第50話 女の主食は恋なのか

 五十話まで来ましたわ


ーーーーーー


 そこからオレは、ガラドとの間に起きたことを話し始めた。

 少し離れたところに男性陣と集団になっているガラドがいるが、あれだけ騒いでいればオレの声は聞こえはしないだろう。


 筋道をたてて順番に話していくと、周囲の反応が変わってゆく。

 オレとガラドの話を聞いて昨日の風呂場から逃げた場面では、それこそ「微笑ましい」とか「初々しい」という反応が大半を占めていた。


 だが、今日の風呂場での話をし始めると、周囲の女性陣の反応が「そんな大胆な……!?」みたいな反応ばかりになっていき……


「……んで、自覚したらなんか止まんなくなって……ガラドの背中にくっ付いてたんだ……」

 と言った瞬間に、ざわめきが広がってしまった。


 中でも目を引いたのが、

「ゴバァッ!?」

 と大袈裟なリアクションをしつつ仰向けに倒れた獣人族の女性。


 恋愛狩人ロマンスハンターズと名乗った四人組のうちの一人だった。

「な、No.4ナンバー、フォー!? 大丈夫?」


 しかもどうやら下っ端らしい。

「騒ぐな! 致命傷だコラ!」


「致命傷ってなんだよ」

 ツッコミどころに気を取られていると、他の二人も戦慄した表情を見せた。


「まずいわね。No.4の好みドストライクの話……しかもそこに体格差という属性まで付け加えられたら……」

「これ以上は危険……ですよね隊長? 聞いたねNo.4。撤退準備を……って、なにを!?」


(オレの恋愛相談を危険物みたいに言うなよ)

 と思いつつ、No.4と呼ばれていた獣人族の人は、仲間の手を振り払ってこちらに近づく。


雪月ゆづきさん……いや、雪月ゆづき先生! あたしにもっと聞かせろコラ……最高の恋バナを!」


「その語尾はデフォルトなのか」


 ふざけているのか真面目なのか……いまいちよくわからないリアクションをする恋愛狩人ロマンスハンターズの様子に戸惑いながらも、熱意のこもったことを言うものだから、話の続きをすることにした。


「まあいいか、えーと……そんでガラドが「無防備に近づくなって言ったろ?」みたいなこと言って……オレのことを気遣ってくれてるみたいで……」


「グ……!?」

「No.4!?」


「それが嬉しくて……「近づいたらダメなのか?」って返したら、互いに黙っちまって……ちゃんと言葉で想いを伝えたいのに、口が動いてくれなくてよ……」


「なっ……!?」

「No.4!!」


「最終的に、オレのバカでかい心臓の音がガラドに聞かれてたみたいで……色んな感情が暴れ出しそうで、また逃げちまったんだよな……」


「ぐああーー!?」

「No.4ーーー!!」


 うるせえなぁこいつら! なんなんだ、他人の恋バナで妙なリアクションしやがって!


