2章 偽りの少年に安寧を

第18話 新たな船出

「それでは、行ってきます」


 
フィラは大勢の神子達の先頭に立ち、集まった街の人々に深々と頭を下げる。

 ある人は涙を噛みしめ、またある人はハンカチを握りしめながら彼らを見送った。


 
あの一件で、ヴィード達教団幹部が国王の許可も得ず水面下で自覚者を集め、無関係の男に売り飛ばしていたことが明るみになり彼らは拘束され取調べを受けていた。


 
また、神力保持者の身柄は時の街という本来の神族から引き取りたい旨の連絡を受けこれを国王が許可した為カルディア教団は実質解体となり、宗教の力で大国へとのし上がったこの国としてはかつてない危機を迎えていた。


 街の人々は心の支えを失い、国の活力は大きく落ちる。

 祈りを捧げる人々の力で存在することができたカルディア教団のフィラとしては、この国の行く末をこれ以上見守ることができないことを残念に思った。


 
きっとこの人達なら大丈夫、何度でも立ち上がってよりよい国を築いてくれるはず。

 私も彼らに恥じない働きを時の街で行うことで彼らに恩返しをしたい。

 フィラは次第にそう考えるようになった。



「それではみなさん、そろそろよろしいっすかー?」


 神子と街の人々とのやりとりを背後から見ていた女性がフィラの隣に立つ。

 女性はまだ子供のようなあどけなさを残しているが、時の街の神秘的なローブに身を包み、慣れた手つきで神力具現化アイテム「時空の棒」を扱っている様は立派な神族のお供という感じだった。

 

 フィラが頷くと、彼女は薄い栗色のミディアムヘアを右手でかきあげ器用に時空の棒を扱った。

 刹那、彼女と神子達の周囲にものすごい光と風が起こり、次の瞬間には全てが消えていた。



***



「ねぇ見た? 今日タルトールから来られてる王族の方」


「見た見た! すっごいイケメンよねぇ。顔とかめちゃくちゃ整ってて見惚れちゃったわ」


 
カルディアの城内からメイド達の姦しい声が響く。

 同時刻、カルディア城に数名のタルトール王族が訪れていた。

 騒動からしばらく経ち、ヴィード達の処分の方向も決まったため改めて挨拶をとカルディアの国王が招待したのだ。


 普段なら国王レイバーが自ら赴くのだが、今日は国王代理で弟のバブがカルディア入りしていた。

 他に護衛の側近が数名と、オマケ程度にメイとレミもくっついていた。

 レイバーはああ見えて割と忙しいらしく、今日も別の国との会合の予定が入っており都合がつかなかった。

 普段ならクソ面倒臭い国王代理など絶対に受けないバブだが、今日は何故か二つ返事でOKしていた。


 
「お初にお目にかかります、カルディア国王陛下」


 
 王の間に案内されたバブは、国王の元へと近づくと片足を跪き深々と頭を下げた。

 レミもバブに合わせて跪き、綺麗に指を揃えて頭を下げる。


 隣の二人の行動に驚いたメイは少し遅れてちょこんと頭を下げた。


 
「よい、表を上げなさい」


 
カルディア国王がそう言うと、バブとレミは顔を上げる。

 メイは立ち上がろうとしたがどうやら違うらしく慌てて座った。


 
「この度はそちらの教団に勝手に侵入した上に混乱を起こしてしまい申し訳ございませんでした」


 
バブは再び頭を下げ、誠心誠意許しを請う。

 結果的に悪党を引きずり出したことになったが、やっていることは国賊と変わりない。

 カルディアとタルトールの関係を険悪なものにしない為にも、ここは平謝りするしかなかった。


 「貴殿らの行動はすべて、あの悪党ヴィードの悪事を暴くためであったのだろう?確かに一言欲しかったが、こちらから情報が洩れるともしれない。苦渋の判断だったと察する故、責めはしない」


 
国王はしっかりそう言うと、再びバブに表を上げるように言う。

 「ありがとうございます」

 
バブは少し安堵し、感謝を述べると顔を上げた。

 「時の街の方から大筋の話は聞いている。我がカルディア教団が悪事を働いていることを時の街が察知し、時の街と協力関係にある貴殿らがヴィードめをとらえた。そういうことであろう?」


 
どうやら時の街からフォローが入っていたらしい。

 ちゃんと根回ししているなら一言伝えろ。

 

 正直全く関係ない国の王族が勝手に他国の教団に侵入し暴れるなど侵略行為もいいところである。

 流石のバブも最悪処刑もありうると少し緊張していた。

 俺に無駄な冷や汗をかかせたリームを次会ったら三発殴るとバブは心に決めた。


 
「私も反省をしている。カルディア教団は我が国の一機関であるのに巨大化しすぎてこちらも手を焼いていた。王族でも教団に関係ない者はあれが何をしていてどういう人物が所属しているのかすらわからない始末だ。私も肥大化した教団に恐怖を感じ、積極的には関わらなかったためこういう事態が起こってしまったと言っても過言ではない」


 
 国王は悔しそうに語る。


 
「我が国は宗教大国だ。国民はみな縋るものを求めている。カルディアは教団無しでは存続できない国なのだ。これからは時の街と話し合い、全国に存在するという時の街の分教会を置きそれを「新カルディア教団」として私自らが運営していこうと考えている。そしてそれは新しいカルディア王国の象徴となると誓おう」


 
そこまで言うと国王は立ち上がり、跪くバブに手を差し出す。


 
「この度は貴殿らにカルディア教団の悪事を暴いてもらい非常に助かった、こちらこそ礼を言いたい」


 
バブは差し出された手をしっかり握り、二人は固く握手した。


 
「いつかまた、新カルディア教団が落ち着いたら皆で酒を交わそう。タルトールと末永く良い関係を築けるように」

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