翼を広めてソラヲシレ!
ビーデシオン
序章
鉄塔の上で
雲海の下は今日も曇り。晴れてるとこなんて見たことない。
青空は、見ようと思えば見られるけど、すぐ疲れちゃうから今日はナシ。
鉄塔の骨組みの上に座って、見上げた一面の雲から目線を下に移す。
灰色の砂利に覆われていて、まばらに緑が茂っていて、そこかしこにスクラップが散乱している、いつもの光景。鉄くずを錆とか苔が覆っているのを見ると、ここにはもう、私以外いないってことを実感させられる。鳥とか魚はいるけどさ。
「すぅーっ。らー、らー、らーっ」
深呼吸を繰り返しながら、適当に発声練習を始める。
何を歌うかはまだ決めてないけど、とにかく声は出したい気分。
いつの間にか隣の骨組みで白い鳥が一羽、はねやすめを始めたみたい。
ちょうどいいわ。今日はこの子に観客になってもらいましょう。
そう思って、私は大きく息を吸い込む。
「きゃあ!」
直後にキーンと響いた爆音。
耳を塞いで見上げてみたら、音の発生源はすぐに分かった。
「またあなたね……」
ある日突然鳴りだした、半開きの蕾みたいな灰色の筒。
島の外のことは知らないけど、このおしゃべりな筒が、ここには居ない誰かの声を伝えてくれてるってことくらいは分かる。
その度に、島の外について知れるのは悪くなかったけど、今日は酷い。
とてもじゃないけど聞いていられないような歌声が、ずっと垂れ流されて続けている。
「ほんと、なんなのかしら……」
抑揚もリズムもあったものじゃない。
音に驚いて、せっかくの観客も飛び立ってしまった。
今はもう、上の方へ向けて、翼をはためかせてしまっている。
多分、そのまま雲の層を抜けて、別の島にでも行くんだろう。
羨ましい。私は、そこまで遠くにはいけたことないのに……
「……ひょっとして、案外近くに居たりするの?」
飛ぶ鳥を目で追って、そんな思考が脳裏によぎる。
今まで試してもみなかったけど、有り得ない話じゃないかもしれない。
他の島には行けなくても、声の主を見つけるくらいはできるかもしれないし、このまま黙って聞いているのも、何だかすごくもどかしい。
そんな考えが、頭を埋め尽くしてしょうがないから。
私は前方に身体を傾けて、鉄塔から身を乗り出した。
◆ ◆ ◆
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