エピローグ

「…ま、参りましたわ」


 クラリスが悔しそうにしながらも、敗北を認めたことを告げる。

 その言葉を聞いた俺は、感謝の言葉を贈る。


「対戦、ありがとうございました!」


 その声を合図に、訓練場のざわめきが一気に広がる。

 観客席がどよめき、ざわつく声があちこちから飛んだ。そんな中。


『ぷるぷる~っ!!』


 カンムリが全身で喜びを表し、勢い余ってヒスイに飛びついた。


「うおっ!? ちょ、ちょっと待っ、ぐえっ!」


 ぷるん、とした巨体が思いっきり体当たり。

 次の瞬間、ヒスイは地面に押し潰されていた。


『ぷるぷるぷる~っ♪』


「まてまて!わかったわかった!嬉しいのはわかるが一旦退いてくれカンムリ!」


 なんとかして退けようとしているところに、メタルンがぴょ~んと跳ねて顔に張り付いてくる。

 勝てたことに嬉しそうに小さく鳴いた。


『ピキッ、ピキピキ♪』 


「メタルンお前もか!?嬉しいよなわかる、わかるぞ~。でも苦しいって!息ができねぇ!」


 観客席が爆笑に包まれ、クラリスですら思わず口元を押さえて笑っていた。


「ふふ……あなたのモンスターたち、ずいぶん感情豊かですのね」


 ヒスイはなんとか顔を解放して息を整える。


「改めて対戦ありがとう。どうだった?俺の自慢のスライム達は?」


 メタルンを頭の上に乗せ、カンムリの頭を軽く撫でると、二体は誇らしげに輝いた。


「…正直、負けるわけがないと思っていました。でも結果は違いました。この敗北を糧に、精進していこうと思いますわ」


「前向きなのは良いことだぜ、それと一応は約束、守ってくれな。一応」


「ええ、心得ています。わたくし個人としても謝罪しに行きますわ」


 クラリスは胸に手を当て、真っ直ぐにそう告げた。

 …良い顔つきになった、今後も彼女は強くなるだろう。


「そっか、まっ、次は誰が相手でも油断しないようにな。昔は俺もスライムは弱いって思ってた側だしな」


 冗談めかして笑うと、クラリスは一瞬ぽかんとした後、クスッと笑った。


「…あなたって、変わった人ですね」


「よく言われる」


 肩をすくめると、観客席から再び歓声が上がった。

 拍手の波の中、ヒスイはスライムたちを見やる。

 メタルンはちょこんと頭の上で光り、カンムリは誇らしげに胸(?)を張って、観戦者達にファンサ(?)を送っていた。


『ぷるるっ!』『ピキピキ!』


「…次は、負けませんわ」


 その一言を残して、クラリスは静かに去っていく。

 背中にあるのは敗北の重さではなく、次に繋ぐ決意。

 俺もここで満足せず、次の高みへ目指そう。


「明日からまた、育成計画再開だ──」

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