Day4-1 会敵と挑発

──そうして迎えた月曜日。


残念ながら祝日ではないので、制服へと袖を通して登校の準備を整える。



「身体の方は大丈夫そう?」


玄関口で母が心配そうに尋ねてくるが、問題ないと言わんばかりにサムズアップで返事を返す。


「今日は無傷で帰ってくるよ」


愛用のスマホは無くなってしまったため、代用として父の旧スマホを借りている。モバイル通信は出来ないが、無いよりマシだろう。


肝心なのは写真撮影と録音機能。その点に関しては申し分無かった。下準備も問題なく出来ているみたいだし⋯⋯。


「いってきます」


隠れて泣くような真似はしない。

真実を確かめるために⋯⋯戦うために俺は学校に行く。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「⋯⋯おや」


学校の玄関口。全生徒が利用する下駄箱のところに、見覚えのある人物が立っていた。


八雲神社で殴ってきた────アカネを魅了状態にしたと思われる人物だ。

人よりも背が高いからか、人混みの中でもよく分かる。それに悔しいことに顔はイケメン寄りだからか、ちょっと放つオーラも違うというか。


(ひと昔前のヤンキー感があるな)


少なくともすぐに手が出る奴だ。誰もいない環境で、一対一で会うのは避けるべきだろう。



(どうやら誰かを待っているようだが、今のうちに調べておこう)


例のアストラルカードを取り出して、遠方にいる彼に向ける。視認性が良くて大変ありがたい。


「『看破』」


するとアストラルカードへ、イラストと共に説明文が出力された。



────────────────

名称:瀬高 ヒイロ


種族:人間


攻撃力:300

守備力:250


2年1組。

八雲高等学校のサッカー部に所属するサッカー部部長。

最近はジッポライターの購入を検討している。

────────────────



「へぇ、サッカー部の部長ってこの人だったんだ」


この高校はスポーツに力を入れているらしいが、興味ないので全然知らなんだ。というかあんなガラの悪い奴が主将なのかサッカー部⋯⋯。


髪の毛も明るい茶色に染めていて、前髪が目にかかりそうなくらい長いし。鬱陶しいから切っちゃえよ。



⋯⋯少し予定が早まるが、宣戦布告でもしておくか。

これもアカネを救うためだ。道化にでもなんでもなってやる。



「おはようございます、瀬高センパイ」


不機嫌そうに腕を組んでいる瀬高へと声を掛ける。


「一昨日ぶりですね。あの後アカネとは仲直り出来ましたか?」



────次の瞬間、間髪入れずに胸ぐらを掴まれた。


「あ〜!! 暴力を振るわれちゃうなぁ!! 怖いなぁ!!」

「てめぇ、調子こいてるんじゃねぇよ!!」

「ひぃ~、恐喝だ恐喝だぁ〜!!」


まさか即座に手を出されるとは思わなかったため内心驚きを隠せないが、一度殴られた事もあってか不思議と怖気付くことは無かった。


「降ろして下さいよ~、朝から騒動を起こすつもりですか、瀬高センパイ?」

「⋯⋯チッ!」


今の状況が判断できたのか、瀬高は捨てるかのように胸ぐらを掴む手を離した。



「どうも。あと早くスマホ返して下さいよ。被害届を警察に出しても良いんですよ?」

「知らねぇよ。テメェが勝手に無くしたんだろうが」

「はぁ⋯⋯。まぁもう既に出してるんですけどね」


──嘘である。警察への被害届は出してない。

昨日は昼まで寝てたから、そんな時間がなかったのである。


しかし瀬高の動揺を誘うには十分効果を持っているようで、見るからに顔色が悪かった。



「もしかしてぇ、警察に対してやましいことでもしてるんですかぁ?」

「んなことしてる訳ねぇだろ!!」


今日の朝一番の大声が玄関中に響き渡る。

俺達の『対話』を遠巻きにみて静観していた生徒らから、ざわざわとした声が聞こえ始めるのが分かった。


「そうですか、奇遇ですね。俺もなんですよ。今度一緒に警察に行きませんか?」

「てめぇ、巫山戯るのも大概に────」




「────そこの男子生徒!朝からなにを喧嘩しているの!!」


朝一番の大声を更新する、とても通る女性の声が一帯を突き抜けた。


「1年3組の鏡宮くん! 2年1組の瀬高くん! 今すぐ2人とも離れなさい!」



そう言って俺達の間に割って入って来たのは⋯⋯この学校の生徒会長であった。確か名前は『天野』だったか?


「週の初めから生徒指導室に呼び出されたくなければ、早く自分たちの教室に行きなさい!」


有無も言わせないとはこのことだろう。

瀬高は勿論、俺にも反論の余地を与える前に、事態の沈静化を図ったのだ。


「は~い」

「チッ⋯⋯」


すると場の緊張が解けたのか、周りにいたガヤの生徒達の時間もようやく動き出す。


生徒会長も去り際に、こちらを睨むように一瞥していった。

大変お手数をおかけしました。だがこれも保身のためなのだ⋯⋯許して欲しい。




(成果の方は、まずまずだな)


アストラルカードで再び瀬高を見てみると、状態異常に【激高】が書かれており、且つ目論見通りの結果を得られていることが確認できた。


むしろそれ以上の成果を得られたともいうべきか──どうやらこのアストラルカードは随分と恐ろしい力のようだ。



それにしても⋯⋯瀬高のヤツ、随分と煽りに弱かったな。

残念ながら口撃による精神攻撃はカードゲーマーの基本スキルなんだ。出直してくるといい。


⋯⋯といいつつも、教室に到着してもなお、足の震えが止まらなかったのは内緒である。

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