしていた。
男の一人が逃げようとして近くにいた親子に刃を振りかざした。
咄嗟に
その時、鈍い音がし、ヌルリとした生温かいものが
一瞬の静寂のあと周囲から悲鳴が聞こえ、喧騒が広がった。
男たちは一目散に逃げだした。
仲間たちが
騒ぎに気が付いた
「
竜に治癒の力はない。
しかし、自分の身を守るため、一時的に処置を施し痛みを緩和するぐらいの力なら持っていた。
それどころか、どんどん血が溢れてくる。
「どういうことだ⁉ これは…
「病気だよ。人間特有のものらしい。
「
「チビッ子に黙っていてほしいって
「そんな、
「
「
「ここは…?」
「城の近くにある
ここには誰も来ない。お前と二人きりだ、
「
「
でもボクはあなたに
美味しくないと思うけどボクはあなたに
転生なんてしなくていい。あなたの傍であなたと共に在りたい。だめですか?」
「ダメなものか。
お前は俺にとって大切な存在だ。ずっと俺の傍に居ろ。いいな、命令だ」
「ああ、
あなたに会えて、あなたと共に過ごすことができて…
「
そこは一般棟の隊員たちが寝起きしている区域で
「何?」
「
そこはベッドと小さな机が一つあるだけの簡素な小さな部屋だった。
しかし、月明かりの中、その中央の窓に近いところに、この小さな部屋には似つかわしくないような大きな鉢に150センチ程の木が植わっていた。
「この木は?」
「ザクロだよ。チビッ子がここで育てていたみたい。
ちゃんと光が当たるように鉢を動かした跡もある」
「あの時のザクロを?」
「よっぽど嬉しかったのかな?大切に育てていたみたいだね」
「この木、中庭に植えてもいいかな?」
「いいよ。
月明かりの中、中庭のザクロの木の前で
時に反発することがあっても喜びも悲しみも痛みも、この世に生み出される前から三人で一つ。
お互いのことは手に取るように
二人が
fin
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