第5話 エリュシアとの邂逅

 スライム大量捕獲から二日後が経過した。

 目標のモンスターまであと配合元のモンスターのレベルを上げればクリアと言う所まで来た頃、授業も終わりの放課後、今日も草原地帯へ向かう途中の廊下にて。


「やめてくださいっ!」


 鈴のような声が、張り詰めた空気の中で響いた。

 声のする方を見ると、三人の女子が一人の少女を囲んでいる。

 彼らは貴族科の生徒――つまり、名家の出身。

 そしてその中央にいるのは柔らかな金色の髪を揺らす少女。


 あのヒロイン兼ライバルのエリュシアだった。


「王女様って言っても大したことないのね」


「ルミウルフだって、名前だけは立派だけど所詮子ども狼でしょ?」


「弱すぎなんじゃないの?」


 …なんだこいつら、なにしょーもない事してんだ?

 俺は軽く息を吐き、足を踏み出した。


「そこのお嬢様方。そのへんにしとけよ」


「…なによ、なんか文句でもある?」


 リーダー格の少女が振り向いた。

 深紅の髪、整った顔立ち。彼女はヴァレンタイン公爵家の令嬢。クラリス・フォン・ヴァレンタイン。

 その目は、完全に“見下ろす側”のそれだった。


「あなたは確か…”スライムバカ”のヒスイだったかしら?」


「なにその異名!?」


 初めて知ったんだけど、え?誰だよその異名付けたやつ。


「それで?何か用かしら?」


「…あぁ、いや、馬鹿な事やってねぇで育成でもしてたらどうなんだ?って言いに来てみただけ」


 俺がそう言うと、空気がピリッと張り詰めた。

 クラリスの眉がぴくりと動く。


「…なんですって?」


「いやだからさ、いじめてる暇があんならレベリングしろって話」


「はぁ…これだからスライムバカヒスイは、流石は庶民と言ったところかしら」


「マジでどこ発祥なん?それ」


 ほんと誰が言い出したんだ。

 メタルンがぷるぷる震えている。

 まるで「実際そうだろ」みたいな雰囲気出してるのがムカつく。突っついてやる。えいえいっ。


「ふふっ……じゃあ、そうね。そんなに口が達者なら――」


 クラリスが一歩前に出た。

 その赤い瞳が、まっすぐ俺を射抜く。


「――模擬戦で証明してもらおうかしら?」


「……は?」


「言葉より結果よ。庶民でも、公爵家でも、この学院では“力”がすべて。

 あなたのスライムが本当に優れてるなら、わたくしに勝てるはずでしょう?」


『ピキピキー!(受けろ受けろ!)』


 メタルンがノリノリで跳ねる。

 お前……そういうとこだぞ。


「……上等だ。後悔すんなよ、公爵令嬢さん」


「ふふ、では、三日後の午後。訓練場で正式に申請するわ。楽しみにしてるわ、“スライムバカ”さん」


 クラリスがくるりと背を向け、廊下を去っていく。

 ヒールの音だけが響いていた。

 エリュシアが、小さく息をついた。


「……ありがとうございます。、ヒスイさん。助けてくださって」


「気にすんな…えっと、気にしないでください王女殿下?」


「敬語は外してもらっても構いませんわ」


「それは助かる。てかよく俺の名前知ってたね」


「今結構有名なんですよ?ほらさっきも言ってたあの」


「マジか、結構広まっちゃってる感じ?」


 スライムバカで名が通ってるのめっちゃ癪なんだが?


「申し遅れました。わたくし、エリュシア・キューレ・フォン・アルトリアと申します。以後お見知りおきを」


「あ、これはご丁寧に。ヒスイ・カイザーです。よろしく」


 俺はエリュシアの事は知ってるけど初対面だしここは挨拶しておかないとな。うん。


「そんなことより!ごめんなさい、わたくしが悪いのに、良いんですか?あんな約束してしまって」


「ん?いやエリュシア様は悪くないだろ、あいつらが悪い。うん。それに…」


「それに?」


「ちょうど良かったなって」


 これに関しては本当にちょうど良かった。

 育成も進んでたことだしそろそろ試しておきたかったんだよね。


対戦相手実験対象が欲しいって思ってたところだし」

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