第21章 北国からの呼び声<緋山 いつき>

2度目のライブの後

最初のリハーサルが終わった。









「これで次のライブに向けて曲も整ったな!」








ヒカルが新曲を作ってきたので

これでオリジナル曲が7曲。







ライブの回数も増やしていけそうだ。








リハの片付けを進めていると

突然スタジオのドアが開いた。








「よ!RED SUNS!

 仙台のバンド“Crayon Bloom”から

 イベントの誘いきたで!」







そういって飛び込んできたのは

devisionerの唯だった。







後ろには吹雪さんもいる。








「お前らどうしてここがわかった?」





ケンが冷静に突っ込む。






「ライブハウスSEEDの

 マネージャーさんから聞いたんよ。

 うちらも2駅先でいつもリハやってんねん」







ケンの無機質な突っ込みに唯が冷静に答える。







「ところで仙台のバンドって?

 ってことは仙台でライブってことか?」







ヒカルが弦を張り替える手を止める。








「うわ、遠征!?マジで?

 ちょっとテンション上がるわ!」


「そ!仙台にあるライブハウスさっ!

 合宿かねて一緒に行っちゃわないかいっ?」







吹雪さんもノリノリのようだ。

しかしアツシは冷静に問題点を問う。








「でも…機材、どうする?」






アツシは腕を組んで唸った。








「電車移動は無理だろ?

 ドラムとかどうするんだよ?

 ケンはバスドラ以外は手持ちだし

 都内でも結構移動は大変なんだぞ?」


「ウン、重くて大変です」





ケンも頷いた。







「そこはウチに任せとき!」






そう言って唯は胸をどんと叩いた。







「お前、何か手ぇあるのか?」






俺はコーヒー片手にぼそっと訊く。







「あるに決まっとるやん。

 ウチんとこの会社、バス余ってるし!」


「会社?」


「“ひまわり医療機器”。おとんの会社!」






ヒカルが「はあっ!?」と

素っ頓狂な声を出した。






「お前、まさかの社長令嬢!?

 初耳だぞ?!へぇー!そりゃ強ぇわ!」


「言わんかったっけ?まあバンドの時は

 カワイイみんなの唯ちゃんで通しとるからな」







唯はケラケラ笑いながらスマホを取り出す。







「ちょい待ち、いま電話するわ」






スピーカーから、穏やかな男の声が響く。







『唯か。久しぶりやな。元気しとるか?』


「元気元気!なあおとん、お願いがあんねん。

 マイクロバス1台貸してくれん?」


『また無茶言いよるなあ。

 お前免許は取ってるんか?』


「あるある!ペーパーやけどな!」


『ペーパーかい……まあええわ。

 安全運転だけはほんま頼むで』


「サンキュー!愛してるでおとん!」







通話を切ると唯は満面の笑みで親指を立てた。







「ほらな!明日バス取りにいこ!」


「すごいホットラインだな…

 社長令嬢ってみんなこんななのか?」






アツシが目を丸くする。







「うちの唯ちゃん、行動派なのよねん」






吹雪さんも笑う。







だが、俺だけが表情を曇っていたと思う。








(…“ひまわり医療機器”

 またその名前を聞くとはなー…)






ヒカルが無邪気に叫ぶ。






「よーっしゃ!令嬢のコネで遠征決定ーっ!!」





唯は笑いながら人差し指を立てる。






「おとんには内緒やで?

 まさか社員が乗っとるなんて

 バレたら、ほんまに“家族会議”なるからな!」


「…それは怖いな…頼むよ」






俺は苦笑いしかできなかった。







(社長の娘と、あの会社の車で仙台に向かう。

 皮肉すぎるだろ、人生ってやつは)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る