塔の上から真実を暴露する

RUIN

第1話


「リーゼロッテ・アリソン侯爵令嬢!マリアンヌ・フリーゲ子爵令嬢に対する誹謗中傷、窃盗、暴力行為は見るに耐えない!手本にならなければいけない高位貴族として、看過できないことだ!よってここで、私との婚約を破棄する!」


舞台俳優のように、ダンスホールの中心でそう宣言する馬鹿王太子


呆れ果てて、返す言葉もない。

どうせ腕に抱いている女に、晒されでもしたのだろう。

第一、身分社会であるこの貴族社会で、下位のものをいじめていたとしても罪にはならない。

ましてや、こんなふうに断罪される謂れもない。

と言うより、その女に会ったのは今日が初めてだ。

しかもそのセリフ。

最近流行っているロマンス小説のセリフにそっくり。

引用でもしたのだろうか。


言いたいことは色々あるが、婚約破棄してくれると言うのなら、してもらおう。

いい加減、馬鹿の尻拭いはうんざりだ。

ここまできたら、国王も父も許可してくれるだろう。

いくら国王と言えど、貴族が集まる夜会でやらかしたのだ。

宣言を撤回できないだろう。


「おっしゃることは、全く存じませんが、婚約破棄、承知しました。」


このまま夜会に居続けるの無理だろう。

さっさと帰って、寝よう。


私は彼らに背を向けると、夜会会場から堂々と退出した。

そのまま馬車に乗り、王城から侯爵邸に帰ったのだった。




ーーーーー


清々しい朝。

けれど気分はすぐれない。

理由はわかっている。

昨日の騒動だ。


家に帰った後、寝ていたら父に起こされた。

私自身から夜会でのことを聞きたいらしい。

明日にしてくれ、と思った私は悪くないと思う。


父に説明したところ、何故こうなる前に殿下を止めなかったのかと、私が怒られた。


何で?

いや、本当、意味わからない。

そう言うのは、保護者の仕事でしょうに。

私は、馬鹿の乳母でも侍女でも母でもない。

婚約者という名の他人だ。


ただでさえ起こされて苛ついていたのに、さらに油を投下された気分だ。


バキッ


ああ、軽く手を置いたつもりだったのに、机が割れてしまったわ。

お父様?

怯えるくらいなら、そんな戯言を言わなければよかったでしょう?


怯えた父と話にならなかったので、自分の部屋に戻ってもう一度寝直すことにしたのだ。



そして翌朝。


今の気分は最悪だ。

今日の予定は何もなかったはず。

ならば、ストレス発散をしよう。


私はお昼前に出かけることにした。



やってきたのは王都の中心、時計塔。

この塔は王城よりも高いので、普通の人は天辺まで行かない。

私は普通の人には含まれないので、風魔法で一番上まで登った。


そう、私には魔法が使える。

魔法が使えることに嬉しくなって、夢中になって全ての魔法を極めたのだ。

そのことには後悔はない。

だが、だからこそ王太子の婚約者に選ばれたと言ってもいい。


私はこの時計塔の一番上がお気に入りだ。

苛々した時、不満がある時、不安な時、悲しい時…

いつもここにきて、叫ぶのだ。

ここなら誰も聞くことはないから。

ストレスの捌け口にちょうどいい場所なのだ。

だから今日もここに来た。


だが今日は、少し趣向を変えようと思う。

風魔法を最大出力で発動する。


大きく息を吸って……


「先日王太子は、長年尻拭いをさせてきた婚約者に、恋人を腕に抱きながら、婚約破棄を宣言しました!」


うん、よく響く。


「お金が払えなくて泣きつき、仕事を代わってもらい、修羅場を仲裁してもらい、宿題を代わってもらい、壊したものを直してもらう!他にもたくさん、尻拭いをさせた婚約者を、冤罪で陥れました!!」


よし、王都中が騒がしくなった。

この調子で。


「王太子は、婚約者用の予算で、浮気相手に貢いでいます!横領です!国宝を売り捌き、そのお金で花街に行っています!窃盗です!」


風魔法は優秀ね。

どんどんいきましょう。


「王太子は、12歳までおねしょをしていました!15歳まで、ママの胸で泣いて、ヨシヨシされていました!10歳〜15歳まで、侍女やメイドの下着をコレクションしていました!変態!10歳〜今現在も、女性の胸ばかり見て、鼻の穴を広げています!気持ち悪い!浮気して自慢してきます!カス!」


どこかでギャアギャア言ってる気がするが、気のせいだろう、きっと。


「偶然を装って、胸を触ろうとしてきます!変質者!着替え中扉を開けて入ろうとします!クズ!幼い頃はスカート捲りが趣味でした!ゴミ!」


よし、ラストスパート。


「こんな王太子を庇う国王も、甘やかす王妃も、婚約をよしとするアリソン侯爵も!全員、大っ嫌い!!!」


ふう……すっきりした。


私はやっと風魔法を切った。


これから国内が騒がしくなるけど、自業自得と言うことで、頑張ってもらいましょう。


それに、この声が届いているのは国内だけではない。


国外からどんな反応が返ってくるか、とても楽しみ。

国王は、どうやって対処するのかしら。

私は、高みの見物でもさせてもらいましょう。



私の告白は国中を震撼させ、一部は暴動にも繋がった。

国内外から非難を受けた結果、王太子は廃嫡の上で幽閉、第二王子が成人したと同時に、即位させることが決まった。


そして何故か、国外から私宛ての求婚状が多数寄せられた。


いや、本当にどう言うことなのかしら?


悠々自適な生活が送れると思ったら、どんだ計算違いだった。

この求婚状が新たな騒動につながるのだが、それはまた別の話。


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