「恋愛ど素人なんて……私の目も衰えたものね。雪月ゆづきさんは言うなれば、恋愛怪物ロマンスモンスター! 全てを薙ぎ払う、強大な力の持ち主!」


 勝手に同類みたいに言うな。


「No.4、聞こえる!? 返事をして!」

「……うう」


 後方に吹き飛ばされた獣人族の女性は、脱力したまま仲間に抱き起こされる。


「今はただ、雪月ゆづき師匠に感謝だオラァ……」

 この一瞬で先生から師匠にランクアップしてる。


「喋らないで! 傷口が開くわよ!?」

 返事しろって言ったのお前だろ。


「あたしの人生に……一片の悔いなし……」

「No.4!? ……No.4ーー!!」


 壮絶な戦いによる犠牲者が瞼を閉じると、オレは恋愛狩人ロマンスハンターズに背を向けた。

 一応恋愛相談みたいに質問してみようと思っていたが、こいつらに聞くのはなんか嫌だ。


 見切りをつけて彼女たちから目線をずらすと、オレの眼前には女性の顔があった。

「うわっ! って氷奈ひなさん?」


 いつの間にかオレの近くにきていた氷奈ひなさんが、オレの手を取りつつ感激したような表情を見せた。

「すごいです雪月ゆづきちゃん。私はあの頃、自分の気持ちを自覚してもなかなか行動に移せなくて困っていたのに」


 どうやらオレがガラドへの好意を自覚してから、行動に移すまでの早さに感激している様子。

「いやでも、いつの間にかっていうか……気付いたらガラドに触れてただけっていうか……」


 けれどそれはオレの意思だけではなく、膨れ上がった感情が勝手にオレの体を動かした結果の話。素直に喜べるものではなかった。

「それでも……ガラドさんに触れたいって気持ちは、好きな人と一緒にいたいって気持ちは、雪月ゆづきちゃんの心の奥にある、本音なんですよね?」


 しかし氷奈ひなさんに真っ直ぐ見つめられ、オレは誤魔化すこともできず頷いた。

「だったら、その気持ちと行動力を大切にしてあげて? 少なくとも私はすごいなと思います」


 氷奈ひなさんの口から飛び出す賞賛に、なんだかむず痒い感覚を覚える。

「で、でも……ちゃんと言葉にして伝えられなくて、しっかり恋人関係になったわけでもないのに……ってオレは考えてるんです……」


 言葉が出てこないで、行動だけが先行している状況に不安を感じている。

 すると氷奈ひなさんはこちらを真っ直ぐに見据えて、


雪月ゆづきちゃんは真面目なのね。でも好きな人に触れたい、触れてほしい。抱き締めたい、抱き締めてほしい。こういうことは誰でも普通に思うことなんです。それに、恋人にならなきゃ触ってはいけない……なんて決まりはないんですよ?」

 と優しく助言をくれる。


「そうそう、氷奈ひな姉の言う通りですよ雪月ゆづきさん!」

「ふふふ、女王クイーンの金言を賜わるなんて……流石ね」


 お前らはちょっと静かにしててくれ。


「それでもやっぱり言葉で伝えたいって思うなら……ちょっと待ってみるのも、大事かもですね」

「待ってみるって……ガラドから言ってくるのを待つんですか?」


 そういう受け身な状態はどうなんだろう……と考えていると氷奈ひなさんが首を横に振る。


「時間をかけて、雪月ゆづきちゃんの恋心に体が慣れるまで待ってみる……ってことです。今はきっと、落ち着かなくて上手く話せなくて……言葉っていう選択肢がないから、どうにか伝えたい気持ちを行動に移している状態だけど」


「落ち着くまで待てば……ちゃんと言葉で伝えられる時が来る。ってことですか?」

「そう。急がば回れ、短気は損気よ。雪月ゆづきちゃん」


 なるほど。今は恋心を自覚したばかりで、気持ちを伝える準備ができてないんだ。伝えたいって思いばかりが先行して、体が追いついていない。


 心が体を追い越して、行動ばかりが先走る。膨れ上がる恋心が、無理やり体を動かしているような状態。

 焦げつく熱に浮かされてガラドの背に触れたこと。一瞬だけでも、抱きついてしまおうかと考えたこと。


 それらもきっと、時間をかけて体がこの気持ちに慣れてゆけばおさまってくれる。

 今はまだ、言葉を通すはずの喉と口が動かないけど……ちゃんと話ができる時が来る。


 その時まで待ってみるのも、一つの選択肢として存在する。

「わかりました。何度もありがとうございます氷奈ひなさん」


「気にしないで雪月ゆづきちゃん。ただのおせっかいですから」


「いえ、本当に助かりました」

 そんなこんなで、オレを含む女性陣の話には一旦区切りがついた。


「ふふふ、恋は女の子にとって最高の化粧。良いものを見れたわ。帰るわよ」

「はい隊長!」


「No.4、立てる?」

雪月ゆづき師匠、応援してますコラ……」


 オレに向かって親指を立てる四人組には、なんだか不安を感じてしまうが……まあ気にしないでおこう。


「さあ、新たな恋バナを狩りに行くわよ!」

「「「サー、イエッサー!」」」


(……こいつらにオレとガラドの話を聞かせて、良かったんだろうか?)

 前言撤回。やっぱ不安だ。


 恋バナ聞かなきゃ死ぬのかこいつら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者パーティーを追放されたオレが、女になって出戻る話 @tank-top

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画