氷の皇子は祝福の熱に溶かされる ~冷徹な皇子に嫁いだはずが、いつの間にか極甘に溺愛されています~

Sakuya.

嫁ぎます!お相手は氷の皇子!?

プロローグ : 祝福に愛された食いしん坊王女

「あっ、ライラ! み〜つけたっ♡

フッ……その程度の隠れ場所で、この僕から逃げ切れると思ったのかい?」


勝ち誇ったようなドヤ顔で近づいてくるのは、私の兄、テオドール。

残念ながら、これでも一応、一国の王子である。


「逃げても無駄だと、あれほど言ってるのに。

まったく……僕の手を焼かせるのが上手な、可愛い妹だ」


「お兄様……! 今日も巡回(?)ご苦労様です」


引きつった笑顔のまま、私はそっと一歩後ずさった。


「巡回? いやいや、これは僕の一番大事な仕事、“ライラ捜索任務”だよっ♡」


(その言い方、ほんっとうにやめてほしいんですけど……)


こうして、今日も私の華麗なる逃走劇は開始数分で幕を下ろした。


「さあ、ライラ! 今日はなんと──君には“スペシャルゲスト”として、僕の公務に同行するという重大任務を与えよう。

僕の隣にちょこんと座って、その“国宝級の微笑み”を存分に振りまいておくれ!」


「お気持ちは大変ありがたいのですが……私は今、大切な用が──!」


「どうせ、菓子のつまみ食いだろ? そんなものは後だ!!」


ガシッ。


有無を言わさず腕をつかまれ、そのままズルズルと引きずられていく。

兄の常軌を逸した執念とシスコンぶりは、もはや国中の名物である。


「あっ、待って! せめて…これだけは……!」


手に隠し持っていたクッキーを口につめこみながら、私は心の底からため息をついた。



私、エレドーラ王国の王女ライラは、極度のシスコン兄に悩まされつつも、そこそこ平凡な日常を送っている。


ほんの少しだけ、人と違うところといえば──

世界でも珍しい《祝福の魔法》という光属性の魔法を受け継いでいることくらい。


といっても、大した魔法だとは思ってない。

庭の花を元気にしたり、お菓子をちょっと美味しくしたり。

みんなに、小さな幸せを届ける──ただ、それだけの魔法。


だから私は信じていた。

この平凡で、やわらかくて、温かい毎日が、

明日も、明後日も、その先もずっと続くと。


……あの、一通の手紙が届くまでは。

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