Ep. 1 運命を動かす手紙

「大変だー!! ヴァルトリア帝国から、とんでもない手紙が届いたぞ!!」


その日、朝一番に城中へ響き渡ったのは、

“今にも国が滅ぶのか!?”って勢いのテオドールお兄様の悲鳴にも似た叫びだった。


その時ちょうど、私は厨房で焼きたてスコーンをつまみ食いし、幸せの絶頂を噛みしめていたところで──

あやうくスコーンを喉に詰めてしまいそうになる。


「げほっ……! ヴァルトリアって……あの、火の魔法で栄えていた超大国の!?」


「そのヴァルトリアからだ! ここに──

『ライラをレオニス皇子のもとへ嫁がせよ』と、はっきり記されている!」


ぐしゃぐしゃに握りしめられた手紙を見て、私は目を丸くした。


レオニス皇子……?


お会いしたことはないけれど、噂だけなら誰もが知っている。

“氷の皇子”の異名を持つ、あの赤髪の美貌の君──。


『神が美貌に全ステータスを全振りした結果、感情を入れ忘れた男』

『微笑んだ姿を見た者は伝説として語り継がれる』

『炎のような赤髪なのに、心は極寒。触れたら凍傷まっしぐら』


などなど、嘘みたいな噂が盛りだくさんの……あの皇子!?


(なんで、そんな方から縁談が……!?)


理不尽だけど、エレドーラのような小国が超大国の命令に「NO」なんて言えるわけがない。

断れば、明日にはこの城の看板が

「ヴァルトリア帝国・エレドーラ支部」

に付け替えられてしまうだろう。


つまり──強制・政略結婚、確定である。


「わ、分かりました……。私、嫁ぎます!」


しおらしく告げると、シスコン極まりないテオ兄様は、「ライラぁぁぁ!!」と大粒の涙をぼたぼた流した。


ごめんなさい、お兄様。

実はほんの一瞬だけ、

「皇室御用達スイーツ食べ放題……!」なんて、心の中ではしゃいだことは秘密です。


この時の私はまだ知らなかった。


この縁談が、私の運命を大きく動かす

“ほんの始まり”に過ぎないということを──。

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